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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第三話 一徹の鬼
14/47

3-1

 明治三年、十二月はじめ。

 明治天皇は、度重なる皇務から、ようやっと仮病で抜け出し、お忍びで腹心、ジェームズ・ドニファン中尉を訪ねた。

 ジェームズ・ドニファン中尉のイギリス小隊は、同じ洋式ホテルに滞在していた。

 兵士二名、セドリック・ブラウンと、山崎ピーター・エバンスは、ドニファン小隊長の客人が天皇陛下とは知らないまま、部屋に入って敬礼した。

「Lieutenant Doniphan! We've got a glimpse of the Ezo Republic's movements!

(ドニファン中尉!蝦夷共和国の動向が掴めました!)」

 ドニファン中尉は明治天皇と美味しいモナカを頬張っていたが、モナカを置いて、立ち上がって対応した。

「According to the smuggler list from the British warship, the ones who went to the Ezo Republic were Suzuki Mikisaburo and Todo Heisuke.

(イギリス軍艦の密入国リストによれば、蝦夷共和国へ行ったのは、鈴木三樹三郎と藤堂平助のはずだ。)

 Did you get the details?

(仔細は掴めたのかね?)」

 セドリックが応えた。

「We successfully made contact with police officer Suzuki Mikisaburo.

(警察官の鈴木三樹三郎と接触に成功しました。)

 When we explained that we were Lieutenant Doniphan's subordinates, it turned out that Suzuki Mikisaburo also had something he wanted to say to the Emperor and was looking for a connection.

(我々がドニファン中尉の部下と申し上げたところ、鈴木三樹三郎も天皇陛下に申し上げたいことがあって、ツテを探していたご様子でした。)」

 山崎ピーターが続けた。

「Mikisaburo Suzuki and Heisuke Todo sneaked into the Ezo Republic on a British warship.

(鈴木三樹三郎と藤堂平助は、イギリス軍艦で蝦夷共和国に密入国しました。)

 His goal was to avenge the death of his older brother, Ito Koshitaro, who was a supporter of the Imperial government and opening up the country.

(目的は、尊王開国派の兄、伊東甲子太郎の仇討ちです。)

 However, in the Ezo Republic, the Shinsengumi apparently expressed their desire to carry on Ito Koshitaro's loyalty to the emperor and help solidify the foundations for peace that the Emperor would create.

(ですが、蝦夷共和国で新撰組は、伊東甲子太郎の尊王を受け継ぎ、天皇陛下が作る平和の土台を固めるお手伝いがしたいと、申し上げたそうです。)

 Suzuki Mikisaburo respected his brother's wishes, promised to cooperate with the Shinsengumi, and returned to Musashi Province.

(鈴木三樹三郎は、兄の意思を尊重し、新撰組に協力を約束して、武蔵国に帰りました。)」

「Good job, Cedric Brown and Peter Evans Yamazaki.

(良い仕事ぶりだ。セドリック・ブラウン君。山崎ピーター・エバンス君。)」

 明治天皇が、複雑げに、ドニファン中尉に尋ねた。

「伊東甲子太郎は、まるで未来を語る尊王志士でした。その思想を継いだということは、新撰組はまことに変わったのだろう。わたしの、味方であることは、嬉しいのですが……そもそも、蝦夷共和国そのものが、わたし達の敵国だ。ドニファン中尉よ、どうしたものだろう。」

 ドニファン中尉はたおやかに微笑み、尋ねた。

「天皇陛下は、ロシアをご存じですな?」

 明治天皇は答えた。

「はい。北の強国、ロシア。幸いにも、日の本はロシアと上手くやれておりますが、西欧からしたら、ものすごく骨が折れる大敵だとか。……よもや、あの時の計画を?」

 ドニファン中尉は語った。

「はい。蝦夷共和国が独立したのは、ナポレオン三世の援軍によります。」

「ナポレオン三世を動かしたのは、貴方の手紙だ。」

 ドニファン中尉は笑う。

「欧州はロシアに手を焼かされていますから、ナポレオン三世を動かすのは造作も無い話です。ロシアは、より強い国力強化の為に、港を求めて戦争をしているのです。無論、ヨーロッパで敵わないとわかれば?」

「蝦夷地に……港を取りに、くる。」

「えぇ。今までの日の本とロシアの平和は崩れ去ります。だからこそ、わたし達は蝦夷共和国を独立させ、フランス人による国力強化を認めました。」

「わたしは、蝦夷共和国に、今こそ勅命を与えるべきなのか?」

 ドニファン中尉は明治天皇にニッコリ笑った。

「蝦夷共和国に対ロシア防衛を任じられ、新撰組は貴方様の直属となさればよろしいかと、存じまする。ロシアと蝦夷共和国には、共倒れしていただきます。そして、晴れて平和な日の本を、貴方様が愛し、お守りください。生きた神のおわす日の本に、安寧をお与えください。」

 明治天皇はドニファン中尉の賢さに何度も頷いた。

「さすがだ。貴方を公な相談役に出来たら良いのに……」

 セドリックと山崎ピーターは、会話を聴いて客人が天皇陛下とわかり、最敬礼しながら、ボヤいた。

「Wow, our Army platoon leader is so smart and charming. I'm honored to be his subordinate.

(あぁ、俺達の陸軍小隊長はなんて賢く、魅力的な方だ。部下になれて光栄だ。)

 We too can be of service to Musashi Province under the command of our Captain.

(俺達も、隊長の指揮下で武蔵国の役に立てるんだからな。)」

 セドリックに、山崎ピーターは青白い顔で返した。

「I am also honored to be his subordinate.

(俺も、あの方の部下で光栄だ。)

 But I don't understand...

(だが、わからない……)

 Why does the Captain protect Musashi Province without receiving anything in return?

(何故、何の見返りも無く、隊長は武蔵国をお守りになられるのか?)」

 セドリックが山崎ピーターに答えた。

「Peter was half-Japanese and born in Musashi Province, right?

(ピーターは、武蔵国生まれのハーフだったな?)

 Just like Jesus and Joan of Arc, saints don't ask for anything in return.

(イエス様しかり、ジャンヌ・ダルクしかり。聖者は見返りなんて求めないのさ。)」


 明治四年、一月三日。

 蝦夷共和国の雪は人間が出歩けない程降り積もったが、皆が皆、総出で雪掻きをした。

 土方歳三、度重なるかまぼこの借金に、会計斎藤一の怒号高まり、遂には総帥、榎本武揚に相談すべく、五稜郭まで出廷した。

 然し、総帥、榎本武揚、電報や時報に忙しく、土方の対応どころではない。

「タイ大使館の反対だって!?それを治めるのが君たちの職務だろう!!」

「ただちに、次の手を打って参りまする!」

「榎本さん。」

 榎本武揚は、クタクタながら、土方歳三に振り向いた。

「わかっている。建設現場まで馬車を出してくれ。土方君、馬車の中で話を聞こう。」

 馬車に乗り込み、土方は言い出した。

「榎本さん。実は新撰組は今、金の払いが入用だ。」

「土方君よ。それは、国家から公な場で軍資金の払いがあったとしても、足りないのかね?」

 土方歳三は瞬きした。陸軍でだって、新撰組にそんな権威は無いはずだ。

「公の場?」

 榎本武揚は意気揚々と告げた。

「以後の給与は今までの比では無いぞ。今は亡き御陵衛士、伊東甲子太郎殿が、武蔵国に取り成して下さったかのようだ。実弟、鈴木三樹三郎殿が、君らと何を話し合ったかは知らないが、彼は武蔵国に戻り、天皇陛下のツテある人物に、新撰組は先駆けであった御陵衛士、伊東甲子太郎の思想を継いだとお伝え申されて、天皇陛下はついに敵対姿勢を解除なさり、蝦夷共和国に武蔵国大使館の建設、及び大使の派遣をお許しになられたのだ。ようやく、敵対国扱いから、和平へ来たところだよ。ただ、蝦夷共和国が武蔵国の属国になるのではと、タイやベトナムの移民達は不安がっているから、安心させなくてはならんよ。並びに、こんにちより、新撰組は天皇陛下の指揮下に入る。心の準備は出来ているかね?」

 土方歳三は、あまりの事態に声が出ない。

「……マジか。蝦夷共和国が、和平し……新撰組が、天皇陛下の直属に?」

「これにより、今まで新撰組に戻るべく、待っていた隊士達も、武蔵国の軍艦で合法的に送り出されることと相成った。鈴木君と君たちに何のやり取りがあったかは知らないが、これは蝦夷共和国の和人全員の願いが届いたことに等しい。我らは、こんにちより正式に武蔵国の守りとなるのだよ。」

「そうか……そいつァめでてぇや。」

 二人は大使館建設地で馬車を降り、建設現場から榎本武揚が振り向いた。

「然し……天皇陛下は新撰組に筆頭局長を送るとお申しになられた。海外貿易の代表を降りてまでお越しなさる方で、芹沢鴨さんという、とても有能で大柄な方だというが……」

「!!……そうか。芹沢がついに、来たか……。」



 壬生狼チャンバラ

 第三話 一徹の鬼

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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