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壬生狼チャンバラ  作者: 燎 空綺羅
序章 第二話 夢を唄う鳥
10/54

2-5

 慶応三年、三月十日。

 晴れて伊東甲子太郎一派は朝廷から、孝明天皇の御陵をお守りする御陵衛士と認められ、近藤勇を説得して離反した。

「伊東先生……連れて行く隊士を少なく限って申し訳ないが、吾輩も伊東先生の知恵を失います。これで、尊王を夢見る新撰組の軍師、武田観柳斎までいなくなっては、新撰組に学術師範が消えてしまう。」

「大丈夫よ、近藤さん……わたしはずっと近藤さんに手紙を書くし、新撰組だって丸ごと助けてみせるわ。」


 御陵衛士として、伊東甲子太郎派十三名は、五条橋東詰の、善立寺に移り住んだ。


 ある尊王志士達の会合で、御陵衛士は伊東甲子太郎を代表に、坂本龍馬、桂小五郎と同席した。

「伊東さんは、なんと新撰組から脱出なされた尊王の先生じゃき。わしなぞは、新撰組が通るたびに、妻まで置いて隠れちょる。まぁ、妻は強い人だがじゃ。」

 中岡慎太郎などは、龍馬を庇って伊東に尋ねた。

「わしらは、大事を控えております。伊東先生は、しっかり新撰組とは、縁を切られただろうか?」

 伊東甲子太郎は凛々しく応じた。

「坂本君達が、大政奉還を控えて鬼気迫る状態なのは、承知しているわ。けれど、尊王を叶えたその後の日の本をも、責任持って考えなければ。」

「……新撰組と、どう繋がるお話か?」

「Well Well Well……

(おやおや)

 この先の未来。新しい日の本を作るわたし達が、時代に取り残された幕臣を説得せずして、どう無血開国と言えるのかしら?わたし達の言の葉次第で、日の本は一致団結出来るかもしれない。或いは……わたし達が彼らを説得せねば、新しい戦に和人の血が流れるでしょう。わたしは、尊王の未来に幕臣すら安寧を得る世の中を望む……だから、近藤勇への説得の手紙は続けているわ。」

 桂小五郎がキッパリ言い放つ。

「敵を安寧の世の中に導く言われがあろうものか!勘違いなさるな、伊東さん!幕府など和人では無い!夷狄同然だ!!」

 坂本龍馬が桂小五郎を宥めた。

「桂さん、今はわしじゃってグラバー商会から船やミニエー銃なんか買っちょるし。海外のすべてが夷狄じゃあないきに。わしの商売は、海援隊の海外貿易を目指しちょる。じゃが、伊東先生も伊東先生ぜよ。わしは、貴方の縦白の写しを見たき、開国と貿易を進言なさっちょる貴方を信頼するが……幕臣を助けようなどとは、周りに疑われちょっても仕方なきことじゃき。勝先生ならともかく、そこはわしすら理解できんがよ。貴方が菩薩じゃったとしても、わしらは幕府に仲間を殺された恨みがある、血肉を持った人間じゃきに。」

 坂本龍馬に、伊東甲子太郎は進言した。

「血で血を洗う未来を、坂本君はお望みかしら。」

 坂本龍馬は、伊東甲子太郎の言い分は解るが、溜息をついた。

「伊東先生、わしは大政奉還とて、将軍、徳川慶喜が呑まなくば、海援隊総出で徳川慶喜を斬る覚悟じゃ。貴方のような弁舌を、わしは持たん。一介の勝先生の弟子にすぎんき。もし、伊東先生の大政奉還なら、違うのやもしれん。日の本の皆が、平和になるのやもしれん。」

 伊東は、坂本龍馬に力添えした。

「貴方が悪いのではないわ。皆、役割が違うだけ。皆、得意不得意があるのよ。わたしで良ければ、縦白書に協力しましょう。」

 坂本龍馬は笑った。

「恩に着るぜよ。そうじゃった。縦白さえ上手ければ、血は流れんがじゃ。」

「同和一心。倒幕では無いと書けば、将軍だって意地悪しないはずよ。」

 中岡慎太郎と桂小五郎は目で会話した。

 坂本龍馬が取り込まれたが、我らは伊東を信頼して溜まるか、という結託であった。


 結果的に、御陵衛士は、尊王志士達から新撰組との内通を疑われ、信頼を得ることは出来なかった。

 事実、伊東は近藤に重ね重ね手紙を書き、朝廷と新撰組の和解に尽力していたのだ。


 大政奉還は、慶応三年、十月十四日に、無事に果たされた。

 しかし、それは大政奉還に動いた尊王志士達の危機でもあった。


 伊東甲子太郎は坂本龍馬のいる近江屋へ走って行き、坂本龍馬に対面す。

「伊東先生、どうなされたがじゃ?」

「お偉い役人職にもつかずに、どうなさったのかは、わたしが聞きたいわね。護衛一人つけずに、危なっかしいわ。」

 坂本龍馬はニッコリ笑った。

「役人は御免じゃ。わしゃあ、海援隊をやりたいき。」

 伊東甲子太郎は告げた。

「ならば、しばしは土佐藩邸に匿って貰うべきだわ。貴方が心配で来たのよ。坂本君、貴方はもう一介の坂本龍馬では無い。刺客だって差し向けられるわ。」

 坂本龍馬は、苦笑した。

「土佐藩邸は、堅苦しいき……わしゃあ、自由な身でいたいがよ。心配、ありがとう、伊東先生。」


 慶応三年、十一月十五日。

 坂本龍馬、暗殺。

 近江屋事件である。

 この暗殺は、新撰組によるものと信じられ、土佐藩から近藤勇は深い恨みを買った。


 伊東甲子太郎が、近江屋前での人集りに歩み寄り、坂本龍馬らの死を悼む。

「坂本君、中岡君……わたしも、恐れはしないわ……。」

 イギリス人中尉が、伊東甲子太郎に歩み寄った。

「Ito-san, aren't you also in danger?

 If you don't hide, you'll end up like Sakamoto-kun.

(伊東さん、貴方も危ういのではありませんか?身を隠さねば、坂本君の二の舞だ。)

 There are traitors among your ranks.

(貴方の仲間には、裏切り者もいる。)」

 伊東甲子太郎は彼に応えた。

「...I know that there is a traitor.

(……わかってはいるわ。裏切り者がいることぐらい。)

 There is no place for me in the Shinsengumi.

(わたしには、新撰組に居場所は無い。)

 I know, I know.

(わかってる。わかってはいるわ。)

 Still, we must persuade the Shinsengumi and correct them.

(それでも、新撰組を説得し、正さなくては。)」

 イギリス人中尉は、伊東を哀れんでいるようにも見えた。

「It would be in your best interest not to respond.

(応じない方が貴方の為です。)

 Beware of their traps.

(彼らの罠に気をつけなさい。)」


 御陵衛士達は、伊東甲子太郎を呼び出し、一同に座していた。

「英語の学びをほったらかして、なんの用かしら?」

 この頃、伊東は仲間に英語を学ばせていた。

 御陵衛士達は、集って口々に告げる。

「伊東先生のお考え深く、ようやく御陵衛士にまでなり申したが、やはり新撰組が我々の足を引っ張っております。」

「このままでは、信頼を得られず、我らは新撰組と共倒れです。」

「我らで近藤勇を討ち取り、尊王志士への手土産にするのは如何か。」

 聞いた藤堂平助が真っ青になり、言い争った。

「横暴を申されるな!何故、伊東先生が手紙を綴るのがわからぬのか!?」

「しかし!我らにとって、もはや近藤勇は足枷です!!」

 服部武雄が、気のはやる皆を制した。

「皆さん、お辞めなさい。藤堂君の言う通りです。なんて気の早いことを。伊東先生は、人殺しなど唄ってはいませんよ。新撰組をすら助けようと、日々尽力なさっておられます。」

 斎藤一が詰問した。

「服部さん、あのね。尊王志士の信用は理想だけじゃあ得られないでしょ。伊東先生だってわかってんでしょうよ。袂をわかった新撰組を助けるなんて、無理でしょう?現実見なよ!アンタだって菩薩様じゃない、精一杯やってんのはわかる。でも、限界はあるんだから。」

 斎藤一にも、共にいる程辛みがあった。

 いっそ伊東が悪党なら、どれだけ楽か。

 伊東甲子太郎は目を伏せた。

「斎藤君。御陵衛士は人殺しはしないわ。いまは皆気が立っていて、すぐにも信頼を得る解決手段が欲しいだけよ。それに、近藤局長とは和解したわ。確かにわたしは人外じゃないし、苦しみをわかってくれるのは有り難いけど……わたしの手が届く範囲は、説き伏せて助けたい。その為に人間には言の葉がある、対話すべきだわ。」

 斎藤一は、もう諦めた。

 事実だけ話して、土方歳三を止めよう、と、意を決し、御陵衛士からずらかる為に馬鹿のフリを演じた。

「へぇ。でもまぁ、話が通じない輩はわんさかいるんだから、伊東先生も無茶しないでね。あ、悪いけど金子用立ててくれない?ちょっとツケが回んなくてさ。伊東先生金回りいいんでしょ?」

「……博打は控えてちょうだい斎藤君。まぁ、斎藤君はきちんと返すから、貸しましょう。いざという時に護衛がいないのでは困るわ。」

「はいはーい。ちょっとごめんね、いってきまーす」

 金子を貰った斎藤一は走り出す。

 見えなくなってから、御陵衛士達は次々と斎藤一を愚痴った。

「参った人だなぁ〜。斎藤さん、昔の方が真面目だったよな?」

 藤堂平助まで、斎藤一に欺かれて、愚かさを信じた。

兄様(あにさま)!斎藤は怪しいです!斎藤の話してた遊び場の賭博場を洗ったら、斎藤一など一度も来たことが無い、と。」

「そうでしょうね。斎藤君は派手なことは嫌いだし、お酒だって一人酒を好む人だから。」

 伊東の反応に、三樹三郎は怒った。

「兄様!!斎藤が裏切り者だとわかっていて、庇っていたのですか!!」

 伊東は耳を抑えた。

「口うるさいわね三樹?斎藤君が心無い密偵なら、庇いやしないわよ。わたしは、斎藤君とも対話してきたつもりよ。」

 御陵衛士達はざわつき、申し上げた。

「伊東先生、近藤局長を土産にしないなら、斎藤一の首を土産にすべきです。」

「伊東先生、実際どうなのです。幕臣の首は、早い話ですよ。」

「……嫌な話ね。何度も言うけど、早まらないでちょうだい。対話で相手の腹の中を確かめましょう。わたしが近藤局長をお酒に誘ってみるわ。あの人は嘘はつかない、必ず説き伏せて、新撰組を変えてみせましょう。近藤さんは、最後には私たちを送り出してくれたわ。その恩義を返さずして、何が御陵衛士かしら?」

Copyright(C)2026 燎 空綺羅

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