第八話
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放課後。
石原が校門を出たところで、見覚えのある姿が手を振っているのが見えた。
「先輩ーー!」
緒山が小走りで駆け寄ってくる。髪がふわふわと揺れていた。
【緒山朋奈の感情:緊張34@#*$】
「何の用?」
「歩きながら話しましょう!」
彼女は自然に石原の隣へ並ぶ。石原は何も言わなかったが、追い払うこともなかった。
しばらく歩いたあと、緒山が口を開いた。
「あの……昼のことなんですけど」
「内緒だよな?」
緒山は少し驚きながら笑う。
「読心術ですか!?」
「顔に書いてある」
「ふふっ」
彼女は歩くペースを落とし、少し声をひそめた。
「実は……このこと、先輩にしか話してないんですよ」
石原は返事をしなかった。
二人は並んで駅へ向かい、しばらく沈黙が続く。
石原は、昼の静止した世界で見た、あの無防備な背中を思い出した。
(なんで……そんなに俺を信じるんだ?)
その考えがまた浮かぶ。
昼から今まで、それは何度も考えたことだった。
まだ知り合って二日しか経っていない相手が、自分にそんな大事な秘密を教えてくれた。
能力を使って、別の世界に連れて行って、「あなたにだけ教えてる」って笑って言った。
理解できない。こんなふうにされたことは、今まで一度もなかった。
「先輩?」
緒山の声が彼を引き戻した。彼女は首をかしげ、夕日の中で瞳を輝かせている。
「また難しいこと考えてるんですか?」
石原は一瞬驚いたあと、「……どうして分かるんだ?」と聞いた。
「だって、先輩の眉が――」
彼女は指を伸ばして、彼の眉間をちょんと指した。
「ここがぎゅってなってるときは、考えごとをしてるんですよね」
石原は無意識に自分の眉間に触れて、自分がからかわれていることに気づいた。
緒山は手で口を押さえて、くすくす笑う。
「先輩って、ほんと分かりやすい!」
石原はため息をつき、手を下ろした。
だが、なぜか彼女にこんなふうにからかわれると、胸の中の重さが少し軽くなった気がする。
「そういえば先輩、」
緒山が突然振り返り、瞳をさらに輝かせた。
「私、計画があるんです!」
「……計画?」
「青春取り戻し大作戦!」
石原は一瞬、呆気に取られた。
「それ、何だよ……」
「先輩に、もう一回ちゃんと学校生活を楽しんでもらうための計画です!」
緒山は指を折って数え始めた。
「第一ステップ、部活に参加すること――」
「え?」
「先輩、今、どんな部活に入ってるんです?」
「……帰宅部」
「それ、まだ参加してないってことですよね! 第二ステップ、学校の大きな行事に参加! 来月体育祭があるけど、先輩、どの競技に出るんですか?」
「……病欠するつもりだ」
「えーっ、ずるいですよ!」
緒山はじっと石原を見つめた。
石原は思わず視線をそらした。
彼女はわざと声を伸ばしながら、少し近づいてくる。
「第三ステップ――友達を作る!」
石原は後ろに下がった。
「今、ちょうどお前と話してるだろ」
「それはダメ! 私は勝手についてきただけだから、先輩が自分から友達作ったことにはならないの!」
石原はその理屈に言葉を詰まらせた。
「それでね、」
緒山はポケットからスマホを取り出し、画面を開いて石原に見せた。
「第一歩として、生徒会に入ってみるのはどう?」
画面には、春野からのメッセージが並んでいた。
最上部には春野のアイコンがあり、その下にいくつかのメッセージが並んでいた。
「緒山、書記が進学の都合で辞めたから、早く次を捕まえてくれ! できれば二年がいい。学校にも慣れてるし、何より使いやすいだろ」
石原は少し顔を上げ、彼女を見つめた。
「これは……」
「会長からの直接の指示よ!」
緒山は胸を張りながら、得意げに言った。
「私、緒山朋奈。泉方新高の生徒会副会長として――先輩がその気なら、正式に生徒会書記に任命できます!」
「それ、会長のセリフだろ」
石原はしばらく黙り込んだ。
生徒会。毎日、人と関わらなきゃいけない場所。
終わりのない感情タグと、嫌でも向き合うことになる場所だ……
断るべきだ。
……本当なら。
でも、緒山の輝く瞳を見つめると、昼間の静かな世界で見た、あの無防備な背中を思い出す。
「……考えておくよ」
「やった!」
緒山は拳を握りしめ、嬉しそうに言った。
「第一歩、成功!」
電車が駅に到着し、二人は乗り込んだ。窓際の席に座ると、外の景色が流れていく。
しばらくの沈黙のあと、緒山が再び口を開いた。
「さっきの『大作戦』、本気ですからね」
「分かってる」
「だから、先輩、ちゃんと考えてくださいね!」
「……分かった、分かった」
緒山はにっこりと笑い、頬杖をついて窓の外を見ていた。
電車が揺れながら進んでいく中、外の街灯が次々と通り過ぎていく。
石原は目を逸らし、窓の外をじっと見た。
(生徒会か……)
春野の言葉が浮かんできた――
「ここは、きっとお前にとって、今までとは違う場所になるかもしれない」
違う場所。
あのときは、そこまで深く考えもしなかった。
電車が次の駅に到着し、二人は順番に車両を降りた。
ホームには少し冷たい風が吹いていて、緒山は腕を抱えながら小走りで歩き出す。
石原はその後ろに続き、街灯に伸びた彼女の影を見つめていた。




