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見える感情、見えないまま  作者: 颍川
第二章 出会い――彼女の感情だけが、読めない(2)
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第八話

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放課後。

石原が校門を出たところで、見覚えのある姿が手を振っているのが見えた。


「先輩ーー!」


緒山が小走りで駆け寄ってくる。髪がふわふわと揺れていた。


【緒山朋奈の感情:緊張34@#*$】


「何の用?」


「歩きながら話しましょう!」


彼女は自然に石原の隣へ並ぶ。石原は何も言わなかったが、追い払うこともなかった。

しばらく歩いたあと、緒山が口を開いた。


「あの……昼のことなんですけど」


「内緒だよな?」


緒山は少し驚きながら笑う。


「読心術ですか!?」


「顔に書いてある」


「ふふっ」


彼女は歩くペースを落とし、少し声をひそめた。


「実は……このこと、先輩にしか話してないんですよ」


石原は返事をしなかった。

二人は並んで駅へ向かい、しばらく沈黙が続く。


石原は、昼の静止した世界で見た、あの無防備な背中を思い出した。


(なんで……そんなに俺を信じるんだ?)


その考えがまた浮かぶ。

昼から今まで、それは何度も考えたことだった。


まだ知り合って二日しか経っていない相手が、自分にそんな大事な秘密を教えてくれた。

能力を使って、別の世界に連れて行って、「あなたにだけ教えてる」って笑って言った。


理解できない。こんなふうにされたことは、今まで一度もなかった。


「先輩?」


緒山の声が彼を引き戻した。彼女は首をかしげ、夕日の中で瞳を輝かせている。


「また難しいこと考えてるんですか?」


石原は一瞬驚いたあと、「……どうして分かるんだ?」と聞いた。


「だって、先輩の眉が――」


彼女は指を伸ばして、彼の眉間をちょんと指した。


「ここがぎゅってなってるときは、考えごとをしてるんですよね」


石原は無意識に自分の眉間に触れて、自分がからかわれていることに気づいた。

緒山は手で口を押さえて、くすくす笑う。


「先輩って、ほんと分かりやすい!」


石原はため息をつき、手を下ろした。

だが、なぜか彼女にこんなふうにからかわれると、胸の中の重さが少し軽くなった気がする。


「そういえば先輩、」


緒山が突然振り返り、瞳をさらに輝かせた。


「私、計画があるんです!」


「……計画?」


「青春取り戻し大作戦!」


石原は一瞬、呆気に取られた。


「それ、何だよ……」


「先輩に、もう一回ちゃんと学校生活を楽しんでもらうための計画です!」


緒山は指を折って数え始めた。


「第一ステップ、部活に参加すること――」


「え?」


「先輩、今、どんな部活に入ってるんです?」


「……帰宅部」


「それ、まだ参加してないってことですよね! 第二ステップ、学校の大きな行事に参加! 来月体育祭があるけど、先輩、どの競技に出るんですか?」


「……病欠するつもりだ」


「えーっ、ずるいですよ!」


緒山はじっと石原を見つめた。

石原は思わず視線をそらした。


彼女はわざと声を伸ばしながら、少し近づいてくる。


「第三ステップ――友達を作る!」


石原は後ろに下がった。


「今、ちょうどお前と話してるだろ」


「それはダメ! 私は勝手についてきただけだから、先輩が自分から友達作ったことにはならないの!」


石原はその理屈に言葉を詰まらせた。


「それでね、」


緒山はポケットからスマホを取り出し、画面を開いて石原に見せた。


「第一歩として、生徒会に入ってみるのはどう?」


画面には、春野からのメッセージが並んでいた。

最上部には春野のアイコンがあり、その下にいくつかのメッセージが並んでいた。


「緒山、書記が進学の都合で辞めたから、早く次を捕まえてくれ! できれば二年がいい。学校にも慣れてるし、何より使いやすいだろ」


石原は少し顔を上げ、彼女を見つめた。


「これは……」


「会長からの直接の指示よ!」


緒山は胸を張りながら、得意げに言った。


「私、緒山朋奈。泉方新高の生徒会副会長として――先輩がその気なら、正式に生徒会書記に任命できます!」


「それ、会長のセリフだろ」


石原はしばらく黙り込んだ。


生徒会。毎日、人と関わらなきゃいけない場所。

終わりのない感情タグと、嫌でも向き合うことになる場所だ……


断るべきだ。

……本当なら。


でも、緒山の輝く瞳を見つめると、昼間の静かな世界で見た、あの無防備な背中を思い出す。


「……考えておくよ」


「やった!」


緒山は拳を握りしめ、嬉しそうに言った。


「第一歩、成功!」


電車が駅に到着し、二人は乗り込んだ。窓際の席に座ると、外の景色が流れていく。


しばらくの沈黙のあと、緒山が再び口を開いた。


「さっきの『大作戦』、本気ですからね」


「分かってる」


「だから、先輩、ちゃんと考えてくださいね!」


「……分かった、分かった」


緒山はにっこりと笑い、頬杖をついて窓の外を見ていた。


電車が揺れながら進んでいく中、外の街灯が次々と通り過ぎていく。


石原は目を逸らし、窓の外をじっと見た。


(生徒会か……)


春野の言葉が浮かんできた――


「ここは、きっとお前にとって、今までとは違う場所になるかもしれない」


違う場所。

あのときは、そこまで深く考えもしなかった。


電車が次の駅に到着し、二人は順番に車両を降りた。


ホームには少し冷たい風が吹いていて、緒山は腕を抱えながら小走りで歩き出す。

石原はその後ろに続き、街灯に伸びた彼女の影を見つめていた。

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