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93 新たなボス

 海を切り裂いて進んでいく、年季の入った海賊船。

 最近は大型の商業船ばかりに乗っていたからか、なんだか思ったより小さくて違和感がある。


 それ以上に、舵を握っているのがヴィストじゃない事の方が違和感あるけど。


「……これはあいつらに聞いた事なんだけどよお」


 舵の動かし方、体重の乗せ方、立ち方全てにヴィストの面影を感じる。

 ずっとボスにあこがれて、その背中を見続けてきたんだろうな。


「当時、王家の血を引いた子が生まれたとき……なんか知んねーけど、余計なもんが生えてたせいで、忌子として隠された子がいたらしいんだよな」

「余計なモノ……?」

「あぁ。色々と噂はあんだけどよ、ヴリムの子なのに小さな尻尾が生えてたんじゃねえかって話もあんだ。そんで……アニマの奴、どうも昔から尾骨(びこつ)のあたりに明らかな怪我の跡があんだよな」

「尾骨に怪我……ですか」

「ああ。そんときはみんなただバカにしてるだけだったんだけど……そういう事だったんだなって」


 ……なるほど。

 アニマの過去を聞いたときも、そこそこ高貴な立場の人なんだろうなとは察せたけど……

 それにしても、王の血を直接引いているレベルだったとは。


「ところで……船を出したはいいですけど、どうやってウルグガルグに上陸するつもりなんですか?」

「それは……ノリでなんとかするしかねーな」

「……はあ」


 まるで成長していない。よくそんなんで臨時ボスを任されたな。


「そう言われると思って……一応ニーアさんに頼んで、通商許可証を偽造してもらってきましたよ」

「おおマジかよ、やるじゃねぇか! やー流石はニーアだな、本物にしか見えねえぞコレ!」


 なにを無邪気に喜んでこいつは。というか……


「ニーアさんって、サピアなんですよね? さっきも思ったんですが……ヴリムの皆さんって、サピア相手でも普通に接せるものなんですか?」


 俺の疑問に、ズーは少しだけ考え込む。


「んー……どうだろうな……。やっぱ、尻尾が見え隠れするだけでちょっと抵抗はある。けどよ、色々と無理にでも接してると……憎まなきゃいけない理由も分かんなくなってくんだよな」


 憎まないといけない理由……か。


「未だに獣人族の内戦について、あまり詳しいことが分かってないままなんですが……ズーさんは、直接経験したわけじゃないんですよね?」

「ああ。終戦は俺がまだガキの頃だからな。でも話は難しくねーよ。獣人族には尻尾のあって小柄なサピアと、尻尾がなくて大柄なヴリムのふたつが居るだろ? 歴史的にはずっとヴリムの方が偉かったのよ」


「原始的な国家ってそうですよね。力の強い種族が王を立てて、支配力を持つ……みたいな」

「それがな、国がでかくなるにつれて、頭のいいサピアがだんだんと力をつけていくようになったんだよな。それを不公平だって、サピアが文句を言い始めんだ。でもそれって、ヴリムからしたらうぜーだろ?」


 力だけが法の時代から、官僚が力を持つようになる時代になったわけか。

 ヴリムの持つ強さよりも、サピアの持つ賢さの方が必要になって来た……と。


「なかなか血なまぐさい争いが続いたらしいな。ヴリムを支持してたはずの有力者が、次の日にはころっとサピア派に寝返ってたり……悪けりゃさらし首にされてたり」


 なんだかアニマが言っていた話を思い出すな。

 大々的な戦争というより、水面下での戦いが続いていたわけだ。


「どんどん対立が激しくなってく中で、とうとう王がサピアを国外に追放する命令を出して……そっから全面戦争になったんだ。結果はまぁ、知ってのとおりだけどよ」

「ヴリムの武力をもってしても敗けたという事は……今みたいな工作とか策略でサピアは勝ったんですか?」

「ああ。だから戦争を経験したヴリムはサピアの奴らが死ぬほど嫌いなんだ。サピアは正々堂々戦わない卑怯者だってな。けどまあ、サピアからすれば力が強いってだけでふんぞり返って、自分たちを押さえつけるクソ野郎に見えてたんだろうよ」


 そんなことを言って、ズーは自嘲気味に笑う。


「……ずいぶん公平な立場でモノを言いますね」

「あぁ、ボス世代の船員に聞けば、そりゃーもうヴリム側の意見しか言わねーぞ? サピアどもを悪魔かなんかみてーに言うし、やつらは全員その手で殺してやりたいと思ってる奴も多いし」

「それで、良くその思想に染まりませんでしたね」

「いや、俺もそう思ってたぞ」


 あっけらかんと、ズーは否定する。

 ならなぜ、と聞き返すより前に、ズーは口を開いていた。


「なんだろうな。たぶん、この考えが変わったのは最近だと思う。それこそニーアと喋ったり、オニキスとアニマから数学を習うようになってから……色々考えるようになったんだよ。自分の知ってることは、世界のほんの一部なのかもなって」


 オニキスの名前を上げるとき、ズーの舵を握る手が少し強くなった。


「そう思う事すら、前は無かったんだよな。どれだけ自分が知らないかを知った時に、なんかおかしいなって思ってな。こんなに知らないのに、何かを分かった気になるのは変だよな? それでニーアにも話を聞いたりしてみたんだ。だから…………おい、どうしたロナ?」

「い、いえ……少し、ほろっと来たというか。あれだけアホの代名詞みたいな感じだったのに……」

「あ、あぁ⁉ テ、テメェ……ぶち殺すぞ……⁉」

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