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92 一筋の光明

「……そうだったのか。すまねぇ、あいつらには強く言い聞かせておく。ボスの事は、お前のせいじゃねえ」

「あ、あまり彼らを責めないでください、彼らのやり場のない怒りも分かりますから……」

「そうは言っても、ダメなもんはだめだ。ニーアも、本当に申し訳ねぇ」


 事情を話すと、ズーはすんなりと理解してくれた。

 海賊たちは仕事へ戻らされ、傍に控えていたニーアさんにズーは頭を下げる。


「それで……ヴィストさんは今、重篤な状況なんですか」

「……あぁ。だけど、誰にやられたかは分からねーんだ。……おかしいんだよ、マジで。会社の倒産も、オニキスが殺されたのも、全部急すぎてよ。絶対、何かが裏に居るんだ。それは分かってんのに……」

「そう、ですか……」


 ぎりっと歯を食いしばるズー。

 ……なんて声をかけてやればいいのか。

 その原因(・・)が分かっているような気がするだけ、余計にわからない。


「もう……どうしようもねーのかな、俺ら」

「ど、どうしたんですか。弱音なんてらしくない」


 これだけ落ち込んでいるズーは始めて見た。

 そのままズーは、俯いてため息を吐く。


「いま、ゲティアはヤバい状況なんだろ? 王国はこのままの勢いでゲティアを取って、島の反対側を制圧する気だって言うし……」

「……そのようですね」


 遡行はもう、残されてない。

 四大国を相手取って戦うのは、どう考えても不可能だ。

 なのに、ヘロシュとの交渉手段も、ユゴルアとの交渉手段も潰されたら……


「……お伝えしようか迷ったのですが」


 ……ニーアさん?

 俺たちは驚きながら、獣人の方を振り向く。

 ニーアさんは胸の前に片手を握り、ためらいを振り切るように顔を上げた。


「ウルグガルグの態度急変について。お二人は、おかしいとは思われませんか」

 

 ウルグガルグの態度、か。

 ズーはあまりピンと来ていない様子だが、俺は少し心当たりがある


「それは……思っていました。先日の偽書看破事件以来、ウルグガルグと王国の関係はあまり良くなかったはずですから」

「はい。あの事件でウルグガルグは、公的に文書偽造の説明を求め……王国はそれに反発していました。それどころか王国は、ウルグガルグは魔族の手先だとも罵る声明を出しております」

「あー……。そういやなんか話を聞いたな。そこの中が悪くなった代わりに、ゲティアとの通商が開かれたって。最近、質のいい鉄鉱が入ってくるようになったのはそれきっかけなんだろ?」


 ズーが頭を掻きながら言うと、ニーアさんは頷く。


「そういやおかしいな。こないだの王都侵攻じゃ、ウルグガルグ軍が援軍として駆けつけてたんだろ?」

「その裏には、急な先王の死と交代があるのでございます。もとより人間族に不信感を持つヴリムの先王が無くなり、より融和的なサピアが王に……」

「は、はあ……⁉ 王に、サピアが⁉」


 ……急に大声を出すな、びっくりした。

 ウルグガルグの常識は知らないが、ズーの反応を見るに、おかしなことなんだろう。


「なーんでロナお前、ピンと来てねぇ顔してんだよ! 王だぞ⁉ ウルグガルグ王に、サピアなんかが立てられるなんて……」

「……なんかすごい人種差別を感じますけど。でも、種族が違うってことは……血筋も違うって事ですよね? それは確かに変な気もしますが」

「ウルグガルグ内戦のときに、王の血筋は殺されたり国外逃亡したりで……ほぼ途絶えたって聞いたな。だから後継者が居ないって話は聞いちゃいたけどよ」


 なるほど。そう考えると、これまで王がヴリムのままだった方に違和感を覚えるな。

 内戦でヴリム側は負けたはずだし。


「先王はサピア側に都合よく仕立てられた傀儡なのでございます。もとより王になれる位置に居なかったものを王の座で釣り、機密情報を引き出しておりました」

「そうだったのか。にしてもニーア、お前やけに詳しいな」

「…………」


 ふいと視線を逸らすニーアさん。

 あまりツッコまれたくはないところらしい。

 ずいぶんきな臭いな。


「……とにかく。新たに建てられたサピアの王に対し、ウルグガルグ国内では反対の声が多いのです。そのせいで正式な戴冠が延びており……現在、正式にはウルグガルグに王はおりません」

「王が居ない? なのに軍を動かして他国に派遣するって相当……」

「これもまた、国内で非難が上がっている点です。正式な王でもないものに命を預けて戦う事は出来ないと」

「ウルグガルグは徴兵制でやってっからな。納得しねえ奴も良そうなもんだ」


 腕を組むズー。

 前例のない新たな王に、それに満足しない民衆か。

 話を聞くに意外と不安定な状況なんだな、今のウルグガルグは。


「ですのでここに、介入する隙がございます」

「介入ったって……ゲティアにいる俺らに何ができんだよ」


 頭を掻くズーに、ニーアは視線を上げて。


「正統な王位継承者を、立てるのです」


 そう、言い放った。

 眠そうにあくびをしかけていたズーは一度凍り付き、ゆっくりと口を閉じると。


「何言ってんだ?」

「正統な、王位継承者です。ウルグガルグ内戦の末、かの地から逃がされたその子を、再びウルグガルグの地へ送り届けるのです」

「そ、そんな奴どこに……」

「心当たりが、あるのでは? あなたがた海賊の中に」


 海賊の中……か。

 じっとズーを見上げるニーアさん。

 怪訝な表情をしていたズーが、徐々に変わっていく。


「お、おい、それって……⁉」

「申し訳ありませんが、これ以上は申し上げられません。私はこれで」


 去っていくニーアさんの姿を見届けると、ズーはこちらを振り向き。


「……おいロナ、もしかして同じやつのこと考えてるか?」

「そう……かもしれませんね。船は、残ってるんですか?」

「あたりめーよ。船は海賊の命なんだ、差し押さえのときはアジトに隠して何とか凌いだぜ」


 いつの日かヴィストが言っていた『サピアたちが殺したがってるやつ』ってのは……これのことだったのか。


 一筋、刺した光明。


 この絶望的な状況も、一国を味方につけることさえ出来れば……!

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