表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/119

80 エンデ海戦

 黒の魔族軍旗と赤の王国軍旗がはためく、エンデ港の近海。


 双方が同等の兵器を持つ以上、しびれを切らした方が負けになる勝負。

 互いが致命的な射程距離に入ることなく、戦況は膠着状態にあった。


「リ、リヴィゼ様……? あの獣人のガキはなんなんで……?」

「……気にしないでいいわ。おまえたちもいいから! さっさと火薬の準備をしなさい!」


 船の上には沢山の魔物兵が、好奇の目で獣人の子供を見つめている。

 魔族至上主義のリヴィゼが他種族を自分の船に乗せた、それだけで周りは驚いているのだが。

 彼は床に広げられた紙の上で、四つん這いになりながらペンを動かし続けている。


「でも……あそこにいられちゃ邪魔ですぜ? それに、こんなところで死なれても……」

「るっさいわね、良いから持ち場にもどれって言ってんの。すぐに戦闘用意をしなさい!」


 怒鳴られたゴブリンは一度肩を竦めるも、不思議そうに顔をしかめると。


「へ、へえ? まだこんな遠いんですよ……? 射程圏内まで距離二百は有んですが……」

「バカね、そこに這いつくばってるガキが、今からここを射程圏内にすんのよ!」


――――――――――――


「左舷前方、敵旗艦撃沈!」

「前列中央、炎上! 火薬庫に命中!」

「後列が旋回! 撤退準備をしているようです!」


 白煙が立ち上り、耳をつんざくような轟音の響く戦場に負けじと声が飛び交う。

 その報告の数々に、砲手すらも唖然としている。


 魔族軍の砲台は、距離二百で命中率二割。

 これが射程圏内だというのに……今いる距離四百では、百に一つも当たらない。

 はず、だったのだが……


「……なかなかやるじゃない」

 

 リヴィゼは船中に満ちる白煙越しにアニマの姿を見やる。

 アニマは揺れる船上で四つん這いになり、手元に並ぶ光るオーブを見ながら計算をし続けている。


 距離四百は、向こうからすれば神頼みで打つような距離。

 対してこちらの命中率は体感で一割を超えている。

 千発撃ち込めば、そのうちの百発が敵船を食い破る。


 圧倒的な射程の暴力によって、王国軍は撤退を余儀なくされ――


―――――――――――――


 全てが、変わっている。


 現在に戻ってくると、エンデ港は陥落していた。

 同時に、王国軍に支配されていたはずのゲティアは平和そのものになり。

 魔族たちは一次拠点をエンデ港に移すことになったため、ゲティアから大量の船が出ていっている。

 

「な、何があったんですか? あのエンデ王国を相手に二週間で港を陥落させるって……」


 あまりに上手くいきすぎてドン引きしている俺に、桟橋に佇むリヴィゼは鼻を鳴らす。


「まー、色々あったのよ。旧世界の行き来が安定するようになって、物資が手に入りやすくなったのもそうだし……石炭の値段が徐々に下がり始めたのもあるわ。それに何より、あの通信オーブと、弾道計算ね」

「……弾道計算? もしかして、それをアニマくんが?」


 桟橋の端で、魔族軍の船をキラキラした目でスケッチしているアニマ。

 どうも、先の戦争にこの子が関わったという話はうっすら聞いているが。


「弾道計算自体は、うちらで既に研究を進めてた分野なんだけどね。命中率を上げるために鉄弾を均等な重さにして、砲身の長さを揃えて、火薬に厳しい基準を設けて練り込んで……ただ、海戦と地上戦とじゃ話が違うでしょ?」

「……まぁ、そうですよね。こっちも対象物も、常に動き続けてるわけですし……。というかまず、相手との距離が分からなきゃどうしようもないですよね? あらかじめ測量しておいて相手の距離を推測するのも、海の上じゃ出来ませんし……」

「距離なら分かるわ。三角測量をすればいいんだから」


 ……? 

 三角法を使うにしても、まず対象物の高さが分かってないとどうしようも……


「あっ……マストの高さ……?」

「そう。アニマが、沈没した王国船を徹底的に調べた中で……『王国船はマストの高さが揃ってる』っていう発見をしたらしいのよ。つまりそれって、相手の船との距離が正確に分かるって事じゃない?」


 ……なるほど。そういう事だったのか。

 航海オタクの好奇心がここで。


「有効射程が二百ってのが共通認識だったなかで、その二倍の四百でも命中率は一割を保てるようになったのよ。こうなっちゃえば、相手が最強の国家だろうが関係ない」

「常に向こうの射程範囲外から打ち込める……と。近づこうにも、その分命中率を上げることになるだけ……。物資が続く限り、敗ける要因がない……ですね」

 

 その唯一の弱点である物資補給も、完璧に対策を打った。

 なるほど、それでこの大勝に繋がるわけか。

 ……と。


「り、リヴィゼさーん、呼ばれていますよ……!」


 見れば、いつの間にかアニマくんが桟橋の傍へ来ていた。

 申し訳なさそうにしながら、船の方で手を振る魔族の方を指す。


「魔族軍の幹部さんが、リヴィゼさんを呼んで……」

「あーはい。分かったわよ、全く……」


 話の途中でリヴィゼは船に乗り込んでいってしまった。

 と、残されたアニマくんが何故か申し訳なさそうに。


「そ、その……お話、お邪魔してしまいましたよね……?」

「いえ、大丈夫ですよ。アニマくんにも話を聞いておきたかったので」

「ぼ、僕ですか……?」


 そう言ってアニマくんは、不安そうにこちらを見上げた。

 この子に、ゲティアを救った英雄という自覚はあるんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ