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76 王女様の体をまさぐるな

「なによ、余は今忙しいの。エセ神なんかに付き合ってる暇はないんだから、さっさと…………げっ!」

「……シャノンさんを連れてきて正解だったみたいですね。少しお話をしておきたくて」

「わ、分かったから、そいつを近づけないで。いっつもべたべた触って来てムカつくのよ! ほらまた……くそくそくそっ!」


 触り魔のシャノンさんに体を弄られつつも、抵抗はしないリヴィゼ様。

 おいたわしや、魔族軍の王女ともあろうお方が。


「えっと……今は、エンデ港への侵攻を進めてるところ、なんですよね」

「そーよ! 今が一番大事なところなの! だからこんなところで……んんっ! やめて、くすぐったいから! こら、服に手を入れない……!」

「ひんやり、してるね」

「……お時間が無いのは重々承知しているのですが、それでもお耳に入れておきたいことがあるんです。ゲティア軍の総帥、ユグノが王国のスパイかもしれなくて」

「……は?」


 リヴィゼは固まる。

 シャノンさんが体をまさぐるのに抵抗する事さえ忘れて。


「現状分かっていることは、ユグノがゼヘタ神を信仰していなかった、という事実だけですが……かなり疑惑は濃いと言って良いでしょう」

「……はぁあああああああああああああ⁉ な、なんでよ! なんでそんな奴がトップなんかになれちゃってるわけ? おまえたちの国、おかしいんじゃないの⁉」


 表向きは敬虔な信徒のように振舞っているユグノ翁が、その上でゼタちゃんの姿を全く認識できていなかった。

 未だに確定した情報ではないが、上層部でしか知りえない情報が王国に知られていたことなどを考えると、その線は否定できない。


「まぁとにかく、何か作戦行動を伝える際は、特にユグノにお気を付けてください」

「ふざっ……! 軍の総帥が敵側なら、誰一人信用できないじゃないのよ! それにエンデ港侵攻の物資供給はそっちの軍にもやってもらってんのよ⁉ こんなの、生命線を敵のスパイに明け渡してるようなもんじゃない!」

「……え? 物資補給を、ゲティア軍が……?」


 そういう、事だったのか。

 最初からおかしいと思ってたんだ。

 王国が弱ったところに付け入って攻め入ったはずが、物資が足りなくて返り討ちなんて間抜けすぎるもんな。


「そうなると……途中で補給が途絶える、なんてことが起こりえるかもしれないと?」

「……流石にそこまで露骨にして来るとは思えないけどね。おまえたちの中で、ユグノを疑ってる人は居なかったんでしょ? 余がその立場なら、出来たはずのことをやらないでおく、みたいな消極的な妨害をするわ。そうすれば安全に魔族軍を妨害できるんだし」


 そうか。王国からしたら、露骨な工作はその最強の立ち位置を捨てる危険を冒すこと……未来の利益を捨ててることでもあるのか。

 シャノンさんによるおさわりを完全に受け入れてしまった魔族軍の王女様を、しばらく見つめながら考える。


「となると、簡単に尻尾を出してくれるとは思えませんね。なら、ユグノに頼らずに資源を確保しておくとか……?」

「そんなことが出来るなら、最初からおまえたちに頼ってないわよ。特に砲弾。原料の鉄を自国から持って来るってのはめちゃくちゃきついんだから」

「それはそうですけど……島の反対側には鉄鉱がありましたよね?」

「分かってる。けどその代わり製錬にめちゃめちゃ燃料が必要になんでしょ。今はあまりに足りてない。そしたらあんたたちが最近、ウルグガルグから鉄を仕入れられるようになったって聞いたから……」


 なるほど。製錬済みの鉄を輸入してる訳か。

 流石は鋼鉄の国ウルグガルグ。

 考えてみると、(きた)る火薬と鉄の時代を前にして、良い国と仲良くなったもんだな。


「自前で用意するとなると……やはり、大量の石炭が必要ですか。確か急激な需要拡大で高騰してしまったとか」

「ほんとに。なんとかなんないわけ?」

「それが……石炭を掘り過ぎたことで、地下水が出てきてしまう炭鉱が増えて。排水作業にかかるコストが多すぎて、どうやっても採算が取れなくなってしまったんですよね」

「くそ……っ! どーにかんないのっ⁉」


 眉間にしわを寄せてキレるリヴィゼに、シャノンさんが指で頬を吊り上げさせて無理やり笑顔にしている。

 さっきからシャノンさんのこと完全にノータッチだな、この人。

 

「残る選択肢は本国からの輸送……ですか」

「そうは言うけど、旧世界からの航海って本当に大変なのよ? この間なんか八隻の船が二隻しか届かなかったんだから」

「西の外洋って、そんなに荒れてるんですか」

「……なんか勘違いしてない? 嵐とかって、航海が失敗する要因の一割くらいでしかないんだから。大抵は船員の病気とか、座礁とか、航路ミスとか、そういう地味なもので失敗すんの」


 そう……か。

 確かに、この時代の技術レベルじゃそれが当たり前だよな。

 望遠鏡も最近発明されたくらいだし、航路ミスなんていくらでも起こりえるだろう。


「今はお忙しい、んでしたよね?」

「そーよ? 当たり前でしょ。今もエンデ港への攻撃は続いてんの。だから、こんな小娘に触られてる場合じゃ……っ! ないのよっ!」

「なら……一区切りついたタイミングで、港に来てください。この問題を、どうにか出来るかもしれません」

「は? 何言って……あっ、ちょっと待ちなさいよ! せめてこいつをどうにか……!」


 二人を残して、俺は港へ向かう。

 相手はあのエンデ王国だ。

 物資を整えなければ、スタートラインにすら立てない。

 まずはやれることをやらなければ。


 しかし最近は本当に、何かとアイツらに頼りっきりだな……

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