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75 ゲティア陥落

第七章


遡行回数 残り3回

「ほれ、ほれ! 疾く起きぬか! 起きよ、起きるのじゃあ!」


 ……なんだよ。

 ぺちぺちと顔をはたかれる感触とともに、目が覚める。


「……あぁもう、うるさいですね。せっかく良く寝てたのに……どうしたんですか」


 いつもの散らかった御所の寝台。

 体の上には神様がまたがっていた。


「どうした、ではないわ! 数日前からどうも嫌な空気が漂っておるのじゃ! この部屋にも誰も入って来ぬし……」


 ……人が来ない?

 なにがあったかは知らんけど、先週は王国軍に大勝して終わっただろ。

 この一週間でそう大きな問題になっているとは思えないけどな。


「というかお久しぶりじゃないですか、ゼヘタ様。ちょっと聞きたいことがあったんですよ。ディアロと、ディアロが探していたゼタという少女のことについて……」

「……なんじゃ急に。その者共がどうした」


 ゼヘタ様はずりずりと手をついて座り直し、小さく首を傾げた。


「やっぱりご存じなんですか」

「当然じゃあ? あやつこそが、童の大切な信者どもを奪おうとする張本人で……ディアロはその手下じゃからな。奴らは今も復権を果たし、わらわの存在を消し去ろうと画策しておるのじゃ」


 なんだその話。信者を奪おうとしている?

 しかしそうなると……あの子ってやっぱり、天界のゼタ様とは別なのか。がっかりだな。


 まとめると、天界にはゼタ様が居て、ゲティアでは目の前に居るゼヘタ神が信仰されていて……もう一人、アビスと一緒にいるゼタちゃんが居る……ってことなんだろうか。


 どうしてこんなに話が入り組んでいるのかは未だ謎だが、ディアロの言っていた事と辻褄は合っている。

 あいつはゼタちゃんに対して、『しもべ』と自分を卑下していたんだし。

 ……と。


「一つ思い出したんですけど、ディアロが他国の宗教団体に寄付を命じてた……みたいな噂を聞いたんですよね。それってもしかして関係あります?」

「そうじゃろう。今もディアロ派などという不届き者が教会内で幅を利かせ始めているようじゃが……そうなったら終わりなのじゃあ!」


 ゼヘタ様は叫びながら、ぺちんと腿を叩いてくる。


「つまりディアロは派閥を利用して、この宗教を乗っ取ろうとしていると?」

「そうじゃ! そうして奴らはわらわのかわいい信者たちを奪い、わらわを殺そうとしておるのじゃあ!」


 いたい。

 こんどはバチン、くらいの音が鳴った。


「でも……ディアロはともかく、ゼタちゃんはそんな風には見えませんけど」

「見た目などに騙されるな! あやつは童の存在を一度消し去った、悪の煮凝りのようなわらしで……」

「ん? 一度消し去った? どういうことですか?」


 俺の疑問にゼヘタ様はハッと口を押えると。


「い、今のは忘れよ! そんなことより疾くゆかぬか、教会の外を見てたもれ! どうも嫌な予感が……」

「いや、ちょっと待ってくださいよ。明らかにおかしいじゃないですか。あなたの信者を奪ったのは俺じゃなかったんですか? 一度ゼタちゃんがあなたの存在を消し去ったってどういう……」

「あーあー聞こえん聞こえん! そうじゃそうじゃ、わらわはすこし野暮用があってのじゃ、わすれておったわ!」

「ま、待ってください、どういう事なんですか⁉ ちゃんと説明を……あっ! き、消えやがった……!」



―――――――――――


 ゲティアは、王国軍の手に落ちていた。

 

 教皇室を出た瞬間からずっと、物凄い息苦しさを感じている。

 体が動かない、息が出来ない。

 命が、もたない。


 教会を抜けて街を歩くも……先週の勝利ムードは一転し、街中には暗い空気が漂っている。


「これは……マズいな……」


 誤算だった。

 王国軍にとっては軍艦四十隻など大した被害ではない、という事を完全に失念していた。

 対してゲティアは火薬を使い切り、防衛力を使い切っていたわけで……

 

 信仰が殆ど尽き欠けていること、

 教会が封鎖されていたこと、

 そしてグラシア様の姿が無いこと。


 断頭台に跪くグラシア様と、飛び散る鮮血を想像しそうになって、頭を振る。


 戦争のあと、責任を取るためにトップが処刑されるケースは多いが……

 仮にそうだったとしても、この未来は変えられる。

 だから、今は考えるな。思考が鈍るだけだ。


 ゲティアの街を王国兵が我が物顔で闊歩している。

 踏みつける地面には所々赤いシミが残っており……顔を伏せて怯える住民の姿が痛々しい。


 そして何より不気味なのが……どこにも小鬼族の姿が無いことだ。


 色んな種族が居てこそのゲティアのはずなのに。

 その片寄った光景が、どこか気持ち悪くて――

 

「あ、あれ? エレミア……さん?」

「へ? な、何ですか? な、なんでボクの名前を……?」

 

 変身していたせいか、往来を歩いていたエレミアは、はじめ俺のことが分からなかったらしい。


 聞けば、少しゲティアに滞在しているうちに王国軍が侵攻してきて、国外に出ることが出来なくなってしまったとか。


「この一週間、何があったか? ぼ、ボクもあんまり詳しくないんだけど……」

「それでもいいので、お願いします。あと、なるべく詳しく、できれば早口で」

「な、なんで早口……? というかさっきから息切れしてない? 具合が悪いなら、こんなことしてないで……!」

「い、いえ……具合が悪いからこそ、さっさと教えて欲しくて……」


 頼むからさっさと教えてくれ。

 ぜぇぜぇと肩を上下させながら言う俺に、エレミアは困惑するも。


「わ、分かったよ……。えっと、一週間だから魔族軍がエンデ港をめぐって争ってるくらいの時期……だよね?」

「……はい? なんですかそれは。王国軍の侵攻を退けた、その直後ですよね?」

「……? 二週間前の話をしたいの? どっち?」


 話が噛み合わない。

 王国軍の侵攻が二週間前?


 もしかして……もしかして、目覚めるのが一週間遅れたのか?

 教会が閉ざされたせいで信仰が弱まって……起きるために必要な信仰が一週間じゃ溜まらなかったのか……?


「じゃ、じゃあ、そこからでお願いします。この二週間、何があったかを」

「二週間前……良いけど、覚えてるかなぁ。あのあとは確か……撤退して行く王国軍に対して、魔族軍が急襲をかけたんだよね」

「魔族軍が? でも、彼らって、最初の衝突で火薬を使い切ったんじゃ……」

「それがどうも、違ったみたいなんだよ。被害が出そうになったらすぐに撤退する戦い方で、火薬を温存しててさ」


 ……なんだそれは、初耳だぞ。

 確かに考えてみれば、彼らが命を懸けてゲティアを守る義理はどこにも無いんだが……

 共闘しているつもりだったのに、完全に裏切る気だったのかよ。


「魔族軍は被害が出ない程度に戦闘して、もしゲティアが優勢ならその成果を横取りしようって最初から計画してたみたい」

「……マジですか。それで……魔族軍は撤退する王国軍を襲撃したと。それ自体は成功したんですか?」

「それはもう。王国軍の船は、一隻残らず撃沈してるからね」


 ……マジか。

 撤退してるとはいえ、船はまだニ十隻以上残ってたはず。

 それを全滅させるほどの火薬をこっそり持ってたってことになるのだろうか。


「その勢いのまま魔族軍は、エンデ港へ侵攻を始めたんだよ? これも知らなかった? エンデ王国は戦争で敗北した直後だから、本来なら他国にバッシングされるはずなんだけど……」

「まぁ、彼女らは気にしないでしょうね。一番戦力が削れてるこんな好機を逃しては勝てないでしょうし。……ん? でも今こうなってるってことは……」

「最初はかなり押してたみたいだけど……魔族側も火薬資源を使い果たしてて。押し引きの攻防の後、どんどん戦線は下がって行ったって聞いたな。最後にはこの港を防衛する形になって……結果は見ての通り」


 なかなか目まぐるしい戦況の変化だ。

 二週間の間にこんなことが。


 しかし分かっては居た事だが、エンデ王国というのは本当に強いんだな。

 軍艦六十隻を沈められた直後に、こうまで戦況を盛り返せるほどの底力があるとは。

 暗号解読で計画を知ったとき、リヴィゼが『舐められてる』と言っていたのは本当だったらしい。


「それで……当の魔族たちはどこに?」

「魔族がボクたちを最後まで守り抜くと思ってるの? 体制がちょっと傾いたと思ったら、すぐに島の反対側へと逃げてったよ」


 ……まぁ、でしょうな。彼らに責任を問う立場にはないから文句は言わない。

 しかしこの状況を、どうにかするには……


「魔族軍が負けた直接的な理由はやっぱり、物資の枯渇だったんですか?」

「そう聞いたけどな。本国からの補給を増やしてはいたみたいだけど、短期決戦で港を奪取する以上、消耗も激しかったみたいで。とはいえやはり王国は強いから、万全の状態なら勝てたかと言われると……」


 ……なるほどな。

 しかし物資の供給が追い付かないなんてのは、そう簡単に改善できる問題でもない。


 それにこの戦いは、物資を万全にするのがまずスタートラインなわけだ。

 かなり厳しいが、この状況をどうにかするには、魔族軍に王国の港を獲ってもらうのが一番良いわけで……。


 ここで遡行を使えば、残りはもう二回しかないのか。

 でも、やるしかないだろうな。ここはちゃんと話をしないと。


 ……てかなんで俺が魔族なんかの戦争を勝たせるために苦労しなきゃいけないんだ。


 神として複雑な気持ちを抱えながら、俺は遡行を念じた。

 残り、二回――

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