69 変身の奇跡
「ね、ねえ、なんでアビスがウルグガルグに行くことになってるの? 火薬とか取引とか、何にも知らないんだけど……?」
「正直、交渉がすんなりいくとは思えないんですよ。そこで介入するとなったら、奇跡が必要になるじゃないですか。難しいミッションですから、大悪魔であるアビス様にしか頼めないんです」
俺が言うと、アビスはんーっと目を瞑り。
「そ、そうなのかなぁ……。ま、まあそう言われるとちょっと断りづらいけど……。でも、ゼタの面倒はどーすんの? ね、おねーちゃんが居ないと眠れないでしょ?」
「……そうですか。それなら連れていくしかない……でしょうね。俺としてもゼタ様を他国に送るのは不安ですが……」
教皇室にはもう、グラシア様や海賊たちやシャノンさんの姿はない。
残っているのは俺とアビスとゼタ様と……ここまでずっと口を挟まずに隅で座っていた大賢者様だけ。
そのエレミアが、ここで小さく手を上げた。
「その……大変恐縮なんだけど、ゼタというのは何を指していってるの? 中二病の設定的なアレなら申し訳ないんだけど……」
……設定?
俺は首をかしげるも、アビスは慣れたようにゼタと握った手をぶんぶん振ると。
「あぁ、おねーちゃん、ゼタの事が見えないんだ。大丈夫だよ、この子は見える人と見えない人が居るだけだから」
「ど、どういうこと……? その手の先に、誰かが居るって事……?」
そういうことか。なら、困惑するのも無理はないな。
エレミアはこの国の人じゃないんだし、ゼタ様を信仰してないんだろう。
「まぁ、そこら辺の話は複雑なので一旦置いておいて……。多分ウルグガルグに行った先でも同じようなことが起きると思うので、それは気をつけないといけませんね」
「でもさ、ゼタって子供だよ? アビスはちょっと背伸びすれば何とかなると思うけど、使節団にゼタぐらいの子供が居るのはちょっと……」
お前も背伸びくらいでなんとかなる身長じゃないだろ。
というか……
「だから、奇跡で変身してください。ついでにゼタ様の事も変身させてあげれば解決するじゃないですか」
「え」
俺が言うと、アビスは凍り付いてしまった。
「……どうしたんですか? 大悪魔様なんですから、変身の奇跡ぐらいちゃちゃっと……」
「それは……えっと……その……か、風邪! そう、今ちょっと風邪ひいてて! だから力がでなくって!」
「えぇ? じゃあ念話とかも出来ないんですか? それを頼りにアビス様を選んだのに」
「そ、それも奇跡ってやつ? い、いやー、本当は出来るんだけど、今は調子が悪くてね?」
……マジかよ。
当てが外れたな。
「なら……しょうがないですね。じゃあエレミアさんにお願いするしか……」
「え、ええ⁉ また⁉ ボクの仕事は終わったと思ってたんだけど……!」
「まぁ、魔導書はまだこちらにありますから、今から海に沈める事も」
「わかった! わかったからそれだけはやめて!」
快く承諾してくれた賢者様は、どうした事かため息を吐き。
アビスに目線を合わせるように、腰を落とした。
「アビスちゃん? 今から変身をするんだけど、どういう姿が良いかな? 多分修道女さんみたいな格好になるんだけど……」
「えっとね……立派なツノと羽! あと、おっきなおっぱい!」
「ア、アビスちゃん?」
「それとね、手の甲に、紋章みたいな傷をつけて欲しい! あと、右目は赤で、左目は青のオッドアイにして、それで……」
「バカタレ。地味めの目立たない修道女、俺の変身した姿くらいの感じにしてください」
横から頭を押さえつけると、アビスは手を振り払おうと暴れる。
「えー! 地味なのやだ! かっこいい感じにしてよ!」
「……ごめんね、アビスちゃん。そしたらじゃあ、骨格はボクのものをコピーして、それに修道服を着させて……ほら、これでどうかな?」
おお。かなりイメージ通りの。
エレミアが手をかざすと……割と注文通りの、前髪の長い地味な修道女が現れる。
「良いじゃないですか、じゃあ当日はこれで」
「えー……これやだ……。こんなんじゃ目立たないじゃん……」
……目立たないから良いんだよ。
完璧な仕事をしてくれたのに、頬をふくらませて修道服の裾を弄るアビス。
「文句を言わないでください。目立ったらマズいんですから、それで良いんですよ」
「やだやだー! こんな地味すとーんぺったんな体ヤダー!」
「ア、アビスちゃん、それ、ボクの骨格をコピーしたって、さっき言ったよね……?」




