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68 犯罪者どもにやれること

 ……この人数に、教皇室は狭すぎたな。

 俺の思いつく限りの人を呼び込んだ結果、広々としていた教皇室がぎちぎちになっている。


「ね、ねえおにーちゃん……? なんでアビス、呼ばれたの……? 先週の仕事でなんかやらかしちゃった……?」

「……大丈夫ですから、すぐに説明します。ゼタ様はこんなに落ち着いてますよ、アビス様も大悪魔として毅然と振舞ってください」

「ち、ちがっ……ゼタは何もわかってないだけだから!」


 耳元で叫ぶアビスから逃げるように耳をふさぐと、窓際に腰かけていたズーが。


「おいロナあ、もうみんな揃ったんじゃねーのか? 俺らも暇じゃねーんだしよ、さっさと用件を言えよ」

「あ、はい。そうですね、皆さん集まったみたいですし……」


 俺が切り出すと、部屋の皆から目線が集まるのを感じる。

 一つ小さく咳ばらいをして、俺は辺りを見回す。


「……迫る王国との戦争。ゲティアはこれに、なんとしてでも勝たなくてはいけません。そこで、皆さんに手を貸してほしいのです」

「……戦争に手を貸せェ? どういうことだァ? そんなもんは俺達の手に負える話じゃねェだろ。軽い協力くらいなら、アニマがもうやってると思うがァ……」

 

 ヴィストが怪訝な表情を浮かべる。

 確かに海図と望遠鏡の件は、大きな助けになった。

 けど、これだけじゃこの戦争は勝てない。


 それからソファに座るオニキスが首を傾げ。


「わざわざこうして集めたという事は、それ以上の協力を求むという事ですか。私としては報酬の方が気になるのですが」

「そーだぜ! 俺らに協力するメリットは有んのかよ! 俺たち今忙しいんだぞ!」

「えー……メリット、ですか。一応、教皇の名において報酬は支払いますが……」


 俺が言うと、聞いてないと言わんばかりにグラシア様がこちらを睨んでくる。

 けどまぁ、今は無視をさせてもらいますね。


「第一この戦争に負ければゲティアの港は占拠されます。その間の損失を考えれば、あなた方貿易会社も他人事ではいられないと思いますが……」

「じゃあアビスは関係ないじゃん! もう帰っていい? 礼拝の日はカモが多いから稼ぎ時なんだよね!」


 ……スリなんかで国家の出す報酬以上に稼げるわけないだろ。

 とツッコもうか迷っていると、グラシア様の傍に立つニーアさんが口を開く。


「小鬼族ならなおさら、今回の戦争は死活問題かと存じます。ゲティアが王国の支配に堕ちれば、ここにも例外なく王国の法に下ることになります。そうなればゲティアの小鬼族はすべからく、奴隷として扱われることになるかと」

「ま、また奴隷生活に戻るってこと⁉ そんなのヤだよ⁉」

「また……? アビス様は大悪魔なんですから関係ない話ですよね?」


 俺がつっこむと、アビスは何故か取り乱したようにあたふたして。


「そ、そうだけど……ほら、アビスは見た目で勘違いされることが多いから! バカな人間どもは奴隷にしようとしてくるかもしれないし……」

「それこそ奇跡か何かで姿を変えれば良いのでは? その力を使えばどうとでもなるような」

「い、いいから! そういう所は突かないで! 協力するから、それ以上はやめて!」

 

 ……なにをそんなに焦ってるんだ。

 けどまぁ、説得する手間が省けたか。


「それで、なにをすればいいの?」


 と、それまで静かだったシャノンさんが首をかしげて声を上げた。

 初対面のはずのオニキスの手をにぎにぎとしながら。


――――――――――――――――


「火薬、かァ……。港に大砲が運び込まれてんのは知ってたが……それが足りねェと打てねェってのか」


 皆の前で現状を説明する。


 王国軍が大砲を使ってくる以上、相応の武器を持たねば勝機は無いこと。

 火薬は魔族の本国から全力で輸送しているが、それでも開戦には間に合わず。

 ユゴルアからの輸入もまた、不可能であること。


「その独占協定ってのはよ、ユゴルアとゲティアの間の通商を禁じてんだろ? なら、ヘロシュかウルグガルグの通商船を騙ればいいんじゃねーのか? 商売やってるとそう言うやつよく見るぜ?」


 こいつらはすぐに脱法しようとする。

 そんなズーに対して、シャノンに顔を触られているオニキスが口を挟んだ。


「いえ、普通の商品ならいざ知らず、国家の戦略物資の管理は厳重です。今必要な火薬は相当な量なのでしょう? そうなれば注目もされるわけで、身分を騙るのは不可能です。これは断言できます」

「まるで見てきたみてェな言い方すんなァ」

「ええ、まあ」


 オニキスは何やらはにかんでごまかしてるけど。

 オブシディア家がやっていた兵器の密輸って、コレのことじゃないよな……?


「あとは……原料を違う形で加工して、別品目として輸入するとかは? そうすれば監視の目も弱まるんじゃないの」


 またすぐ脱法しようとするアビスに、またもオニキスが首を振る。


「硝石はそれ以外に用途がありませんから厳しいでしょうね。そもそもその硝石の鉱山自体、国家が管理しているものです。麻薬のように原料がどこでも栽培できるものとは違って難しいでしょう」


 回答の歯切れが良すぎる。

 既に色々と試行錯誤した後なんじゃないのかコイツ。


「そっかー。じゃあ嘘つくのが無理ならさ、ほかの国に仲介をたのんだら? そうすれば直接取引した事にはならないんじゃないの?」

「頼む……となると、国家として正式にですか?」


 うん、とアビスが頷く。

 確かに……それはどうなんだろう。

 と、ずっと黙っていたグラシア様が小さく手を上げ。


「間に挟むという事は、ヘロシュかウルグガルグの二国ですよね? ウルグガルグはともかくとして、平和主義のヘロシュがユゴルアから火薬を輸入するというのは不自然に思えるのですが」

「ならウルグガルグしか残ってねーな。あいつらがこれに手を貸すかは知らんけどよ、打診する位はした方が良いんじゃねーのか?」

「分かり……ました。その線を一度検討させます」


 グラシア様が頷くと、ニーアがすぐに部屋から出ていく。

 と、一度静かになった教皇室でヴィストが再び口を開いた。

 

「これが上手くいくのが一番良いんだろうがよォ、そもそもユゴルアがウルグガルグに火薬を売ンのか? 重要な戦略物資なんだろ?」

「それは……情勢次第でしょうね。今は魔族の侵攻を食い止めるのが国際的な優先課題ですから、その対抗策のためだと言えば、交渉の余地はあるかと思います」


 実際は真逆のことに使うんだけど、これは本音と建前だ。

 ……と、議論が一瞬止まったところで。


「オイ! めっちゃすげーこと考え付いちまった! その火薬ってやつ、輸入なんかしないでウチで作ればいいんじゃねーのか⁉」


 急にズー(バカ)が大声で議論を断ち切って来た。


「火薬を作るって……そもそも硝石鉱山が無きゃどうしようもないんですよ?」

「そうなんか? 燃えりゃあ何でもいいって訳じゃねーのかよ」

「そうですよ。爆発的な燃焼が無ければ、砲弾も飛ばせませんから」


 じゃなきゃそんなに苦労はしないわけで……

 とズーをたしなめていると、オニキスが口を挟んでくる。


「厳密には、硝石は鉱山由来以外にも見つかっています。たしか、小鬼族が伝統的に洗剤の用途で使っていたとか。調べたところ、彼らの住む洞窟の壁面には硝石が析出するようで。ただ、意図的にこれを作るのは……いたたっ!」

「せんざいって、いった……?」

 

 ずっとオニキスの体をいじくりまわしていたシャノンさんが、口を挟んできた。

 

「は、はい。小鬼族の使っていた洗剤と硝石が同じ成分だと分かったので、確か実験的にそこから火薬を作ることも試みられていて……それがどうかされましたか?」

「それを、つくればいい?」

「……はい?」


 ……作る?

 眼の下の宝石を触られながら、オニキスは聞き返す。


「このあいだの、牛のふん。ね、おぼえてる?」


 そう言ってシャノンさんは首を傾げながら、俺を見上げた。

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