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61 イザヤとリヴィゼ

「ああああああああああああああっ! イザヤは頭に来ましたっ! もう限界ですうううっ!」


 ……うるさいうるさい。

 収拾がつかなくなって協議会は解散となり、出来なくなった報告の続きをするために教皇室に向かう。

 ドルエズは貴族たちと愉快そうに教会を出ていき、ユグノ翁は引き続き暗号の情報精査のために諜報部へ向かった。


 俺はというと、イザヤのせいで変身を解くこともできず、修道女のフリをしたまま傍で控えている。

 

「ドルエズをあまり責めないでやってください。この戦争が負け戦である以上、ここで王国憎しで動けば動くほど、敗戦処理で責任を取らされることは分かり切ったことですから……立場を示す意味で、王国の支配に賛成しておくことは必要なのですよ」

「つまるところそれって保身に他なりませんよっ! イザヤなどよりもずっと自分勝手な行動をしているくせによくもまああんなことを……っ!」


 ……かわいそうに。

 ふー、ふー、と鼻息荒く憤るイザヤ。

 ちょっと別の思惑があるだけで、民に苦しんで欲しいなどとは微塵も思ってないだろうに。


「ドルエズははっきりと、ゲティア政府への融資を断ち切ると明言しましたっ! あの一言で、ゲティアは崩壊してしまうのですよっ⁉ 恐らく大部分の貴族たちはそれに追随するでしょうし、このままでは経済破綻は免れられません!」


 ……そうなんだよな。これが終わってる。


 金が無くなって一番最初に困るのは、保有している兵士に給料が払えないってことだ。

 そんなことになればゲティアの兵力は一気にゼロになる。


 連合国軍を相手する必要が無くなったのはいいけど、現状は勝率が0%だったのが0.001%に増えたようなもの。

 依然として絶望は変わらない。


 今日まで頑張ってゲティアの問題を一つ一つ解決して来たってのに……

 と、暗い気持ちで教皇室の扉を開けると。


 ……これはまずい。


「遅かったわね、野蛮人ども」


 出迎えたのは、我が物顔でソファに寝転がるリヴィゼだった。



―――――――――――――――――――――



「あー……。もう来てましたか。ちょっとイザヤ、あなたはここで――」


 まずいものを見た、という風にグラシアはイザヤを押さえようとするも。


「……っ⁉ ちょ、ちょっとまってくださいっ! どうして汚らしい魔族の長が、神聖な御所に……⁉ さ、さっさと出て行ってくださいっ!」


 当然と言うべきか、イザヤは目を真ん丸にして声を上げる。

 が、当のリヴィゼは眉を寄せて不機嫌そうに。


「はーあ? 余はおまえたちがどうしてもって言うから来てやってんの。ほら、王国の進軍計画について分かった事があんでしょ。余に協力して欲しいなら、足でも舐めて出迎えるがいいわ」


 ……最悪だ。

 グラシア様は助けを請うようにチラチラとこちらを見てくるけど……

 どうしようもないだろ、これは。


「い、今、協力と言いましたか⁉ 教皇、これはどういう……⁉」


 ぐいとグラシア様に詰め寄るイザヤ。


「い、いや、これは……いいから、一旦イザヤは外に」

「説明を、説明を求めますっ! これは由々しき事態ですよ! 魔族軍に屈するどころか、それに与するなど……人々が知ったらどう思うか!」


 まぁ、そりゃこうなるよな。

 でも、これは極秘の問題なのだ。

 今の時点では何としてでも外に漏らすわけにはいかない。


「……説明はします。しかし条件として、あなたにも秘密を守ることに協力をしていただかなくてはいけません」

「イザヤは正義に基づいて行動します! 決して無責任な約束はしませんっ! 天と地がひっくり返ろうとも、魔族どもに与するなんてことは――」

「それが、たとえディアロの命令でもでしょうか?」


 俺が横から口を出すと、イザヤは固まった。


「……それが嘘ならば、ただでは済みませんよ」


 冷たい目線で睨みつけて来るイザヤ。

 声は低く、いつもの底なしの元気も感じられない。


 マジだ。これが嘘だったら、本当に殺されかねない気迫を感じる。

 ……ま、嘘なんですけどね。


「それは後で確認すればいいことでしょう。それより、どうなのですか」

「それは……ディアロ様に当然従います。ディアロ様はイザヤの全てですから」


 何その重い感情。

 二人ってどういう関係なんだ。


「であれば事実確認は後でどうぞなさってください。とにかく、それまでは黙って下さらなくてはなりません。これを世間に公表しては、すべてが台無しになってしまいます」

「……ディアロ様が、悲しむのですか?」


 急に声が小さくなったイザヤ。

 ここはまぁ、適当に話を合わせておくか。


「あー。はい、ディアロ様は物凄く悲しむでしょう。どころか、イザヤ様のことが嫌いになってしまうかも……」

「そ、それだけは! 絶対に、絶対に、公表しませんからっ!」


 適当に言っただけなのに、イザヤは目に涙をためている。

 ……ここまで効くとは思わなかった。

 つじつま合わせには苦労するだろうけど、とりあえずは何とかなった……のか?


 ――と、さきほどから随分とリヴィゼが静かなのに気付く。

 ソファから体を起こしたリヴィゼが、信じられないものを見るような目で、イザヤをまじまじと見つめている。

 

「な、何ですかっ! イザヤに何か?」

「え……? その、あ、あんた……その赤い眼も、頭の角も……どう見ても魔族じゃない……? なんで、ゲティアに魔族が……?」

「し、失礼なっ! イザヤは魔族ではありませんっ! イザヤはれっきとした、由緒正しき小鬼族ですっ!」

「小鬼族……? 何を言ってるの? どう見たって魔族そのものじゃない……?」

 

 あー……その話か。

 混乱して言い合いをする二人に、傍から見ていたグラシア様が。

 

「もしかしてリヴィゼ、小鬼族を見たことが無かったのですか?」

「だから、小鬼族って何よ! この子みたいな魔族が、ゲティアにも沢山いるってこと⁉」

「ええ。確かに戦場に出る騎士にも、政府の高官にもほとんど小鬼族はいませんから、目に入っていなくても不思議はありませんが……そもそも住む大陸が違うだけで、歴史を見ればあなた方とルーツは同じはずです」


 なるほど、卑しい扱いを受けてるがゆえに出会う機会がなかったのか。

 グラシアの説明に、リヴィゼは目を丸くする。


「は、はぁ……⁉ じゃあ、名前が違うだけで同じ種族ってこと⁉ それがなんでそんな扱いを受けてるわけ……⁉」

「ひどい扱いをされているわけではないと思いますが。おそらくゲティアはこの世界で最も小鬼族の扱いが良い国ですよ。こうしてイザヤが政治に携わっているのがその証拠です」


 絶句するリヴィゼに、イザヤは追い打ちをかけるように続ける。


「残念ですがイザヤもその通りだと思いますっ。王国などでは、小鬼族は総じて奴隷ですから!」

「ど、奴隷……⁉」

「はいっ! 王国の小鬼族は例外なく、人間どもに虐げられ、こき使われて一生を終えますっ! だからイザヤは何としてでも、ゲティアを王国の手から守らねばならないのです!」


 リヴィゼはショックで口をあんぐり開けてしまっている。


 たしかに、考えてみると不思議な話だな。

 まったく同じ種族が、こちらでは卑しい身分として扱われ、あちらでは無条件で貴族として扱われている。


「で、でもよ? 同じ魔族なら、魔術が使えるはずでしょ? なんで王国で虐げられてる魔族たちは、蜂起しようとしないわけ?」

「魔術は訓練あってのことですから、王国では厳格にルールを定めて、その使用は勿論、子孫に魔術を受け継がせることも禁じているようです。仮に放棄しようとしても、王国程の軍には敵わないでしょうね」

「魔術を禁止……? そんなの、酷すぎでしょ……!」


 リヴィゼは驚いてるけど、一応ゲティアでも魔術の行使は犯罪になっている。

 このゲティアの地は元々王国の領土だったのもあって、人間族の常識が根付いているのだ。

 小鬼族に政府の高官が少ないのも、騎士になれないのもそれが原因だったりする。


「……話がずいぶん逸れましたね。リヴィゼには見せたいものがあったのです。あなたも暇では無いのでしょう?」

「そ、そーよ! 忘れてたわ! 王国の情報について、新しいのを掴んだんでしょ? ここまで来てしょぼい情報だったら、おまえたち全員殺すからね?」


 リヴィゼは怪し気に笑みを浮かべ、グラシア様を威嚇するようにそう言った。

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