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58 港場での推理

 嬉しい。なんならちょっと嬉しすぎるかもしれない。

 ゼタ様が下界に居るということが判明して、天界のことを知る人にも出会えて。

 今日という日まで孤独に色々とやってきたけど、神としての本音を話せる人がようやく……


「ね、ねえ……嬉しいのは分かったんだけどさ、依頼内容は緊急なんでしょ?」


 ずっとにまにましていたのを気味悪がられたのか、アビスが諭してくる。


「す、すいません、そうでした。文書を取り戻さないと、マズいことになるんです」

「時間無いんだからさっさと始めないと。その文書が、どこにあんのかを突き止めるところからさ」

 

 石ころを蹴飛ばしながら、アビスは人混みの中へと歩いて行く。

 

「港まで来たってことは……やっぱり、このどこかにあると踏んでるんですか?」

「そりゃそーでしょ。ここは島なんだから、王国までモノを運ぶってなったら空か海しかないじゃん。それで、空は封じてあるって言ってたよね?」

「はい、一応……鳥と友達になれる子がいまして。その子に頼んで、猛禽類を操って伝書バトの類を捕獲するようお願いしてあります」

「そこに引っかかってくれれば楽なんだけどね。ただ、おにーちゃんの言う文書って、伝書鳩が運べる重さを明らかに超えてるでしょ。だからそっちの方向は無いんじゃないかな?」


 まぁ、俺もそう思う。伝書鳩って小さな紙片を運ぶもんだし。

 シャノンさんの能力を活かすってのを思い付いたときは天才かと思ったけど、今はあまり期待はしてない。

 ただ、通信傍受の手段としては普通に優秀だから、これからの活躍に期待したいところだが。


「さっきの話だと、その文書を盗んだのは王国のスパイなんでしょ? なら、手段は限られてるじゃん。まずひとつ、ゲティアには民間の郵政があるから、それを使う方法」

「これはユグノ――って人が裏から検閲をかけさせてます。ただこれにもあまり意味は無いのは分かってますけど」

「そう、協定文書が盗まれたことにすぐに気づかれて、郵政を張られることになるなんてのは向こうも想定してるはず。だから可能性は薄いよね。――ゼタ、危ないよ。ゼタの事見えないでぶつかる人も多いんだから。おねーちゃんの近くに寄って。そうそう、えらいね」


 言いながらアビスは、握った手を引いてゼタ様の身を寄せる。

 港に来て人混みが激しくなってきた。

 ……こうして手を握ってると、本当の姉妹みたいでほほえましい。


「えーと。そうなってくると、残る可能性はおおまかに二つしかないんだよね。闇市で第三者の運び屋を雇うか、組織でモノを運ぶルートが最初からあって……それを利用するか」

「まぁ前者よりは後者でしょうね。国家がらみの重要な文書ならなおさら」

「アビスもそー思う。でも一応その可能性を潰しておく方が良いと思うな。闇市に行って情報屋に金を握らせれば、ハコビヤ達がそれぞれ今どこに行ってるのかくらいはちょちょっと教えてもらえるからさ」

「……その代金は?」

「ケチりたいならどーぞ」


 はいはい。わかりましたよ。これは代金に含まれませんってか。


「だから……最後に残ったのは、自前のルートを利用してる可能性だけだね。これはつまり……この港の中に、王国のスパイをしながら商人のふりをしてるやつがいるってこと」


 荷物を肩に乗せて運ぶ屈強な人々、それを監督する商人。

 ちょうど目の前には、商人から差し出された通商許可証を厳しい眼でチェックしている役人もいる。


 確かに、通商の許可がないとこの港には入れないはずだから……彼らは確実に商人のフリをしていることになるのか。


「でもこんなに船があるんじゃ……探しようが無くないですか?」

「いや。まず一番単純に、船員が人間族以外、樹命族とか獣人族とか岩晶族とか……そういうのは除外できるでしょ?」

「その裏をかいてる可能性ってのは……いや、危なすぎるか。国の命運がかかった大事な文書ですもんね。常に裏切られる可能性のある他人種に運ばせるってのは流石に」

「ゲティアの感覚だとありそうだけど、ここ以外じゃ他の種族を信頼するなんて文化ないからね」

「そういうことですね。これだけでもかなり絞れそうですが」


 ふむ。これはすごーく単純な考えだ。

 これくらいなら俺でも思いつけたな。

 なんて考えながら、辺りを見回してみるが。


「とはいえ人間族の乗ってる船なんてめちゃめちゃ……十何隻もありますけど。こいつらの船を、端からくまなく捜索するんですか? その前に流した噂が嘘だってバレそうなんですが」

「いや、もうちょっとだけ絞れる。船の数が増えたのは、海賊がおとなしくなってから……つまり、つい最近のことでしょ。対して王国のスパイは、ずっと前からその活動をしてるはずじゃん?」


 ……確かに。

 ヴィスト達のぼろ儲けに後追いで乗ってきた商人の船、それらは別に気にする必要は無いのか。


「なら、船の見た目があまり古くないものは除外できるって――ことですか」

「いや、それはダメー。中古の船を譲ってもらって新しく商売をしてる人もいるだろうし、逆に船を新調したばかりだけど昔からやってる人もいるから」


 アビスの推理がいちいち的を得ていて、自分の考えの浅さに気づかされる。

 なら他に指標になるものと言えば……


「――あぁ、通商許可証ですか。その発行が最近のものは除外できる……ってことですね」

「そういうこと。確か今は、海賊が出るって噂を流して船を足止めしてるんでしょ?」

「はい。それも振り切って先に行かれてたらおしまいですけど」

「そーはならないでしょ。向こうだってこれ以上ない大事な文書を運んでんだからさ。途中で海賊に襲われるのは一番嫌でしょ」


 となれば、ほぼ確実にこの港の中のどこかに、目的の品はある。

 流れるような推理を追っていると、あっという間に絞り込まれてしまった。

 流石は大悪魔様。


「じゃあ……まずは通商許可証のチェックから、でしたよね。なら、許可証を確認する役人のフリをするとかして……」

「なにそれ。そんなのよほどのバカじゃないと騙されないよ、そんなの」


 ……すみませんね、よほどのバカで!


「な、何で睨むの? とにかく、一つ一つの船をチェックすんじゃなくてその大元を確認すればいいってわけ。ほら、こういうのとか、ね」


 ニヤニヤしながらアビスが掲げるのは――


「――あっ。さっき役人が持ってた書類……!」

「そ、よく見てるじゃーん。使えそうだから、ちょこっとだけ貸してもらったのだ。使い終わったらすぐ返すけどね」


 手癖の悪さに呆れる俺を気にする様子もなく、アビスは文書を広げる。

 几帳面な字でびっしりと、そこには通商許可証をチェックした証が残されている――が。


「……発行日、みたいなのは書いてないみたいですけど」

「あー……考えてみればそっか。役人からしたらそんな情報、書く必要ないし」

 

 たははと笑うアビス。


 どうすんだよ。盗み損じゃねーか。

 と、そこでゼタ様がくいくいとアビスの手を引いた。

 アビスが身をかがめて耳を寄せると、ゼタ様はこしょこしょと耳元で囁く。


「た、確かに……! いや、ま、まぁ……それはおねえちゃんも、思いついてたけど……ね。でもまぁ、ゼタは下界の愚民どもとは違って、ほとんどおねえちゃんの思考に追い付いてるだけなかなか見込みが――」

「言い訳はいいですよ、ゼタ様はなんと?」

「……言い訳じゃないし。とにかく、役人たちの目的は、通商許可証を持たない船を摘まみだす事でしょ。なら、あいつらは明らかに見覚えのある船にわざわざチェックを入れない。つまり……」


「ここでチェックされてる船は、長らくここで商売をしてる船じゃない……ってことですか。なるほど、それなら俺達が行くべきは逆に……このリストに載ってない船ってことですね……!」

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