54 黒い共通点
東区の貴族街、豪華な馬車の傍。
高価な服装に身を包んだ貴族と、それに対するは目の下に黒い宝石を光らせる岩晶族の少女。
「――ですから、利子の徴収を認める法改正が議会を通る、今が好機なのです。この機会を逃せば、金貸し業は飽和してしまいます。出資するには今しかありません!」
「そうだな……確かにセイロン殿の言う通りかもしれん。それで、金貨一万の融資をすれば、一年後には二倍に膨らんでいると?」
「はい! 間違いありません! 重ねて申し上げますが、この法改正を知るものは限られています。だからこそ今、先に事業を始めれば、先行者利益によって優位に立つことが出来るわけです」
「なるほど、これは……」
セイロンと名乗る少女の話に、貴族の方が身を乗り出したそのとき。
「あ、オニキスだ! ほらロナ、あそこ、居たぞ! おいオニキス、ロナの野郎がお前のこと探してたんだぞ!」
貴族街には似つかわしくない、汚らしい布を体に巻いた獣人がずけずけと割り込んでいく。
貴族は獣人の行動にあっけにとられ、戸惑いの表情で。
「……なんだこの無礼な獣人は。オニキスと言ったか? 何やら聞いた事のある名前だが……」
「いえ、人違いでしょう。それより商談に――」
あー……
これは……タイミングが悪かったな。
オニキスは明らかに声をかけられて欲しくない空気を出すが、ズーがそんなものを読めるはずもなく。
「おい無視すんなよオニキス、ロナが一大事だからって、おまえを探すために皆で探し回ってたんだぞ? ごめんなおっさん、ちょっとこいつは借りてくからよ」
「ちょ……や、やめてください、引っ張らないでください。ひ、人違いですよ、今は大事な商談中で……」
「人違いなわけねーだろオニキス! なんだ? お前頭でも打ったのか?」
……面倒なことになって来た。
が、俺とてあまり引き下がれない。
いまはこの子の力が必要なのだ。
「き、君、彼女が嫌がっているだろう、これ以上するなら警護のものを呼ぶぞ?ほらセイロン殿、馬車へ入って。邸宅でこの話の続きを……」
と、オニキスの手を取っていそいそと逃げようとする貴族だが。
俺はその名前に引っかかっていた。
今オニキスのこと、セイロンって言ったか?
セイロナイト、オニキス、やっぱりこれも黒い宝石の名前……
「ズーさん、彼女はオニキスじゃないと言ってますけど」
「そんなわけねーだろ? だってどう見ても……おいだから、どうしたんだよオニキス! なんで知らねーふりすんだよ!」
「くっ……! は、離してください、わ、私はオニキスなんて名前では、ありません、から!」
身をよじらせるオニキスに、俺はズーの手を引いて。
「ほらズーさん、やめてあげてください。オブシディアさんが嫌がってるじゃないですか」
「…………ッ⁉」
「……オブシディア? 新入りおめー、何の話をしてんだ……?」
一か八かで口を挟んでみると。
眉を潜める貴族とズーとは違い、オニキスだけが目をかっぴらいて完全に動揺している。
「いったい何の話をしているのだ? ユゴルアの七大豪商の名を急に……」
「オブシディア家当主の話、ご存じありませんか。一か月前ほど前に……兵器を違法に輸出した咎で投獄されたそうで。判決は死刑、しかしその処刑は公開されなかったとか」
「……マジでなんだ急に。そりゃ噂では聞いたことあるけどよ。オブシディアの隠し財産の話は有名だし。ずぶずぶだった政界のコネを使って国外逃亡を図ったんじゃねーかとか言う話もあるけど」
だからなんだと言わんばかりにズーは言うが。
「その当主は、道端のイカサマで集めた資金を元手に物凄い速度で成り上がり……処刑当時彼女はまだ、年端もいかない少女だったらしいですね」
「……何の話をしている? それがどう……?」
ぽかんとしている貴族の隣で、オニキスがわなわなと唇を震わせている。
やっぱり、間違ってなかったみたいだな。
「そしてその少女には……オブシディアン、つまり黒曜石の名の通り、黒い宝石を目の下に」
「ま、ままままってください! 分かりました! 分かりましたから、これ以上は言わないでください……!」




