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49 神様との取引

「ほうか! 提案を受ける気になったのじゃな!」


 真っ白な髪に赤い眼をした、本物の神様。

 足の踏み場もないような御所でゼヘタ様は、宙に浮いたままにぺちんとむきだしの膝を打つ。


 提案というのは他でもない。

 行動できる時間を伸ばすために、夜の礼拝を譲る、というものだ。


「……はい。夜に、ちょっと用事があって」

「やはり男は動かすのは性欲なのじゃなあ。そこのベットでするのなら、あまり汚すでないぞ? シーツが黒では目立つじゃろう」

「や、止めてください生々しい……! ちゃんと面と向かって、断らせていただきますから……!」


 というかなんで知ってんだよこの神様。

 この感じなら、あの手紙を書いた人も分かってるんじゃないのか……?


「見るに、そちはまだ手紙の主に検討がついておらぬようじゃったが」

「……心も読めるんですか? まぁ、筆跡はグラシア様なんですけど、どうも内容が意味不明で……」

「ここで一つヒントをやろう。ニーアの特技の一つに、偽筆というものがある」


 それって……


「もう答えじゃないですか。あの手紙を書いたのはニーアさん本人だと?」

「名推理じゃな」

「馬鹿にしてます?」


 ゼヘタ様は楽しそうに足をぷらぷらとさせている。

 目を細めて、考え込む俺を眺めているが。


「しかし……あれがニーアさんによるものだとすると、意図が分からないんですが。あの人には相当嫌われてるはずなので、何か……」

「はあ? そちはあほなのか? あの手紙には夜伽を誘う内容が書かれていたのじゃろ?」

「それが意味わからないんじゃないですか。なんでニーアさんがグラシア様を騙って夜伽を持ちかけるようなことを……」

「あほ。あほのあほあほじゃな」


 なぜか呆れた様子のゼヘタ様。

 ここまで言われると流石に俺でも傷つくんだが。


「仕方ないのでもう一つヒントをやろう。彼女は熱烈なゼヘタ神の信徒じゃ。聖典を一言一句全て暗記し、その研究を寝る間を惜しんでするほどのな」

「……はあ、それは凄いことですけど。……聖典の研究というのは?」

「よく分からぬが……前に見たのは、数年かけて全ての聖典の言葉一つ一つを数え上げたとかなんとか」


 熱烈な信者にもほどがある。

 何がおもしろくてそんなことをしてるんだ。


「聖典って膨大な量あるんですよね? なんとか書、なんとか書、みたいに色々分かれてませんでした? それを全部ですか?」

「それほどの狂信者というわけじゃな」

「狂っててもなかなか出来るとは思えないんですが……それで、何の意味があったんですか?」

「さあの」


 あんたも知らんのかい。

 下界の者のやることはよく分からない。

 神である俺からすると、無駄な作業にしか見えんが。


「……で、それが何でヒントになるんですか」

「ニーアはゼヘタ神の熱烈な信者で、その子が他者を騙ってそちを夜伽に誘ってきてるのじゃぞ? もう答えのようなものではないか」


 ……分からない。

 ほぼ答えではないか、とゼヘタ様は言うけれど。

 

「あほじゃ。そちは救いようのないどあほじゃな」

「……うるさいですね。というかそんなことより、もう寿命が無いんですよ。どうすれば活動時間を伸ばせるんですか? 礼拝の時間を譲るとかなんとか……」

「そうじゃ、忘れておったわ。いやあ嬉しい。何十年ぶりじゃろうな、人々の信仰を得られる機会というのは! ほれ!」


 言って、ゼヘタ様はちいさなてのひらを差し出してくる。


「……なんですか。何をしろと?」


「握って、講堂まで連れてゆけ。わらわは一人じゃ御所からでられんのじゃ」


――――――――――――――――――――――


「ねぇ、ゼヘタ様と手つないで歩いてるの……」

「誰? あの子……」

「なんか停戦協定のときも、女の子と手を繋いでたとか……」

「ゼヘタ様ってもしかしてロリコン……?」


 教会の廊下を歩いていると、変な憶測の声が聞こえてくる。

 ゼヘタ様はその『ロリ』の方なんだが……


「(……ゼヘタ様のせいで、俺が小児性愛者に勘違いされそうなんですけど)」

「(うおおおおおお、わらわの姿が見られておるわ! 嬉しいのぉ、皆が無視をしてこないというのは……! 数十年ぶりじゃあ……!)」

「(あまりぐいぐい引っ張らないでください。手が離れたらどうす……)」


 ……ん? 数十年ぶり……?


「(今なんて言いました? 神の座を奪われて力を失ったのは、俺が来た数日前の話では……?)」

「(窓の外の景色! あぁなんと美しいのじゃ! 感動モノじゃあ……)」

「(……話聞いてます?)」


 手を引かれながら教会を降りていく。

 子供と歩くというよりは、犬のさんぽみたいな。


「……ね、なんかディアロ様も似た噂なかった?」

「あー聞いたかも。なんか部下に幼い女の子を集めさせてるーみたいな」

「あたしが聞いたのはさ、白い髪で青い眼の子を探してるって話」


 ん? 白い髪で青い眼の……? 

 ちょうど、俺の上司みたいな。


 そう言えば下界でも、似たような姿の子を見かけたけど……

 にしても、なんでディアロが探してるんだ。

 悪魔が探すくらいだから、やっぱりアレは単なる空似じゃないのか?


 などと、考えながら歩いていると。


「……あぁ⁉ もう講堂か⁉ いやじゃ、もうちょっと外を歩きたい!」

「(駄目ですよ、さっさと入ってください。俺はこれから用事があるんです)」

「いやじゃいやじゃ、いやじゃああああああ‼」


 大声で叫び出すゼヘタに、周りの視線が集まるのを感じる。


「(ちょ、うるさ……!)」

「せめて外の空気を吸いたいぃいいいいい! あれか⁉ 交渉材料が欲しいのじゃな⁉」

「(いいから黙って……)」

「それならほれ、グラシアの乳下着を持って来ておるか……うぷっ!」


 俺は懐から変なものを出そうとしてくる神様の口を手で思いっきり塞ぎ。

 講堂の扉を開いて、ぽーいと放り出した。

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