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107 サピアとの共闘

 処刑台に並べられる二人の獣人を……人々が眉を潜めて見守っています。


 他国の使節、それもヴリムが……サピアの新王に処刑を命じられた。

 しかもその一人は、王家の血筋を主張しているというではありませんか。

 王権への不審が募っている中、その異様な状況に人々は戸惑っている……ようです。

 

 イザヤは先ほどからなんとかして拘束を振りほどこうとしていますが、全く効果がありません。

 このままでは、ヴィストさんとズーさんが殺されてしまいます。

 それは分かっているのに、どうしようもなくて……


 断頭台に二人は乗せられ、処刑人が階段を上ってきます。

 赤黒い染みのついた大きな斧……見るだけで身震いしてしまいそうになります。

 王との交渉を諦めるとしたら、無理にでもここを突破するしかないでしょう。


 港の船にオーブ通信を試みましたが、残っている人は少なく、助けは期待できません。

 となれば、自分たちで兵士を倒して、二人を助けるしか……

 そうとなれば、急がなくては。


 ああ、もう処刑人が準備を終えてしまいました。

 腕のたつ護衛達と連携を取って拘束をほどいて、なんとかして処刑台に……

 あれ? 処刑台の下にいらっしゃるのって……

 

―――――――――

 

 処刑人が斧を振り上げる。


 鋭い刃が首の上の落ちる、その直前に。

 突如処刑台に跳び上がった一人の獣人が、体ごと斧を吹き飛ばす。


 悲鳴と共に人々の注目を集めたのは、細身なサピアだった。

 断頭台に跪いていたズーは、その影を見上げて目を細め――


「に、ニーア⁉ お前、何でここに……っ⁉」

「危険です、動きませぬよう」

 

 ニーアは斧を軽々と拾い上げると、ズーの拘束を切り裂く。

 

「貴方様が死ねば、王家の血筋が途絶えてしまいます。それだけは避けなければなりません」

「てめェ……サピアのくせに、なかなかいい動きすんじゃねェか」

 

 続けざまに拘束を解かれたヴィストは、体を起こすや否や衛兵をズドンと足裏で蹴飛ばす。

 衛兵の握っていた剣が宙を舞い、ニーアが掴むと余った斧をズーに投げ飛ばす。

 

「ぶねっ! おい、殺す気か⁉ 次期王だぞ! 丁重に扱え!」

「……今は撤退するより他は有りません。こちらです、囲まれる前に」

「無視すんじゃねーよ! てかボスがまだ……」

 

 剣を持った二人が走ると、民衆が波のように身を引いていく。

 二人を追う衛兵たちは、ヴィストが一人で食い止めている。

 

「そ、それにあっちにまだイザヤとかが捕まってんだぞ! あいつらも助けねーと!」

「今は気にしている場合ではありません。彼女らは処刑対象ではありませんから」

「で、でもよぉ……!」

「より多くの命が、あなたの身にはかかっているのです。ご自覚なさってください」


 ニーアは立ちふさがる衛兵の懐に、一瞬で踏み込む。

 攻撃を防ごうと焦る衛兵は、そのまま攻撃を受ける事もなく傍を抜けられ。

 

「なっ……!」

 

 驚く衛兵の剣は、ズーの一薙ぎで吹き飛ばされてしまった。

 サピアとヴリムが息を合わせて衛兵をなぎ倒していく、不思議な光景。


 サピアが崩した陣形を、ヴリムが斧で切り裂く。

 ヴリムが見せてしまった隙を、サピアが庇う。


 民衆はいつの間にか、彼女らの戦いの行方を夢中で追っている。

 奇異の目を受けながら走り続け、ようやく開かれた道の先。

 そこに見えたのは、目的地の港……ではなく。


 周りを取り囲む数えきれないほどの軍兵と、王だった。

 

「浅ましい……。力だけではどうにもならぬと、十年前に学ばなかったか?」

「……ッ!」


 挑発する王にニーアは、包囲を突破しようと兵士を蹴り上げる。

 が、その強さは衛兵と比べ物にならない。


「サピア……か? なかなか腕が立つ。なぜヴリムなどと手を組んで……」


 ニーアとズーはもはや、周囲を圧倒する戦い方ができなくなっていた。

 五人を相手取って戦い続け、その消耗も激しい。


 どれだけ捌いても、敵は減らない。

 鋭い刺突を避けた先に、倒れこんだ兵士を踏みそうになり、思わずバランスを崩す。

 咄嗟に立て直そうと地面に手をついた、ところで。

 

「ニーア、危ねぇ……!」

 

 ズーの声に、ニーアが目を見開いて振り返ると。

 背後から降って来る刃を、ズーが素手で受け止めていた。


「ってぇええええ……!」


 鮮血が飛び、ズーは息も絶え絶えに剣をねじ切って吹っ飛ばす。


 切り落とされた指が転がり、人々が息をのむ。

 それほどの代償など気にも留めないと言わんばかりに唾を吐き……

 

「……ッ!」


 ニーアの叫びに、観衆たちが一斉に目を見開いた。

 手を庇って立ち上がろうとするズーの首元に、刃が落ちる――


「お待ち、ください!」


 予想外の方向から聞こえてきたその大声に、戦場の空気が止まった。


「誰だ貴様! 王の御前で……!」


 兵士が叫ぶのは、子供の獣人。

 不遜にも王の真ん前に立ち、その顔を伏せようともせずにじっと見つめあげる。


「ア、アニマ……⁉ な、何でオマエがここに……っ⁉」


 血を流す手の痛みも忘れて叫ぶズー。

 アニマの足はがくがくと震え、顔は青ざめ……今にも倒れてしまいそうだ。

 それでもアニマは拳を固く握りしめ、王を睨みつけている。


「おやめください! あの者達の処刑を、今すぐお取り消しください!」


 王はあっけにとられた顔をしていたが、その子に尾が生えていないのを見て顔をしかめる。


「誰だ、この薄汚いヴリムは。不敬だ、さっさと切り捨てろ」


 吐き捨てる王に、子供はぐっと拳を握り込み叫んだ。


「ど、どうかお願いいたします…………父上!」

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