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103 ユゴルア監獄の策略

 砂と鉱石の国、ユゴルア。

 広大な砂漠が国家の大半を占めるなか、オアシスを中心に建てられた大都市の北西のはずれに、黒光りする監獄がそびえたつ。

 

 ユゴルア監獄、そのもっとも警備の固い独房。

 そこに閉じ込められた死刑囚の少女を、監獄長がにやけ顔で見おろしながら口を開く。


「財宝は、発見されなかった」


 その言葉に、少女はじゃらりと足枷を鳴らして顔を上げる。


「……どういうことですか」

「言った通りだ、オブシディア。お前が言った廃墟を調査したが、財宝の類は一切発見されなかった」


 いたぶるような笑みを浮かべる獄長に、オブシディアの顔は青ざめ、檻を掴んで揺さぶる。


「そ、そんな……わ、私は確かにそこに財産を隠しました! それを無かったことにして、横領を……⁉」

「……その証拠があるか? 誰が死刑囚の言うことを信じる?」

「なっ……!」


 目を見開いて震えだすオブシディアを、獄長は愉悦の表情で見下ろす。

 上機嫌に胸元から葉巻を取り出し、ゆったりと火をつけ始めた。


「よってだな、今日から尋問を再開する。そして……真の隠し場所を吐かないようであれば、拷問も許可されている」


 獄長は一度葉巻を口にくわえ、口の端で言葉を続けた。


「お前が口を噤み続ければ、拷問はより激しくなるかもしれないな。そしていつかコロッと……死んでしまうかもしれん。そうなれば話は流れてしまうなぁ……残念なことだが」


 絶望する少女に向かって、たっぷりと獄長は煙を吐き出す。

 煙たがってせき込む様子をにやにやと眺めてから、再び口を開いた。


「死人に口なし。拷問をやりすぎてしまった当の本人は多少罰を受けるだろうが……仕方あるまい」


 踵を返して独房を去ろうとする獄長に、少女は必死に檻から手を伸ばす。


「な、なら……父に合わせるという約束は……!」

「あぁ……そんな話もしていたな。しかしそれは……隠し場所が偽りで無かった場合の話だ。当然、その話はナシだ」

「…………っ!」


 重い独房の扉が閉まる。

 甘ったるい葉巻の香りが残る……その薄暗い空間で、オニキスはため息を吐く。


 と同時に、絶望に引き裂かれそうになっていた表情はふと戻った。


 やはり……ここの獄長の意地の悪さは評判通りだった。

 保険をかけておいて正解だったな。

 考えながら、目の下ににじませた涙を拭きとる。


 これですんなりと通ってくれれば、やることはもっと単純だったのだが。

 横領の上に隠ぺいをして来るとなれば、対処法は少し複雑になる。


 しかし、やるしかない。

 どんな手を使ってでも、もう一度父と……!

 


―――――――――――――


 

「オブシディアは財宝の位置を吐いたかぁ? まだ殺していないだろうな?」

 

 獄長はソファにゆったりと腰掛けながら、部下に分かり切った質問を投げる。

 存在しないものを答えようが無い、さっさと死んでしまえと心の中では思っていたのだが。


「はい、昨夜に位置を吐きました。該当箇所の廃墟を調べさせたところ……」

「……待て。吐いたのか? 本当に?」

「はい。調査も完了しております。該当箇所の廃墟からは、厳重に埋められた鉄製の箱が出てきました」


 動揺を隠すように、所長は窓の外に目線を移す。

 どういうことだ? 隠し財産は一つではないのか?


「大きさと重さからして、中身は金属ではないようです。おそらく書類ではないかという事でしたが……」

「書類? 隠し財産は、金ではなく情報だったのか?」

「王がなんとしてでも手に入れたかったものだという話ですので……財産は単なる金ではないだろうとは言われておりました。でなければ一介の商人如きと兵器の通商権を交換など致しません」


 それもそうだ。湯水のように金を持つ王が、自らそれを望んだとあれば……

 何かしら、王に関する醜聞か?

 

「調べさせた部下に、その資料は見せていないのだろうな?」

「勿論でございます。箱は金庫に保管してございますし、常に監視の目をつけて置いてあります。これから王の元へ献上する予定で」

「持って来い」


 獄長が言うと、部下はぽかんと口を開けて。


「は。ここへ……でございますか?」

「そうだ。開けて、中身を見せろ」

「は……それは、お言葉ですが……王に中身は見てはならないと言明されていますので……」

「命令が聞けないのか? ここの王は私だ、首を飛ばされたくなければ、鍵を寄越せ」


 怯えた表情の部下は少しの逡巡の末、部屋を出ていった。


「……こちらでございます」

「良し、ここに置け。……後ろを向いていろ。くれぐれも、この言は他言するな」

「……はい」


 持ち手部分が湿っている。緊張した面持ちで、部下は扉の方を向いた。

 王が兵器の通商権取引を捨ててまで守りたかった情報……一体どれだけのことが書かれているのか。


 ずいぶんと壁の厚い箱だ。

 鍵を差し込んでまわすと、かちりと子気味のいい音が鳴る。

 そして、そのまま蓋を開けようと力を込めると。


「……なんだ? 何かがつかえて……」

 

 パリン、と何かが割れたような音がして、勢いよく箱が空いた。


「あ、あぁ……っ⁉」

「ど、どういたしましたか……⁉」


 情けない声を出す獄長に、部下が律義に背中を向けたまま声をかける。

 

「な、なんだ、これは……⁉」


 ジューッという音と共に、中に入っていた書類が黒く変色してゆく。

 慌てて取り出そうとするも、紙が熱を持っていて触れられない。


 黒い炭になった書類は、あっというまにボロボロになり。

 あとに残ったのは、鼻を刺すような、つんとした臭いだけだった。

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