102 オブシディア家
「か、隠し財宝、ですかぁ……?」
「はい。オブシディアの身柄を寄越せってことは、十中八九狙いはその隠し財宝のことだと睨んでいるのですが」
会議を抜け出し、俺はオニキスにオブシディアの件について問い詰める。
もしお金で解決できるものなら、色々とやりようはあると思うのだが……
「か、隠し財宝なんてものはないですよ……。アレは貧乏人共の根拠のない噂話ですぅ……!」
「……またまた。豪商ともあろうお方が裸一貫でゲティアに逃げてきたんですから、存在しないわけ無いじゃないですか」
「ほ、本当ですぅ……! ユゴルアにいたころは、父を監獄から出すために法律を変えようと必死でしたからぁ……お金が入ったらそれが、そのまま議会を買収するための裏金になってたんですぅ……」
「……本当に言ってます?」
オニキスはぶんぶんと首を縦に振って首肯する。
なんだその話は。
巨額の裏金を流すのに忙しくて、オニキス自身は財産をため込めなかったって……?
「で、ですからお金を表で使うことがほとんどなくて……それで、裏では物凄いため込んでるんじゃないかって噂されるようになって……」
「結果として、隠し財産があるに違いない、って噂されるようになったと?」
ふむ。嘘みたいな話だけど、このモードのオニキスが堂々と嘘を吐けるとも思えない。
これが真実だとすると……
「じゃ、じゃあユゴルアは、もともと存在しないものを狙ってるってことですか?」
「た、たぶん、そうだと思いますぅ……。ユゴルアの法では、死刑に処される罪人の財産は、国家が保有することになっていますから……」
正直この話を聞くまでは、無理やりにでもオニキスを引き渡せば解決すると思ってた。
でも、奴らが存在しない隠し財産を狙っているのなら話は変わって来るな。
「こ、このままユゴルアに連れていかれたらわたし、存在しないもののありかを吐くように拷問されて……殺されるに決まってますぅ……!」
「そう、ですよね……。流石に国のために死ねとは言えないですし……」
びくびくとしながらこちらを見上げるオニキスに、俺は苦肉の策を口にしてみる。
「た、例えばですよ? いまオニキスさんの持っている財産をユゴルアのどこかに埋め」
「嫌です」
急に目つきが変わった。
お金はやっぱりダメ、ですか。
「お金は、私の命よりも大事なものです。こんな自分とは関係のない国の思惑のために使うなんて、絶対にありえません」
「…………それこそ、殺すぞと脅してもですか?」
「はっきり申し上げたはずです。お金は、私の命より大事です。脅しなんかであなた方の言いなりになると思ったら大間違いですよ」
「い、言ってみただけですから、こ、怖いですよ、その眼……」
目つきがガチだ。
命よりも大事て、どんだけお金好きなんだコイツ。
「そ、それに……た、たぶん、お金だけを埋めたところで意味は無いんですよね……」
「それは……どうして?」
「い、いえ……な、何でもないですぅ……」
なんだ、意味深だな。
……とにかく、オニキスの協力なしではこの交渉は上手くいかない。
なら他に方法は……
「そういえば、オニキスのお父上がユゴルアに幽閉されてる……んでしたよね」
「だ、だからなんですかぁ……?」
「言ってたじゃないですか、ユゴルアに入る方法を探してるって」
俺が言うと、オニキスは眉をハの字に曲げて怪訝そうにこちらを見上げる。
「わ、わたしがユゴルアに入りたいのは、父を救い出す為ですぅ……。死刑囚として送還されても、父を救えないじゃないですかぁ……」
「そうですか? こちらは隠し財産の場所というカードを持っているんですよ? これを利用すれば、お父上を救い出すこともできるかも……」
「く、詳しくお願い、します……!」
急に目を輝かせて、オニキスは詰め寄ってくる。
やはりこの子の行動原理は、父を救う事らしい。
「きゅ、急に食いついてきますね。ただの思い付きなんですが……お父上を釈放する代わりに財産の場所を吐く、という取り決めをすればいいという話です。ただ問題は……そんなものが存在しない、という事ですが……」
「そんなものは簡単です」
「……へ?」
また急に背筋を伸ばし、商人モードに戻ったオニキスが。
「私の溜めた財産を、ユゴルアに埋めれば良いんです」
「……大切な財産を? お金は命よりも大事なんじゃ……?」
「私の命よりも大事だ、と言っただけです。父の命よりも大事だ、とは一言も言っていません」
……マジか。
「わたしがお金を稼いでいるのは、父を救うためです。とりあえずはユゴルアそのものを買収できるような資金を貯めてやろうと思っていたのですが……現状の資金では、都市を四個ほどしか買えません」
ふざけた台詞に聞こえるが、彼女は大真面目なのだろう。
言ってオニキスはこちらを見上げ。勇ましく拳を突き上げた。
「今の全財産で父を救えるのなら、お買い得過ぎます。やってやろうではありませんか。全財産、投げ出して見せますよ……!」




