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101 新たな会議室

「まさかディアロ様に教皇の座を明け渡すとは! グラシアも珍しく正しい選択ができるのですねっ!」


 イザヤはずいぶんウキウキなご様子だ。スキップなんかしちゃって。


「ええ、ただ……こちらも引き続き裏から政治に携わらせてもらいます。ですから今日からはイザヤ、あなたのお力添えもいただきたくて……」


 俺はディアロ派の本拠地、北区にある教会に来ていた。

 公式の声明を出した直後、世間は賛否両論の声が上がっているが……当然、ディアロ派はみな勝利に酔いしれている。

 

「しょーがないですね! 本来なら教皇に最も近い位置にいるイザヤの時間は貴重なのですがっ! これがゲティアの未来のためとあらば仕方ありません!」

「そ、そうですか、ありがとうございます」


 すーごい嬉しそう。ウキウキすぎて交渉が簡単に済んでしまった。

 敵対してたもの同士だし、もうちょっと政治関与について文句言われるんじゃないかと思ってたんだけど……


 俺達は見覚えのある廊下を歩いて、奥の部屋へと進む。

 ここは一度来たことがある。

 アビスとゼタちゃんを連れて、ディアロと交渉をしたところだ。


「そしたらとりあえず、いつもの教皇室が使えなくなってしまったので……こちらの教会を代わりに使わせてもらいたくて……」

「え⁉ ここをですかっ? イザヤたちはあなた方の居た教会へ移りますから、多少部屋は空くでしょうけど……っ!」

「それで、一番機密性の高い部屋はどこかとディアロに訊いたら、ここを貸してくれることになって……」

「……ん? ここはディアロ様の部屋…………な、なんですかコレはっ⁉」


 そこは人でいっぱいだった。

 部屋中に資料やゴミや空き瓶が散乱し、至る所でそれぞれが大声で話したり笑ったりしながら何かをやっている。


「ど、どうしてこんな……っ!」


 テーブルの上の海図の上に経路を書き込む者、

 ソファで寝転がりながら酒を飲む者、

 本を広げながら計算を行う者、

 集中する人の体を触って普通に邪魔する者、

 真面目に話し合いながら計画を立案する者、

 どたどたと部屋を走り回って鬼ごっこをするもの……


「ま、毎日イザヤがディアロ様のためにお掃除をしているのに……」

「……本当にすみません。ウチの奴らが」


 涙目のイザヤに、俺はいたたまれなくなって詫びを入れる。

 この間来た時とは比べ物にならない程、クソ汚くなっている。


「その、ここを……二週間ほど使わせて欲しくて。他に機密性の高い場所が見つからず……」

「……これも、ディアロ様は承知しているのですか」

「え、ええ、それはもちろん。そもそもこの部屋を提案してくださったのはディアロさんなので……」

「なら! イザヤはそれに従いますっ!」


 覚悟を決めたように、イザヤは指を突き立てて言う。


「ただ! 一日の終わりには、きちんとおそうじ! 忘れずに、していただきますからねっ!」



―――――――――――

 


「つまりィ……今はまだ魔族軍が優勢でも、ユゴルアの兵器とヘロシュの融資、ウルグガルグの兵が、王国に力を貸すかもしれねェってことだなァ?」


 ヴィストが腕を組んで俺の説明をまとめると、ゼタ様が横から首を振る。


「それどころか、王国軍は既にユゴルアの新式大砲を導入してきています。砦の防衛でも精いっぱいだと……リヴィゼは言っていました」


 ……そうなんだよな。

 明らかに、遡行前よりも敵のペースが速まっている。


 恐らくイグナート爺さんの誘拐が失敗し、ヘロシュからの融資が取り付けられなくなったことで、敵が焦ったのだろう。

 ユゴルアとの取引も、かなりの金を積んだんじゃないか?

 

 と、ゼタ様の傍に控えていたニーアさんが口を開く。


「新式大砲の導入により、これまでの軌道計算による射程の優位が失われました。威力、数、射程の全てにおいて魔族軍の砲は敗れております」

「や、やべぇじゃねーか……魔族軍が負けたらどうせまた王国は、ゲティアに攻めてくんだろ? 大砲を伸ばすとかして……何とかなんねぇのか⁉」

「ねーそれよりさ、ユゴルアから盗んでくれば良いんじゃないの? その新式の大砲をさ!」


 ……馬鹿どもは相変わらずだな。

 ズーとアビスの頭の悪い意見に我慢ならなくなったのか、イザヤが耳元で囁いて来る。


「……こ、これ、かなりの国家機密ですよねっ⁉ こんな話を、こんな平民の前でして良いのですか……っ⁉」

「これもディアロには了承を得てます。それに、この人たちは信頼できる人たちですから」


 俺が言うと、イザヤはゼタちゃんと手を繋ぐアビスを怪訝そうに見て。


「し、しかし、明らかにみすぼらしい姿の子供がいるのですが……!」

「ねぇ、聞こえてるよ⁉ そこのおねーちゃん、初対面だからあんま言いたくないけど、声デカすぎて全部聞こえてるから!」

「あっ……そ、それは申し訳ありませんっ! みすぼらしい子供さんっ!」

「み、みすぼらしい連呼するな!」


 何やら喧嘩を始めてしまった小鬼族の二人を、周りは苦い目で見つめ――


 ……あれっ。


 この二人って確か……未来でマズいことになるんじゃないっけ?

 確か、民衆が燃え上がって教皇の処刑に至った理由、それがイザヤの暗殺で……その下手人が、アビスだったはず。


 しかしなんでアビスは急にイザヤを殺そうと……?


「それで……他国との交渉を進めている所なのですよね? ヘロシュとの交渉は今、どうなっているのですか?」


 オニキスが首をかしげると、ゼタ様が答えるより先にイザヤが立ち上がる。


「ヘロシュとの交渉はですねっ! ディアロ様が本国へ直々に赴いたことで上手くいっていますよ! 王国との交渉には応じないことを条件に、種痘の増産方法を提供したと聞いてますけど……」

「せんせいが、おしえた」

「そうじゃ、わしが教えてやった。そうすれば、これ以上奴らがわしを襲う意味は無くなるじゃろうて」


 へぇ。そうだったのか、イグナート先生が。

 確かに、これが一番安全な解決策なのかもしれない。


「ヘロシュが問題ねェならよ、ユゴルアの方はどうなんだァ? 今一番やべーのってユゴルアの持つ大砲なんだろ?」


 ヴィストの言葉に、ゼタ様が手元の資料をめくりながら答える。


「ユゴルアは王国と独占で通商を行っているわけではありませんでした。しかし……その交換条件として、オブシディアという名の少女の身柄を引き渡すよう要求してきているのです」

「……オブシディア? オブシディアの隠し財宝ってのは聞いたことあるけどよぉ」


 ズーが眉を寄せる。

 俺はこっそりオニキスを見やると、まるで初めて聞いたかのようにすましていた。

 演技力が高いからか、どうも白々しく見えない。

 

「オブシディアは、ユゴルアの元豪商ですっ! 兵器輸出を国家の承認を得ずに行い、処刑されそうになったところをゲティアに逃げてきたとの事で……こちらは捜索しているのですが、身元はまだ特定できておりません!」

「しかし……そのオブシディア? を見つけなければ、ユゴルアとの取引は出来ないわけですよね? どうやって見つけるつもりなのですか……?」


 オニキスはあくまでとぼけるつもりらしい。

 どさくさに紛れて捜査状況を探ってるし……これは、本人に話をしてみない事には始まらないな。

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