依頼と外つ国の漂流者③
食堂を出た後、ユイはそのまま隠し部屋へと向かった。
隠し部屋には、後輩たちがご飯を食べているところだった。
先ほどクリスティンから聞いた話──漂流人の噂の件を尋ねてみると、ミアとガウルはすでに知っていたようだ。
「数日前に聞きました、その話。北部の海岸……でしたっけ? 漂流人が見つかったの」
「俺も寮の同室の奴に聞いたっす。前に漂流人が流れてきたのって、何十年も前なんすよね? 俺も漂流人見てみてぇな」
2人が知っているのはそのくらいの情報らしい。
クリスティンの話曰く、その漂流人が生存している話はまだ出回っていないようだから、彼らも知らない。いずれ知ることにはなるだろうが、正式に公表されるまでは黙っていよう。
「それはそうと……ガウル、課題のほうは順調そう?」
「ぐっ……。め、飯の時くらい、勉強の話は……」
「でもユイ先輩、ガウル結構頑張ってますよ。この前抜き打ちで行われたテスト、以前よりずいぶん点数あがってましたもの」
「そうなの?」
「そうっす! 俺、結構頑張ったっすよ! 最近、少しだけど勉強が楽しいって思えるようになったっす」
「その割に教科の好き嫌い激しいよね」
「うっせぇ。できねぇのはどうしてもわかんねぇんだもん。仕方ねぇじゃん」
そう言って口を尖らせるガウルを見て、ミアが笑う。
ユイもテーブルに置かれていた課題の内容をちらりと見る。
春の時分に比べて、ガウルのやる気が継続しているのは、教えている身としてもよく分かる。まず取り組みを続ける事を目標にしていたので、今度は勉強の中身について深堀していこうか──。
そんなことを頭の片隅で考えていたので、ミアに呼ばれたことにすぐに気付かなかった。
「ごめん、ミア。どうかした?」
「いえ、大したことじゃ……。その、話が戻るんですけれど、先輩は外の国ってどういうところがあると思いますか?」
どうやら先ほどの漂流人の話からの質問らしい。
ミアからの問に、ユイは少し悩んで口を開く。
「アークレイリ王国以外に国があるって仮定で話をするけれど……この国と対して変わらないんじゃないかしら」
「変わらない……ですか?」
「もちろん、多少なりと違いはあると思うよ。でもその根本のところは同じというか……。ほら、アークレイリの王族と五家、一部の魔法使いたちは、元々他所からここに移ってきて、国を作ったじゃない。つまり、私たちと近しい血筋がそもそも外の国にいるのよ。そこを模倣して国を作ったのなら、そう大きくは変わらないんじゃないかな」
思ったことをそのまま口にしたので、具体性にかけた回答になってしまった。だけど、ユイはそれ以上話を広げる気はなかったので、ミアの様子を伺う。
彼女としても、あくまで世間話の一環としての話題だったのか。なるほど、と呟いたあと、話が続くことはなかった。
ユイが食堂から持ってきた乾燥果物を3人でつまみながら、各々自由に時間を過ごす。
ユイはガウルの課題を時おり見ながら、隠し部屋に保管している薬草や薬の数を数えていた。
どのくらい時間が経った頃だろう。
隠し部屋の出入口が開く音がし、少ししてイサクがひとりやって来た。
「……フレインは来てねぇのか?」
「フレイン先輩っすか? 今日は姿見てねえっすけど……」
「どこ行ったんだあいつ……」とぼやきながら、イサクはキッチンの方へと向かう。
「あ、そういや、外に伝言蝶が飛んでんぞ。誰か使ったか?」
「伝言蝶ですか? いえ、使っていないと思いますけど」
「……あ」
伝言蝶と聞いて、ユイはマール宛に伝言蝶を飛ばしていたことを思い出した。
隠し部屋の外に出ると、ドアの前でひらひらと行き場なく飛んでいる1匹の伝言蝶があった。手を差し出すと、伝言蝶はゆっくりと近づいてきて、そのまま1枚の紙へと姿を変えた。
差出人はマールからで、ユイが送った伝言蝶に対する返答であった。
3人に少し席を外す旨を伝えて、ユイはマールの研究室へと足早に向かう。
研究室に着くと、作業中のマールの姿があった。
「突然ごめんなさい。忙しいなら別日でもよかったのだけれど」
「いや、平気だ。…………よし。返事が遅れてごめん。話があるってことだったけど」
マールがペンをテーブルに置き、話を聞く態勢へとなおる。
ユイは、先日の論文発表会の助手の件について、引き受けたいと答えた。
その回答を聞いて、マールは満面の笑みを見せた。
「マジか! 本当にありがとう! いやー、断られんじゃないかって思ってたんだよなぁ」
「今後の為にもなるかもしれないと思って……。というより、本当に私でいいいんですか? 他にも声をかけている人がいるなら引きますけど」
「いや、ユイにしか声かけてない。言っただろ? 研究内容の扱いからして、合致する人はそうそういないんだって」
「いやー、良かった良かった」とユイの手を取りぶんぶんと振るほどに、マールは嬉しかったらしい。
これほど喜びを表しているマールを見るのは初めてだったので、ユイの方も悪い気はしない。
未だに手を振るマールから自身の手を引き、今後の予定を尋ねる。
どうやらすぐすぐに手伝うということはまだないらしく、とりあえずは何度か行う実験の手伝いが欲しいと言う。
手が欲しい時は予め連絡して欲しいことを告げて、ユイはマールの研究室を後にした。




