行動の意味②
そのまま隠し部屋を出たユイは、ちょうど昼時ということもあり、食堂へと足を向けた。
時間も時間なので、食堂にはたくさんの学生がおり、テーブルもほとんど埋まっている。
いつも座っている席へと向かうと、そこには見慣れたメンバーたちがすでに座って昼食を取っていた。
彼らもユイの姿を見つけ、手招いて声をかける。
「ユイ、久しぶりー。今から昼?」
「そうだね。ここ、座るよ。ハンナはそこまでじゃないけど、アスクルは久しぶりだよね」
「確かに、ここ最近顔すら見てなかったかも。やっぱり専門コースが違うと、授業受ける教室も違うから、なかなかすれ違わないよなぁ」
軽く挨拶だけ済ませ、ユイも昼食を取るために一度席を離れる。
食べれそうな分だけをよそい席へ戻ると、いつの間にかギルフィの姿があった。
「ギルフィも来たの。この4人が集まるのは、久しぶりね」
「本当にねー。この中だとアスクルくらいしか頻繁に会ってなかったしー」
「なぜか共通授業が被ってんだよ。本当に、おかしいくらい被るの」
「共通授業はいくつかの専門コースごとに時間分けされているからな。鑑石コースと魔法工学コースがその時間帯に一緒なだけだろう」
「……それもそっか。そうじゃなきゃ、ハンナがそんなにまじめに授業取りまくってるほうがおかしいもんな」
「ちょっとー、それどういう意味よー」
もはや見慣れたやり取りに、ユイは昼食を食べながらしばらく聞きに回る。時おり話題をふるハンナやアスクルに答えていると、少しずつ頭の中が整理されてきた。
「あ、そう言えば……。ユイ、掲示板の知らせは見たか? 3コマ目の授業、休みになったぞ」
ふと思い出したように言うギルフィに、ユイは知らなかったと首を振る。どうやら代わりの授業もないようなので、突然時間が空いてしまった。
「えー、いいなぁ、お休み。こっちも何か授業なくならないかなー」
「それは先生たちに言わないとだね。だとしても、それで休みにしますって人いると思う?」
「怒られて終わるのがオチだろう。……それで、ユイ、特に予定もないなら以前渡した論文の感想を聞かせてもらえないか? レポートでまとめてもらったところ以外に、聞きたいこともある」
「……いいわよ。急いでしないといけないこともないし」
ギルフィの提案に、ユイも素直に乗る。
予定がないと言うのも本当だが、今は誰かと話していた方がいいのかもしれないと思ったからだ。
昼食後、授業へと向かうハンナとアスクルと別れ、ユイとギルフィは空き教室を探しに校内を歩く。
しかし、運が悪く、空いているちょうどいい教室が見当たらない。
「参ったな。どこかしらは空いていると思ったんだが……」
「内容的に問題なければ、食堂に戻る? 授業始まったから、人は少ないと思うよ。もしくは、図書館だったら空いているかもしれない」
ギルフィは少し迷った末、図書館へ向かうと決めた。
図書館がある建物まで移動する。
お互い、こういう時は進んで会話する方ではないけれど、今日は珍しくユイの方から話題を振った。
「ギルフィ、参考までに聞きたいことがあるの。いい?」
「聞きたいこと? 答えられることならいいが……」
「もしギルフィが女性にキスをする場合、どういう時にしたくなるものなの?」
「…………は?」
ギルフィは一拍あけ、思わず隣を歩くユイを凝視する。
「……何か悪いものでも食べたのか?」
「そういうのじゃない。ちょっと……気になったから、参考までに話を聞いてみたいだけ」
ユイがからかい話をしている訳ではないと悟ると、ギルフィは咳払いをしてから考え始める。
「……そうだな、まず相手を好ましいと感じてなければしないだろう。その場の流れで、という人も多いと聞くが、それは相手に対して失礼な気がするから、俺自身は明確な理由をもっておきたいな」
「理由があって、好ましい人なら誰でも?」
「誰でも、はさすがに節操なしだろう。大半は恋人や婚約者とかじゃないのか。貴族であれば、婚約者がいてもおかしくないだろうし、将来が決まっている相手であれば、挨拶や別れの時に口づけするとも聞くぞ」
フレインと似たような答えもありつつ、また違った答えが出てきた。ギルフィの考えを聞きつつ、ユイは更に質問する。
「じゃあ、婚約者とかじゃない相手にするのは、どういう理由から?」
「それは……さすがに人によるんじゃないのか。お互い好き合っていて、合意の上でもあるだろうし。逆に、その行為に特段意味がない可能性もある。ただの挨拶とか戯れとか……」
話の途中で、2人は図書館へと着いた。
いったん会話を止め、空いている個室がないかを探す。だが運が悪く、ここもすでに個室は埋まっているようだ。
探し回るのもいいが、このまま何もせず時間だけが過ぎていくことになるため、諦めて食堂へ移動することに決めた。
食堂へと移動する中、ギルフィの方から先ほどの会話へと戻る。
「……話は戻るが、貴族と平民とじゃ感覚が違うだろう。それにあくまでさっきのは俺の考えだということを覚えておいてくれ。例えば、ハンナやアスクルに聞いたら、また違う答えが返ってくるだろう」
ユイは頷き返す。
その辺の感覚が貴族と平民で違うということは、さすがのユイも理解している。だが貴族側である以前に、そもそも恋愛等に関する知識は小さな子どもと対して変わりない。前提条件となる知識から疎いものだから、他人にその行動の意味を尋ねることからするしかない。
「……そうすると、人によって理由は違うから、その時々で聞いた方が早いということね」
「……極論は、そうなるか。だが、だいたいの人は理由だなんてものを考えたりしないと思うぞ。聞いたところで、具体的な中身なんてないだろう」
「そうかもしれないけれど、感情なんてものは目に見えないのだから、知りたければ聞くしかないと思うよ」
そうこうしているうちに、2人は食堂へと戻ってきた。昼時の頃とはうってかわり、今はちらほらと人がまばらにいる程度だ。
「場所、ここにする? 最悪遮音魔法かければ、音は漏れないけど」
「さすがにこれ以上、時間を使いたくないから、ここにしよう。それに本研究じゃないんだ。他人に漏れたところで、影響はないさ」
ユイの質問から一変、さっそく本来の目的であるギルフィの論文の話へと移っていく。
話が移りながら、ユイの方でもある程度の考えがまとまってきた。
──ひとり悩むくらいなら、本人に聞こう。
そう結論づけ、今夜にでも隠し部屋へ赴こうと決める。
自身の行動を決めたおかげか、少し気持ちも整理できたようだ。
自分の悩みを1度頭の隅によけ、ユイはギルフィが説明する話へと集中していった。




