卒業パーティー②
エギルは「元気そうだな」というと、ユイの向かいの席に腰を下ろした。
「勉強中だったか? 邪魔した?」
「いいえ、ちょうど休憩しようと思ったところです。それにしても、ずいぶん久しぶりですね。エギルも元気そうで何よりです。マールも元気ですか?」
「俺も頻繁に会ってるわけじゃないけど、この間見かけたときは元気そうだったよ。忙しそうにはしていたけどな」
「俺も忙しいことに変わりはないけど」と言って、エギルは笑い飛ばす。
実際、この広い校舎では、すれ違うことすらほとんどない。4年に上がってから、エギルと会うのは今日が初めてではないだろうか。
少しの間、お互いの近況報告がてら世間話に花を咲かせる。
その流れで、7年生であるエギルとマールの卒業の話が出てきた。
「そういえば、そうでしたね。2人とも、最終学年だということを忘れてました。卒業後はどこの医院で働くんですか?」
「んー、そうねぇ……。実はまだ決めかねてるんだよなぁ。家や親戚の伝手で働くことはできるけどさ、全く知らないところで働いてみるって言うのもいい経験かなぁって思ってもいて」
「なるほど……。確かに、一族間でやっているところ以外という選択肢も一理ありますね」
「そうだろ? そうなると、紹介状か俺自身を売り込みに行かないといけないから、ちょっとめんどくさいところはあるんだけどな」
そろそろ決めないとと笑ってはいるが、卒業までもうさほど日はない。就職先選びは、今後においてもかなり重要なところだろう。
頑張ってほしいという言葉とともに、ユイはもうひとりの親戚についても尋ねる。
「マール? あぁ……俺も詳しくは聞いてないけど、なんか学校に残るみたいな話はしてたかな」
「残る……? まさか、卒業できないとか」
「いやいや、そうじゃなくて。研究生……だっけ。卒業しても先生の下について勉強しながら働ける制度。それで学校に残るとか言っていたような」
エギルも詳しくは知らないのだろう。記憶している限りで話してくれた。
ひと通り話し終えたあたりで、エギルが思い出したように、懐から3つの手紙のようなものを取り出した。
「今日はこれを渡したくて探してたんだ。3通渡しておくから、仲良い奴らとでも来なよ。マールから貰ってたら、誰かに譲ってもいいからさ」
その紙には、どれも「招待状」という文言が書かれていた。
「……何の招待状?」
「何って、この時期だと卒業パーティーしかないだろ。……あれ、もしかして、知らねぇの?」
当たり前のように言われたが、ユイは初めて聞いた。この時期に、そのような催し物をしていただろうか。
「私を招待してくれるということ?」
「そうそう。可愛い妹分だろう? お前にも、俺らの門出を祝って欲しいからさ」
そう言って、にかりと笑うエギル。
そして招待状をしげしげと眺めるユイを置いて、エギルは用が済んだとばかりに、さっさと席を立っていってしまった。
「……招待状」
フェールディング家にいた頃は、そういうものを受け取った記憶は朧気ながらある。
だが、こうした親しい者からの招待状というものは初めてだ。
3通ある招待状を手に、ユイは残りの2通をどうしようかとしばらく悩み始めた。
「卒業パーティーね。卒業式が終わったあとに、7年生の有志と学生会主催で毎年開かれているのよ」
──夜。
隠し部屋に行くと、くつろいでいたフレインとイサクがいた。
エギルから貰った招待状のことを話すと、彼らは卒業パーティーについていろいろと教えてくれた。
「そうか。もうそんな時期か」
「早いわよねぇ。お世話になったアクラネス兄弟が、もう卒業ですって」
「世話になったのは最初だけだけどな」
「あたしたちも2年後には卒業でしょう? 7年なんて、本当にあっという間よね」
何気ないフレインの言葉に、ユイはそうかと気付く。ユイよりひとつ上の彼らも、あと2年したら卒業なのだ。そう思うと、ここまで割と濃い時間を過ごしてきた分、物寂しさを感じそうである。
感傷に浸りそうになるのを抑え、ユイは2人にエギルから受け取った招待状をどうするかと尋ねる。
「せっかくのエギル先輩からの招待なら受けたいところだけれど……ごめんなさい。あたし、別の先輩から招待状を受け取っちゃったのよね。参加するにはするけれど、重複するのはもったいないわ」
「なるほど……。イサク先輩はどうですか?」
「あー……俺も別の先輩から貰っちまった。悪ぃな」
どうやら先輩たちは、既に他の人から招待を受けたらしい。ユイと違って、彼らは交友関係が広いだろうから、他の人から受け取っていても何ら不思議ではない。
そうなると、この3枚のうち2枚の行きどころに悩む。せっかく受け取ったのだ。誰かしら誘って行きたいところではあるが、如何せん、ユイの交友関係は狭い。残り2枚、誘うべき人がなかなか決められない。
「……どうしよう。あと2枚分、誰かいるかな」
ぽつりと零したその言葉に、フレインは「ちょうどいいのがいるじゃない」と声をかける。
「ちょうどいいの?」
「そうよ。……あ、ほら、噂をしたら来たわ」
ドアの開閉音が耳に入り、それから話し声が聞こえてきた。
「あ、先輩方。今日はおそろいなんですね」
「お疲れ様っす」
やって来たのは1年生の2人。
「なるほど。ちょうどいいですね」
ミアとガウルを見ながら納得するユイに、2人はキョトンとした表情でお互い顔を見合せた。




