卒業パーティー①
身に凍みるような冬が過ぎ、だんだんと日中の日差しに柔らかさを感じ始めた頃。
食堂でひとり勉強をしているユイのもとに、疲れた様子のギルフィが歩み寄ってきた。
「あれ、ギルフィ。珍しいね。今日授業はないの?」
「今日は最後のだけだ。昨日まで総合演習の実地があったから……」
「あ、もしかしてギルフィたちの班は最後だったの? それはお疲れ様」
はぁと明らかに疲労が溜まっている状態のギルフィ。ユイの向かいの席に座り、珍しくそのまま机に突っ伏した。
「もしかして寝てないの?」
「昨日の夕方に実地が終わって、レポート提出が今日までだからな。寝ずに仕上げて、つい先ほど提出してきた。仮眠しようかと思ったが、その前に軽く何か腹に入れようと思ってな」
「なるほど……。私何か取ってこようか? あまり重くないほうがいいと思うから、粥とかスープあたりのほうがいい?」
「いや、大丈夫だ。自分で取りに行くさ」
そういって、ゆっくりと立ち上がり、ギルフィは食べ物が立ち並ぶエリアへと歩いていく。
少しして、カップ1杯のスープを手に戻ってきた。
「ユイたちは演習は早めに終わっていたんだよな? 場所はどこだったんだ?」
「私たちは……ストールガク山だったわ。まだ雪が降っている時期だったから、すごく大変だった」
「北部か……。それでよく教員たちも選択したな……」
「ギルフィは? つい最近だと……どこだったかしら?」
「俺らは海岸だったな。ニーチーファイ。山よりはと思ったが、まだまだこの時期は夜風が厳しかったな。野宿が今回いちばんしんどかった」
4年末の探掘コースの試験のひとつに、5年と合同の実地総合演習がある。
いくつかの班に分かれ、不定期で数日間、転移扉より出てその場所で演習を行う。
ユイは割と序盤に終えていたが、どうやらギルフィは昨日まで行っていたらしい。
それぞれ行く場所も異なるので、それぞれの苦労の方向性が異なる。
カップのスープをゆっくり飲みながら、ギルフィはちらりとユイの手元を見やる。
「そっちはまだ授業が残っているのか? そろそろどこもテストが授業終わりが多くなってくると思うが」
「授業自体は残り1教科よ。これは魔法医療資格の勉強。実技試験は終わってて、残り筆記だけだから」
ユイは手元の参考書を見ながら言う。
魔法医療資格は、基本的に魔法医学コースに進んだ学生たちが必要とする資格だ。
ユイも初級資格はすでに取得済みだが、フレインの提案により、取れるうちに中級資格まで取ることを決めたのだった。
「探掘コースに、その資格は別にいらないだろうに」
「……できることは、やっておきたいから」
ギルフィにユイの目指すところは話していない。今さら聞かれもしないのに話す気はないので、ありきたりな言葉で返答した。
当の本人は、眠気も相まってか、虚ろな声で返事をする。
「それより、少しでも寝てきたら? 傍から見てて、いつものギルフィじゃないから、変に気になるわ」
「別に気になることはないだろう。でも、そうだな。さすがに、眠い」
「次の授業まで寝てくる」と、カップのスープを一気に飲み干して、ギルフィは席を立っていった。
ユイはその後も、ひとり勉強を続けた。
授業の終わりを告げる鐘らしき音が耳に入り、ユイはぱっと視線を上げる。
思いのほか集中していたらしい。気付いたら、食堂には先ほどより人が増えていた。
次の授業までは、まだ時間がある。このまま勉強しようと思ったが、どうやら集中力が切れてしまったようだ。
気分転換に隠し部屋にでも行こうか。
そう思い、広げていた参考書などをしまい始める。
「あっ、いたいた。久しぶりだな、ユイ。元気にしてたか?」
席を立とうとした時、久しぶりに聞く声に唐突に話しかけられた。
「エギル」
声の方へと視線を向けると、そこには久方ぶりに会う、親戚のエギル・アクラネスが立っていた。




