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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
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調査⑤



「本気で言ってるの?」


 思わず大きな声が出てしまったため、慌てて口元を押さえる。


 時刻は先ほど24時の鐘が鳴り終えた頃。

 月明かりのみを頼りに、ユイとクリスティンは転移扉がある管理室付近へと向かっていた。


 昼間、管理室を訪れるも、管理人から渋い態度を取られ、確認したかった情報は見れぬままだ。ユイもクリスティンもそこで諦めるつもりはなかったが、クリスティンの提案は想像の斜め上をいっていた。


「こうでもしないと、あの管理人は一生俺らに記録を見せてはくれないぞ。少し時間を空けて考えてみたが、やはりどこか怪しいからな」

「そうだとしても、管理室に忍び込むなんて。万が一、まだ人がいたらどうするの」

「その辺りは事前に確認してきた。今日の転移扉の利用者の中に野宿予定の者は居なかった。と言うことは、最後の利用者が戻ってきたところで、管理人の仕事は終わりのはずだ。管理室は施錠され、誰もいない。ちなみに、明日の予定も昼以降となっていたから、早朝からここに来ることもないだろう」


 よほどしっかり調べてきたらしい。

 それだけ、忍び込む算段が初期からあったのだろうか。


 ただ、口ではいろいろ言っているが、ユイもクリスティンの行動に全く反対という訳ではない。

 あの管理人の言動の違和感を、未だ分からずにいる。それに早くこの依頼を片付けてしまいたいのだ。多少の無茶はしょうがない。




 2人は月明かりのみを頼りに、ゆっくりと管理室へと進んでいく。

 明かりをつけたいところだが、人に見つかるのは避けたかった。


 ようやく管理室付近までやってきたユイたち。

 近くの遮蔽に隠れながら、周囲に人がいないかを探る。


「電気はついてないが……。中に人がいるかまではさすがに分からないな。もう少し近づいてみるか」

「待って。確認するなら私がやる」


 ユイは無言魔法で、自分の感知領域を管理室方面へと伸ばしていく。

 しばらく探って、変化がないことを確認した後、感知領域を解いた。


「……近くに魔法生物小屋があるから絶対じゃないけど、管理室には人はいなさそう。魔素の気配はなかった」

「……今のは領域魔法か? 魔法騎士コースを取るやつ以外で会得している人ははじめて見た」

「領域魔法というより、自分の魔法感知の領域をただ伸ばしただけよ。領域魔法はさすがに覚える気はないわ」


 クリスティンはもう少し話を広げたそうだったが、今は別にやることがある。

 ユイの感知領域を信じ、2人はそうっと管理室へと向かう。


 入口まで着いたが、当然と言えば当然、鍵がかかっていた。


「魔法痕跡はどうしても残るけど……解錠していいよね」

「いや、待ってくれ。魔法痕跡を残さない方法があるんだ」


 そう言ってクリスティンは、どこからともなく細い針のようなものを2本取り出す。そしてそれらを錠へと差し込んだ。

 何をしているのかと尋ねるも、しばし待てと言ったまま、真剣にガチャガチャと手元を動かす。


 言われた通りに待つこと、数分。


 ガチャリ、と錠が開く音が聞こえた。


「……よし、何とか開いたな」

「嘘、どうやって……?  2本の棒で開けれるものなの?」

「1年の時か。魔法道具とかに詳しい人と知り合ってな。その時にこういうやり方で鍵を開けれると聞いたんだ。もちろん、これも魔法道具でも何でもないし、魔法も一切使ってないぞ」


 そう言って、管理室のドアを開けて中へと入っていくクリスティン。

「それって、覚えちゃいけないものじゃないの……?」と言うも、今回ばかりは助かる。彼の行動を見なかったことにして、ユイもクリスティンの後に続いて中へと入った。


 入口のドアを完全に閉めると、室内は真っ暗になる。


「明りよ、灯れ(クェイクァープ)」


 先に入ったクリスティンが、杖先で室内を淡く照らす。ユイも同じように杖を取り出し、明かりを灯した。


「それで、どうする? ひとまず、手分けしてさがしてみる?」

「……少し待て。確かこの辺りを……悪いがこの辺りを照らしてくれないか」


 クリスティンは壁に備え付けてある棚の下の方を漁る。ユイは言われるまま、彼の手先のほうに杖を向ける。


 クリスティンは少しの間、棚の中を漁っていたが、やがて目的のものを見つけたのだろうか、中から四角い箱のようなものを取り出した。


「……何が入っているの?」

「……これは、ずいぶん上質な紙だな。王宮内で使用する紙と引けを取らないぞ」


 そう言って、紙の束をユイへと手渡す。

 受け取った瞬間、紙の質感に驚きを覚えた。なるほど、クリスティンがそう言うだけはある。


 紙の束は、片側を糸で綴じられており、ぱらぱらとめくって見ることが出来た。

 杖の明かりをその紙の方へと向けて、書いてある内容を確認する。


「…………ただの記録書のようよ? ぱっと見た感じ、怪しそうな中身はないけれど」

「そうか。じゃあ、この辺りの他のところか……」


 そう言って、クリスティンはまた棚を漁り出す。

 ユイも目的の記録簿がないかと、棚を漁ってみる。

 無差別に物が仕舞われており、意外なところに巻物が挟まっていたりと、ずいぶん探し物がしずらい棚であった。


 あまり時間をかけたくないところだが、なかなか目的のものが見つからず、思ったよりも時間が経った頃。


「……ユイ・フェールディング、これを見てくれ」


 今までと打って代わり、かなり神妙な声色のクリスティンが、見つけた羊皮紙をユイに手渡す。

 ユイはそれを受け取り、羊皮紙に明かりを近付けながら中身を読む。


 初めに目に入ったのは、100年ほど前の日付け。


『転移扉:スクーリング森林地帯

 魔石:魔獣 大猿に近しい種族

    ランクC~B相当

 憑かれた人物:レイスヴィーク大学校3年男子

 結論:

 魔石との相性✕。魔獣と人間の組み合わせは見直すべき。もしくは、知能が高い魔獣を選択するべし。』


 一部削れて文字が読みにくいところもあったが、いちばん先に目に入った箇所には、このように書かれていた。


「これって……」


 ユイはさらに羊皮紙に書かれた文字を読み進める。

 記録としては3件程だろうか。だが、どれも同じような内容を記したものであった。


「俺たちが調べている内容に、いちばん近いと思わないか?」

「確かに、言われてみればそうだけど……。だけど、この記録だけじゃ、決定的なものとは言えないわ。他にはないの?」

「探してみるが、今のところ、それと同じようなのが何件かあるくらいだ。やはりもう少し探してみるか……」


 ダンテの一族からお願いされた内容に似た、近しいものは感じる。これが取っかかりとなりそうだが、証拠としては弱いかもしれない。



 ユイもクリスティンも、探し物に夢中で、周囲の警戒を怠りつつあった。

 そのため、近付いてくる魔法使いの気配に気付かなかった。


「まさかと思って来たが、昼間の学生たちか」


 突如として入口から聞こえた声に、2人は驚いた。

 そして即座に明かりを声のした方へと向ける。

 管理室の入口、そこには昼間会ったここの管理人が2人の明かりに眩しそうに目を細めて立っていた。







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