調査⑤
「本気で言ってるの?」
思わず大きな声が出てしまったため、慌てて口元を押さえる。
時刻は先ほど24時の鐘が鳴り終えた頃。
月明かりのみを頼りに、ユイとクリスティンは転移扉がある管理室付近へと向かっていた。
昼間、管理室を訪れるも、管理人から渋い態度を取られ、確認したかった情報は見れぬままだ。ユイもクリスティンもそこで諦めるつもりはなかったが、クリスティンの提案は想像の斜め上をいっていた。
「こうでもしないと、あの管理人は一生俺らに記録を見せてはくれないぞ。少し時間を空けて考えてみたが、やはりどこか怪しいからな」
「そうだとしても、管理室に忍び込むなんて。万が一、まだ人がいたらどうするの」
「その辺りは事前に確認してきた。今日の転移扉の利用者の中に野宿予定の者は居なかった。と言うことは、最後の利用者が戻ってきたところで、管理人の仕事は終わりのはずだ。管理室は施錠され、誰もいない。ちなみに、明日の予定も昼以降となっていたから、早朝からここに来ることもないだろう」
よほどしっかり調べてきたらしい。
それだけ、忍び込む算段が初期からあったのだろうか。
ただ、口ではいろいろ言っているが、ユイもクリスティンの行動に全く反対という訳ではない。
あの管理人の言動の違和感を、未だ分からずにいる。それに早くこの依頼を片付けてしまいたいのだ。多少の無茶はしょうがない。
2人は月明かりのみを頼りに、ゆっくりと管理室へと進んでいく。
明かりをつけたいところだが、人に見つかるのは避けたかった。
ようやく管理室付近までやってきたユイたち。
近くの遮蔽に隠れながら、周囲に人がいないかを探る。
「電気はついてないが……。中に人がいるかまではさすがに分からないな。もう少し近づいてみるか」
「待って。確認するなら私がやる」
ユイは無言魔法で、自分の感知領域を管理室方面へと伸ばしていく。
しばらく探って、変化がないことを確認した後、感知領域を解いた。
「……近くに魔法生物小屋があるから絶対じゃないけど、管理室には人はいなさそう。魔素の気配はなかった」
「……今のは領域魔法か? 魔法騎士コースを取るやつ以外で会得している人ははじめて見た」
「領域魔法というより、自分の魔法感知の領域をただ伸ばしただけよ。領域魔法はさすがに覚える気はないわ」
クリスティンはもう少し話を広げたそうだったが、今は別にやることがある。
ユイの感知領域を信じ、2人はそうっと管理室へと向かう。
入口まで着いたが、当然と言えば当然、鍵がかかっていた。
「魔法痕跡はどうしても残るけど……解錠していいよね」
「いや、待ってくれ。魔法痕跡を残さない方法があるんだ」
そう言ってクリスティンは、どこからともなく細い針のようなものを2本取り出す。そしてそれらを錠へと差し込んだ。
何をしているのかと尋ねるも、しばし待てと言ったまま、真剣にガチャガチャと手元を動かす。
言われた通りに待つこと、数分。
ガチャリ、と錠が開く音が聞こえた。
「……よし、何とか開いたな」
「嘘、どうやって……? 2本の棒で開けれるものなの?」
「1年の時か。魔法道具とかに詳しい人と知り合ってな。その時にこういうやり方で鍵を開けれると聞いたんだ。もちろん、これも魔法道具でも何でもないし、魔法も一切使ってないぞ」
そう言って、管理室のドアを開けて中へと入っていくクリスティン。
「それって、覚えちゃいけないものじゃないの……?」と言うも、今回ばかりは助かる。彼の行動を見なかったことにして、ユイもクリスティンの後に続いて中へと入った。
入口のドアを完全に閉めると、室内は真っ暗になる。
「明りよ、灯れ」
先に入ったクリスティンが、杖先で室内を淡く照らす。ユイも同じように杖を取り出し、明かりを灯した。
「それで、どうする? ひとまず、手分けしてさがしてみる?」
「……少し待て。確かこの辺りを……悪いがこの辺りを照らしてくれないか」
クリスティンは壁に備え付けてある棚の下の方を漁る。ユイは言われるまま、彼の手先のほうに杖を向ける。
クリスティンは少しの間、棚の中を漁っていたが、やがて目的のものを見つけたのだろうか、中から四角い箱のようなものを取り出した。
「……何が入っているの?」
「……これは、ずいぶん上質な紙だな。王宮内で使用する紙と引けを取らないぞ」
そう言って、紙の束をユイへと手渡す。
受け取った瞬間、紙の質感に驚きを覚えた。なるほど、クリスティンがそう言うだけはある。
紙の束は、片側を糸で綴じられており、ぱらぱらとめくって見ることが出来た。
杖の明かりをその紙の方へと向けて、書いてある内容を確認する。
「…………ただの記録書のようよ? ぱっと見た感じ、怪しそうな中身はないけれど」
「そうか。じゃあ、この辺りの他のところか……」
そう言って、クリスティンはまた棚を漁り出す。
ユイも目的の記録簿がないかと、棚を漁ってみる。
無差別に物が仕舞われており、意外なところに巻物が挟まっていたりと、ずいぶん探し物がしずらい棚であった。
あまり時間をかけたくないところだが、なかなか目的のものが見つからず、思ったよりも時間が経った頃。
「……ユイ・フェールディング、これを見てくれ」
今までと打って代わり、かなり神妙な声色のクリスティンが、見つけた羊皮紙をユイに手渡す。
ユイはそれを受け取り、羊皮紙に明かりを近付けながら中身を読む。
初めに目に入ったのは、100年ほど前の日付け。
『転移扉:スクーリング森林地帯
魔石:魔獣 大猿に近しい種族
ランクC~B相当
憑かれた人物:レイスヴィーク大学校3年男子
結論:
魔石との相性✕。魔獣と人間の組み合わせは見直すべき。もしくは、知能が高い魔獣を選択するべし。』
一部削れて文字が読みにくいところもあったが、いちばん先に目に入った箇所には、このように書かれていた。
「これって……」
ユイはさらに羊皮紙に書かれた文字を読み進める。
記録としては3件程だろうか。だが、どれも同じような内容を記したものであった。
「俺たちが調べている内容に、いちばん近いと思わないか?」
「確かに、言われてみればそうだけど……。だけど、この記録だけじゃ、決定的なものとは言えないわ。他にはないの?」
「探してみるが、今のところ、それと同じようなのが何件かあるくらいだ。やはりもう少し探してみるか……」
ダンテの一族からお願いされた内容に似た、近しいものは感じる。これが取っかかりとなりそうだが、証拠としては弱いかもしれない。
ユイもクリスティンも、探し物に夢中で、周囲の警戒を怠りつつあった。
そのため、近付いてくる魔法使いの気配に気付かなかった。
「まさかと思って来たが、昼間の学生たちか」
突如として入口から聞こえた声に、2人は驚いた。
そして即座に明かりを声のした方へと向ける。
管理室の入口、そこには昼間会ったここの管理人が2人の明かりに眩しそうに目を細めて立っていた。




