調査④
学生会から借りてきた巻物は、実に読み終えるのに4日ほど要した。
だがその量に反し、得られた情報はどれも似通っており、これといって大した情報ではないように見えた。
そして、ユイとクリスティンの空き時間がちょうどあったある日。
2人は転移扉のある管理室へと一緒に向かっていた。
「こっち方面に来るのはほとんどないから、なんだか新鮮だな」
クリスティンが周囲の景色を物珍しそうに眺めながら言う。
「授業でもこっちへ来ないの?」
「来ることはないな。1年の時に取った生物学くらいか。それ以降は図書館から外を見ることはあっても、外からこうして見ることはなかったはずだ」
ユイからしてみれば、転移扉を経由して課外行動をする際は必ずと言っていいほど通るため、もはや通いなれた道といえよう。5年生になれば、授業でも転移扉を利用して移動することもあると聞いているため、これから先も頻繁に利用するだろう。
そんな世間話をしながら歩いていると、あっという間に管理室の前までたどり着いた。
授業時間ということもあってか、さすがにこの時間帯に周囲に学生は見当たらない。
いつもドアが空いているイメージがある管理室も、今は閉まっていた。
ユイたちは、中に人がいると思って、ノックしてからドアを開ける。鍵はかかっていないので、ドアはすんなりと空いた。
「……誰もいない?」
中を見渡すも、そこにはいるはずの管理人の姿がない。
少し席を外しているのだろうと、近くにある簡易椅子に腰を下ろす。
──そう言えば、ここの管理人って、よく席を外している気がする。
ユイたちが課外行動のために立ち寄る時、だいたいいつも外からやってきたイメージがある。建物の中で座って待っているところを、あまり見たことがない。
1年の頃から変わらぬ管理人なのだが、何となく他人と関わらないようにしているように見える。外部から雇っている人物ではあるのだが、4年近く同じところにいれば、ある程度学生や先生たちと親しくしててもおかしくない。だが、ここの管理人に関しては、そのような姿や話を一切聞かない。
思い返すと、人との関わりを避けているように思うが、ユイ自身がもともと人との関わりは最小限なタイプのため、さほど気にしなかった。こうして改めて思い返すことで、少しばかりの違和感を覚えた。
「……クリスティン・ハワード、少し気になったのだけれど──」
「誰かいますか?」
覚えた違和感を伝えようとクリスティンに話しかけるのと同じ頃、入口から人の声が聞こえた。
視線を向けると、ここの管理人がちょうど戻ってきたようだった。
「あぁ、学生さんか……。お待たせして悪かったね。……2人だけかい? 見たところ上級生っぽいけど、さすがにそれでも2人で出るのはオススメしない」
ユイたちを転移扉の利用者と勘違いしたまま、管理人は話を進める。
「いえ、俺たちはあなたにお願いがあって来たんです」
管理人の話を訂正つつ、クリスティンはさっそく本題へと話を切り出す。
「……お願い?」
「はい。実は俺たち、少しばかり調べ物をしていまして。転移扉……にも関わりは少しあるので、可能ならばこの管理室で記録している巻物など、見せてもらえないかと思って訪ねた次第です」
管理人にとっては、何故急にと不審がるのも当然だろう。事前に連絡もなく、いち学生が尋ねるのだから尚更だ。
だけどこの時、一瞬見せた管理人の表情に、ユイは違和感を覚えた。
本当に一瞬だったため、気のせいと言われればそれまでだ。しかし、喉に骨が刺さったように、違和感が拭えない。
「……何故、それを見たい?」
最もな質問だが、クリスティンはあくまで詳しい理由はふせたまま、閲覧できないかと再度頼んだ。
「……理由が分からないまま、学生に簡単に見せれるものじゃない。せいぜい、出入りの管理簿くらいなら見てもいいが。それ以外はダメだ」
「……この話が、五家からの依頼だとしてもですか?」
クリスティンの声色が少し変わったような気がした。ユイは余計な口は挟まず、2人のやり取りを隣で静観する。
「……そ、それならば、尚更その証が欲しい。君たちが五家の者だとは知っているけど、正式な書面としての依頼じゃないと、こちらとしても何もできない」
「……それは仰る通りで。分かりました。無理を言って申し訳ございません。それなら、出入りの管理簿を過去分含め見せていただけませんか?」
クリスティンはあっさりと、引き下がった。
管理人も少しほっとしたような表情で、出入りの管理簿を出してくれた。
さして時間をかけずに、この管理室に保管されている分の管理簿に目を通す。
ユイとクリスティンは管理人に礼を言い、そろって管理室を後にした。
2人はお互い話すことなく、校舎までの道を歩いた。
校舎に入ると、近場の空き教室へと入る。
ユイは簡易的に遮音魔法を施してから、口を開いた。
「ずいぶんあっさり引き下がったわね。もう少し押して出ても良かったんじゃないの?」
確かに管理人の言うことは最もではあるが、貴族からの公にできない依頼など山ほどある。今回もその方向で、もう少し管理人に詰めても良かったのではと思った。
だが、クリスティンは違うと首を振る。
「ハワードは、王族の近くで警護をすることが最も多い一族だ。そのため、相手のことをつぶさに観察し、不審な点がないかなど、見極める訓練をする。……あの管理人、上手く話を逸らしたと思っているが、巻物を見せて欲しいと言ったあとの彼の動揺、あれは何か良くないことを隠している可能性が高い」
確かに、その時の管理人の表情には、ユイも違和感を覚えた。上手く言葉にできなかったが、クリスティンがそう見極めたのなら、その違和感もあながち間違いではないのかもしれない。
「……それで、どうするの? 今回の調査との関わりは置いておいて、管理室の記録が見れないなら、別の方法を考えた方がいいかしら」
「いや、できれば管理室の記録は見たい。何かしらのとっかかりはあると思うんだ」
「でも、また尋ねたところで見せてくれないでしょう? きっと警戒されただろうし。先生方にも、どうにかして手を貸してもらう?」
「……本人に直接お願いしなければ、いけるんじゃないか」
「……え?」
そう言ってクリスティンは、初めて見るような悪い表情をしてみせた。




