調査③
2、3日後の夕方。
ユイはクリスティンと共に、図書館の個室へと集まった。
遮音魔法がしっかりとかけられているので、他人に聞かれたくない話はここで行うのがいちばん適していた。
「なるほど、ここ30年ほどのスパンだと、数年に1度は起きているのか」
まず、ユイの調べた内容を共有しており、つい先日フレインから聞いた内容も含めている。
あの後、フレインの姉たちにも連絡を取ってもらい、わかる範囲の情報を提供してもらった。
フレインには何人かの姉がいるらしいが、1番上と4番目の姉がここの卒業生らしく、運良く当時のことを覚えていた。
『姉が在学中……20年ほど前と6年くらい前にも同じようなことがあったらしいわ。詳しいことは、ごめんなさい。あんまり覚えていないみたいだけど、その時も課外行動中の学生が魔石に憑かれたんですって』
詳細は分からずとも、あったということだけでも知れてよかった。
フレインと彼の姉たちに心の中で感謝しつつ、クリスティンとの話に意識を戻す。
「偶然……と言うには、その数年の間で事が起こりすぎだと思う」
「同感だ。これを学生会や先生方が見逃しているとは思えない。だが、彼らの動きが見えないな……」
「学生会のところに行ってきたんでしょう? 話は聞かなかったの?」
「それとなく話題は振ってみたが……。いまいち手応えはないな。話は聞けないと思って、代わりにこれらを借りるだけに終わった」
そう言ってクリスティンは隣の机の上に置かれている大量の巻物を指さす。
「さっきから気になっていたのだけれど……。それは何?」
「学生会で記録している報告書だ。その中の魔石に関するものだけ、分別して持ってきたんだ」
「……かなりの量、よね」
横長の机2つ分くらいだろうか。そこに山になるように巻物が置かれている。中には拳くらいの直径の分厚い巻物もあった。
「これでも減らした方だ。初めはこの倍はあったからな」
クリスティンの方でもさすがに多すぎたと思ったようだが、それでもまだかなりの量だ。これからこの巻物をひとつずつ開いて確認するとなると、かなり気が遠くなる。
「さっさと取り掛かった方がよさそうね」
「同意だ。俺はこちらの机から見よう。君はそっちを頼む」
「分かったわ。……でも、さすがにこれくらいはあなたの従者に助太刀を頼んでもいいんじゃないの?」
巻物を手に取りながら、ユイは提案する。
今回の件について、クリスティンは彼の従者に一切話をしていないようだ。元々、五家に関すること絡みだったので除いていたが、この調査については手を貸してもらってもいいのではないだろうか。
そう思うユイだが、クリスティン側は違うようだ。
「正式ではないと言え、ダンテの一族から直接頼まれたことだ。オーラはあくまで従者。家の事には関わらない」
「それでも、ダンテの一族のことを隠して話す手もあるでしょう? それなら、あくまであなたの手伝いの範疇にならない?」
「……いや、隠したところで、余計な疑念が湧くかもしれない。少しでもハワードが関わるなら、彼は初めから関わらない方がいい」
どうやらクリスティン側にもきちんとした線引がありそうだ。ユイはそれ以上、口を挟むのは止め、巻物へと視線を移した。
──2人で黙々と巻物に目を通していく。
どのくらい経ったか。
ふっと遠くの鐘の音が耳に入り、ユイの集中力はそこで切れた。
「……ふぅ」
「少し休憩するか」
ユイの息つく声を聞いて、クリスティンが提案した。反論はないため、ユイは読んでいた巻物を閉じる。
「……全然終わらないわね」
机の上には、読み終わった巻物とまだ読んでいないものとで分けているが、圧倒的に読んでいない方が多い。積み上げた巻物の上のほう少ししか減っていない。
クリスティンもさすがに疲れたのだろう、しきりに目元を手で揉んでいる。
「どうだ。何かそれらしい情報はあったか?」
「特には、何も。まだ新しい年代の方から読んでいるから、既に話に出ている分しか情報は見てないわ。そっちは?」
「途中から古いものにも手を出してるが、変わらずだな。まだそれといった情報には当たっていない」
つまりどちらもまだ、めぼしい情報はないということだ。
さすがにこの巻物を全て、今日中に読み終えることはできないだろう。何日かに分けて調べ物は続きそうだ。
「ここって何時まで使えるの?」
「0時までは使えるんじゃなかったか?その後は……どこかに場所を移して続けるか」
「寝ないでやるつもり?」
「最悪それでもいいぞ。俺は明日そこまで授業内容が重い訳じゃないからな。やろうと思えばできる」
「私はさすがに嫌よ。魔法医療実習の授業を、寝ないで受けるなんて」
明日はお昼から通しで実習があるのだ。その前にも授業を取っているので、できることならしっかり体調を整えたい。
さすがにクリスティンも冗談だったらしく、施錠時間となる0時までは続けようという結論に至った。
少しの休憩を挟み、2人はまた黙々と巻物を読み進めていく。
何十巻目かを読み終えた頃、ふとユイはメモしていた用紙を見ながらとあることを思いつく。
「……ねぇ、管理室には?」
「は? 何だって?」
「転移扉がある管理室。魔石に憑かれた場所って、どれも転移扉での移動先じゃない。管理室には、管理人が在駐しているでしょう? 外部の人だし、何かしら記録って残しているんじゃないかしら」
学生会の記録ばかりに視線がいっており、完全に忘れていた。
ユイがメモした被害場所は、どれも学校からは遠い場所が多い。そこで課外行動をしていたとなると、彼らはみな転移扉を利用していると考えるのが普通だ。
転移扉を利用するには、管理室で事前に名前などの情報を記していく。それとは別に、管理人もいるのだから、何かしらの記録があってもおかしくないのではないだろうか。
クリスティンも全くの盲点だったらしく、「言われてみれば確かに……」と呟いていた。
「……よし、学生会のは学生会のとしていったん調べは続けよう。それとは別で、お互いの時間が合う時にでも、管理人に1度話を聞いてみるか」
その提案に賛成し、ユイたちはまた中々減らない学生会の報告書の巻物たちを読み進め始めた。




