調査②
先日のハワード家でのダンテの一族との対面を終え、学校へ戻ってきたユイたち。
しかし、そこからすぐに日常へ戻る訳もなく、新たな悩みの種が増えてしまった。
「内容に変わりはないわね……」
とある日の夕方。
この日は珍しく、3コマ目までしか授業がなかった。
知らない人との対話は早めに済ませてしまいたかったので、この時間を使って、先日の騒動の当事者たちに話を聞いてきた。
だが内容としては、ほとんどの全員が「魔石を見つけたと思ったら、もう憑かれていた」という、似たり寄ったり答えしか返ってこなかった。
それと言って大した成果がないまま、ユイは隠し部屋へとやってきた。
まだ授業が行われている時間帯ということもあり、隠し部屋には誰もいなかった。
気分転換にと、キッチンに置いてあるコーヒーを淹れる。
机に戻り、紙とペンを出しながら、先ほど聞いてきた話をまとめてみる。
・転移扉を通ってから、だいたい山の中腹~頂上に着く前までの被害
・魔石は地中ではなく、ほとんど地表に落ちているようにあった
それが魔石だと、初見では少し分かりずらい
・上級生による魔石の判別は確認したり、しなかったり(一緒に行動しているメンバーによりそう)
・魔石を素手で触ったりはしていない
・偶然魔石に近い人たちが憑かれた
──よくあるような、ただの事故だと思うけど……。
書き連ねてみても、人為的なものは感じない。
偶然の事故のようにしか思えない。
「だけど、違うかもしれないのよね……」
うーんと唸りながらコーヒーを飲む。
まだ調べ始めたばかりなのだが、さっそく行き詰まったように思えた。
書いた紙と睨み合っていると、出入口の方から音が聞こえてきた。どうやら誰か来たらしい。
「あら、ユイちゃんがこの時間にいるの珍しいわね」
「フレイン先輩、イサク先輩」
2人そろって隠し部屋へ来るのはずいぶん久しぶりではないだろうか。
先輩たちの分も飲み物を用意しようと思ったが、すでにキッチンに向かっていたイサクによって止められた。
「なんか久しぶりね。後輩ちゃんたちとは仲良くやってる?」
「まあ、ほどほどかと」
「あたし、夏以来全然話してない気がするわ。忘れられてたらどうしよう。イサク、あんたもちゃんと後輩ちゃんたちの面倒見てんのよね?」
「……見てんじゃねぇの」
「その様子じゃ、ろくに話してないんじゃないの。ダメよ、ちゃんと関わり合い持たないと」
「大丈夫ですよ、フレイン先輩。イサク先輩も、結構1年生たちと仲良くしています」
──先輩たちとのこの感じ、本当に久しぶり。
最近は主にガウルとミアとしか話していないので、まだどことなくお互い遠慮がちな空気が流れることが多い。
だけどさすがに4年ほど一緒にやってきたフレインとイサクだと、ある程度気さくに会話ができる。
いずれ後輩たちともこう慣れればいいのだろうが、まだまだ先は長そうだ。
「そう言えば、ユイちゃん勉強してたの?」
イサクが淹れたコーヒーを飲みながら、フレインはユイの手元を見やる。
「あ、いえ。勉強ではないです」
「珍しいな。お前、基本勉強しかしてないだろうに」
確かに、そう言われてもおかしくないほど、ここにいる間は何かしら勉強をすることが多い。
だが、今は勉強だけに集中できないのが実態である。
そこでふと、ユイはちょうどいいと思い2人に尋ねた。
「あの、私が1年の時……。3年前くらいですかね。課外行動中に、魔石騒動があったことを覚えていますか?」
突然の質問内容に、2人は驚いた様子であったが、もちろんだと答えた。
「巻き込まれるとは思ってなかったからな」
「そりゃそうよ。まさか自分たちが、って気持ちだったし。……そう言えば、最近も似たようなことがあったんですって?」
フレインが少し声を低めて言う。
「はい、そうみたいです」
「今回は犠牲者が出たって聞いた気がするわ。災難よね」
「まじか。その話は知らなかった。そんなに噂に上がってないのか」
「後輩って聞いたわ。学生会が広がりすぎないよう注意しているんでしょ。もっとも、人の口にとは立てられないから、話はいろんなところから出てくるけれど」
話の流れができてきたところで、ユイは尋ねたい内容に入っていく。
「あの、前にフレイン先輩……でしたっけ。こういうことが前にもあったような話をしていたと思うんですけれど」
フレインはピンと来ていないようだったが、イサクのほうが朧気ながら会話を覚えていてくれた。
「俺らが入学する前に1回な。その前とかにも何度かあったって話か」
「はい、そうです」
「あー……何となく思い出したかも。そんな話したわね」
「あの、先輩たちは過去に同じことがあったと言ってましたけど、それっていつだか分かりますか? おおよそでも全然いいんですけれど」
過去の情報も知っておいて損はない。クリスティンが別で調べてくれるとはいえ、ユイの方も何かしらの手がかりは掴みたい。
フレインとイサクは、少しの間悩んでいた。
さすがに無理のある話だったかと思ったが、フレインがもしかしたらと前置きの上話し出した。
「姉が何か知ってるかも。歳離れてる姉たちが、ここの卒業生なの。ちなみに、過去に同じようなことがあったって話は、彼女たちから聞いてたの。よかったら、姉に聞いてみようか?」
「いいんですか? お願いしたいです」
フレインの話に、ユイはすぐに返事をする。
身内に卒業生がいるのなら、その時分のことを覚えているかもしれない。
──確か、フランやアクラネスの叔父様叔母様も、ここの卒業生よね。
自身の身近にも該当する人たちが少しばかりいる。彼らにも尋ねてみるのもいいのかもしれない。
「てか、なんでいきなりそんなこと知りたがるんだ?」
イサクはもっともな疑問を投げかける。
最近の話ならいざ知らず、過去のことまで調べるのは、傍からみたら疑問に思うだろう。
「……家の、五家に関わることで、ちょっと」
詳しくは話せないので、せいぜい彼らに伝えられるのはこのくらいだ。
ダンテの一族にもなるべく大事にはせずに調べて欲しいと言われている。大っぴらに理由は言えない。
答えにもなっていない回答であったが、フレインもイサクもそれ以上は言及しないでくれた。さすがに五家の名が出た時点で、察してくれたらしい。
「無理はしないように」と釘を刺され、ユイは努力すると答えた。




