ダンテの一族⑦
部屋へ戻ると、先ほどよりも体を崩したダンテの一族が待っていた。
「クリスティン・ハワードを呼んできました」
「お久しぶりでございます。クリスティン・ハワードと申します」
「あぁ、畏まらくてよい。あくまでこれからする話は非公式……お願いのようなものじゃ。お主らも楽にせぃ」
そう言われて、お互い跪くのは止めたが、楽にしろと言われそう簡単にできるものでもない。
ひとまず、ユイたちは立ったまま、ダンテの一族の話を聞くことにした。
「それで、私たちに話とは? 先ほど、お願いと仰っていましたが」
クリスティンが先に口火を切った。
ダンテの一族は、崩した体制から、顔だけをユイたちに向ける。
「お主ら、今この国で、魔石に憑かれる人間がどのくらいいると思う?」
唐突に尋ねられる内容に、ユイとクリスティンは反応に遅れる。少しして、先にクリスティンが口を開いた。
「協会が公表している情報ですと、その時々によって差はありますが、平均しても毎年2桁はいかないと認識しています」
ユイもクリスティンと同様の知識だ。
実のところ、魔石に憑かれるということ自体、そう起こるものではない。いくつかの条件が揃わなければ、魔石が人に憑くということは起きないのだ。
──例年、魔石に憑かれたうちのほとんどは、学内で起こっているのだっけ。
1人前の探掘者や鑑石課など、魔石に携わる人が魔石に憑かれたという話は少ない。多くはまだ未熟な、学生たちが被害にあっている。
クリスティンの認識に相違はなかったのだろう、ダンテの一族もそうだと頷き返す。
「年ごとに見れば確かにそうじゃ。統計を取り始めてから今日まで、さしてその数字に変わりはない」
ダンテの一族は、心なしか、声を低めて言葉を続ける。
「お主らは聞いたことがあるか? 人工的に、魔石を人に憑かせ、魔石側の人格を肉体へと定着させる話があることを」
「人工的に……」
「憑かせる……」
初耳だった。
数年前のフェールディング家であれば、研究をしていそうだと思うあたり、自分の一族に対する嫌悪感が湧き上がるが、そうだとしてもこの話は初めて聞いた。
「……いや、何かで聞いた気がする。大昔、そう言った研究を試みようとしていたと。だが結局、倫理的に背くということで、王命により禁止された……のではなかったか」
クリスティンが記憶を辿るように呟く。
ダンテの一族も続くように口を開く。
「今現在、魔石の取り扱いに関する王令の中に、ひっそりとその文は組み込まれている。だが、日常を過ごす人たちにとって、そこに何が書いてあるかなど気にすることはない」
王令の中に記載されているのであれば、もし破ったものが現れた場合、その者は厳しく罰せられるはずだ。
それに魔石に携わる人たちは、少なくとも魔石に関わる王令は一律覚えさせられる。知らなかったで済む話ではない。
もし携わらなくても、普通の人が人工的に魔石を人に憑かせようと思うのだろうか。
「……少し話がそれたか。さて、本題じゃ」
ダンテの一族が、崩していた体制を整え、ソファ座り直して言う。
「レイスヴィーグ大学校内にて、人工的に魔石を憑かせる実験が行われている可能性が出てきた。お主らには、その手がかりを探してもらいたい」
またしても、話の大きさにユイたちは驚きを隠せない。
──学内にそんな実験をしている人がいるですって……?
にわかには信じがたい。
だが、こうして話を持ち出している時点で、そのような噂はすでに出ていたのだろう。
「……なぜ、それを俺たちに頼むのですか? そのような大きな話なら、五家の当主たちに頼む内容に思えますが」
クリスティンが隣で質問する。
「先に言うたであろう。これはあくまでお願いじゃ。五家への依頼ではない。それに、学校内で動いているのであれば、外部の者が出入りするより、学生であるお主たちに頼む方が怪しまれることもなかろう」
「それは……そう、かもしれませんが」
クリスティンは納得いかなさそうな表情をするも、ダンテの一族の回答は一理あり、反論する術がない。
即答をしない2人に対し、ダンテの一族は重ねて言う。
「お主らに捕まえろと言うとるのではない。その辺は、正式に五家を通して話をするわ。あくまでその前段階……学校内でそのような動きが本当にあるのか、それを調べるだけで良いのじゃ」
だけで良い、と言われても、それ相応の成果は必要だろう。中途半端な行動はできない。
「どうじゃ、お願いを聞いてくれるかのぉ」
ユイとクリスティンは、思わずお互いの顔を見合わせる。
ダンテの一族はあくまでお願いだと言っているものの、ユイたちからしてみれば、それは最早命令に近しいものだ。断る、という選択肢がない以上、2人はそれを受けるほかない。
最終的に、ユイとクリスティンは、ダンテの一族の話を承諾した。




