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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
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ダンテの一族⑤



 その後クリスティンを通しつつ、ハワード家の奥方とフェールディング家当主とも連絡を取り合い、どうにか日程調整をすることができた。

 幸いにも、ユイはその辺りに急ぎの用事がなかったため、予定がキツくなるということはなさそうだった。


 そして、約束の日の前日。

 ユイは本日最後の4コマ目の授業を終えると、すぐさま隠し部屋へと向かった。授業で使った教科書などを棚の隅にまとめ、代わりに事前に準備して置いておいたカバンを手に取る。

 そのまま校門まで行き、外出の手続きを済ませて、校門の外へと出た。


「あ、ユイ。こっち」


 待ち合わせの人物を探していると、左手側の塀に体を預け立っているフランの姿があった。


「馬車の中で待てばいいのに。当主が供も付けずに外で待つもんじゃないでしょう」

「大丈夫だって。誰も気にしてないし。それに、少し離れたところに置いてきたから、気付かないかなぁと思って」


 呆れるユイに笑いかけ、フランは寄りかかっていた体勢を戻す。そして2人は、離れた場所にある馬車へと足を進める。


 2人が乗り込んだ後、馬車はゆっくりと動き出した。


「突然ごめんなさい。急ぎの用とかは本当になかった?」

「大丈夫だよ。今はそこまで急ぎのものはないからね。それにしても、ユイから手紙をもらった時は驚いたよ。当主になるのに、まだ手続きが必要だなんて」

「私もつい最近まですっかり忘れていたの。やり方も知らないから、ハワードに貸しを作ることになってしまったけれど……」

「そこはユイが気にするところじゃあないよ。それに、俺はハワードでよかったと思ったよ。フランクド家だったら、俺、あそこのご当主ちょっと苦手で、ずっと引きづるかもしれない」


 馬車に揺られながら、ユイとフランは話を続ける。

 今日はこのままフェールディングの本家へと向かうことになっている。学校からハワード家へは丸1日ほど移動に時間がかかると聞いていた。それに途中でフランとも合流する必要があるため、その中継地でもある本家へ泊めてもらうことにしたのだ。



 日付が変わる前には、馬車はフェールディング家本家の門をくぐった。

 明日も朝早く移動するということもあり、ついたとたんユイは客間に案内された後、すぐさま身支度を整えて就寝へと入っていった。





 翌日。

 まだあたりが薄暗い時間に起床し、早々に朝食を済ませた。そして、太陽が東から完全に顔を出した頃には、ユイとフランは馬車に乗り、ハワード家へと向かい始めた。


 馬車で揺られること数時間──。

 途中休憩を挟みながらも順調に進んでいき、昼を少し過ぎた頃に、ハワード家の建物が見え始めてきた。


「ハワード家へ来るのなんて初めてだな……。緊張してきた」


 馬車の木戸の隙間から見える建物に、フランはひとり呟く。

 馬車は1度、門の前で止まった。御者が身分を明かすと、すんなりと門が開く音が聞こえ、再びゆっくりと馬車が動き始めた。

 ガタゴトとゆっくり動きながら、馬車はさして時間が立たぬうちに再び止まった。


 ユイはフランより先に馬車のドアを開けて降りる。

 視界にはフェールディング本家とそうそう変わらない大きな建物。そしてその入口付近には、よく知る人物と、落ち着いた色の丈の長いワンピースを着た女性。


「遠いところ、ようこそお越しくださいました。わたくしはリリヤと申します。今回の件について、わたくしからご案内させていただきます」


 名前を聞き、彼女がハワード家の奥方であると知った。


「フェールディングのご当主どの。お初にお目にかかる。私はクリスティン。彼女……ユイ・フェールディングと同学です。今後ともどうぞよしなに」


 隣に立つクリスティンも、普段学校では見ないような、よそ行きの態度で挨拶をする。

 ユイとフランも、礼を失しない程度で挨拶をした。


「早速で申し訳ないのですが、ご相談いただいていた件について、済ませてしまおうと思います。わたくしは少し準備がございますので、クリスティンに案内をさせます。クリスティン、客間へお通ししたあと、奥の間の書斎へお2人をお連れしなさい」

「はい、承知しました」


 そう言って、ひと足先にリリヤは建物の中へと入って行く。


「おふた方、来てそうそう腰を落ち着かせられずすみませんが、まずは客間へご案内します」


 続いて、クリスティンに先導され、ユイたちも建物の中へと入っていった。


 外観と同じく、中も大層豪奢だった。

 玄関は広く開け放たれており、壁にはたくさんの絵画や装飾品。玄関中央の左奥には、2階へ続く螺旋階段があった。

 玄関から右手にある長い廊下を歩いていく。

 ほとんど一直線に伸びる廊下なので、歩いていると随分長いように感じる。


 その長い廊下を歩き、いくつかの角で曲がったあと、クリスティンは「こちらをお使いください」とひとつのドアを開けた。

 客間ということだが、学校の寮の自室2つ分くらいの広さはあり、落ち着いた色味の調度品で整えられていた。


「荷物を置いたら移動します。全て終わったあと、ひと息いれる時間を作りますので」


 荷物らしい荷物はほとんどない。

 ユイもフランも、邪魔になりそうな荷物だけ部屋に預け、すぐに客間を出た。


 再度クリスティンを先頭に、家のどんどん奥の方へと歩いていく。


 客間からしばし歩いたあと、周囲の雰囲気とは少し違う、大きな黒塗りのドアの前にたどり着いた。


「クリスティンです。入ります」


 クリスティンが大きなドアを2度ほどノックし、思うそうにドアを開ける。

 こちらも大層広い部屋で、全体的にくらい色味の装飾に包まれていた。部屋の中のソファには、先に来ていたリリヤの姿があった。


「ゆっくりする間もなく申し訳ございません。すでにあちらの奥の部屋に、ダンテの者が待機しております。諸々のお伝え事項は後ほどに。まずは彼の方へのご挨拶をください」


 そう言って指し示す方に、またもや黒っぽい色のドアがあった。


 ユイとフランは1度顔を見合わせる。

 お互いの覚悟を確認し、ユイは先にそのドアの方へと向かって行った。




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