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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
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ダンテの一族③



 ユイは図書館へと足を向けた。

 記憶が確かであれば、目的の人物はよくここにいると聞いたことがある。


 休日の図書館は、基本的にいつも人がたくさんいる。

 ところどころに置かれている机で勉強する人たちや、個室で集まって談義する人たちがたくさんいるからだ。

 だが気のせいか、今日はいつもより人が少なく感じる。


 ユイは図書館へ入ると、奥の個室のほうへと向かう。

 個室のほとんどは使用中となっていた。外から中の様子が見えないので、誰がどこを使っているのかは、個室の入り口に記されている。

 ユイは順番に、入り口の使用者名を探していく。


「……いた」


 3個目の個室で、その名前をようやく見つけた。

 今日も相変わらず、複数人で集まっているようだ。


 ユイは一呼吸ついた後、ドアをノックする。中の音は聞こえないはずだが、外からの音は届いているはずだ。

 少しして、個室のドアが開いた。出てきたのは、顔に見覚えがあるが、名前は知らない同学年の男性だった。

 向こうはユイのことを知っているらしく、眉をひそめながら何用かと尋ねた。


「……突然すみません。クリスティン・ハワードに用があってきました」


 中に聞こえるように、少し大きめの声で伝える。

 出てきた男性に遮られ中の様子は詳しく見えないが、みんな口々にざわめきあっている様子がうかがえた。


「クリスに? 悪いが今は立て込んでいる。あとにしてくれないか?」

「私のほうも急用なんです。彼に伝えてください。フェールディングから、ハワードに急ぎ取次ぎを求む、と」


 本当であれば、学校で家の名を出したくはない。しかし今回ばかりは致し方ない。

 男性は少しばかり困った表情で、待ってろと言って個室の中へと戻っていく。

 ユイは抑えがなくなったドアが閉まる前に、しれっと個室の中へと足を踏み入れた。


 部屋の中には10数人ほどの男女が集まっていた。

 その中心に、今回の目的の人物──クリスティン・ハワードは座っていた。


 男性から話を聞いたのか、クリスティンが入り口に立つユイの姿を認める。

 そして、周囲にいる人たちに向けて、今日の解散を告げた。


「みんな、今日のところはここで終わりだ。また後日、集まる時間を取ろう。追って連絡するから、今日のところはこれで解散だ」


 不平不満は出たものの、案外みんな素直に彼の言葉に従い、次々に個室を出て行った。


「……オーラ、君も席を外してくれ」


 全員が出ていく中、ユイとクリスティンのほかに、彼の従者が残っていた。

 従者はそれが不満なのか、険しい表情で首を振る。


「ですが、私はあなたの従者です。同席する権利はあるかと思いますが」

「普段であればな。さっきの話が聞こえなかったか? 彼女は家の名前で俺を呼んだ。つまり、個々人ではなく、家同士の要件だ。個人的な話ならいざ知らず、五家の話にお前を同席させることはできない」


 クリスティンの言葉に、オーラは反論したそうではあったが、クリスティンがさらに席を外すよう伝えると、オーラは渋々と個室を後にした。


「……私は気にしないのに」

「家と個は分けるべきだ。君の家のことはしらないが、うちは例え親子であっても、五家に関わる話は、限られた者しか知らないからな」


 ぽつりと漏らした言葉に、クリスティンが当たり前だろうと告げる。どうやら他家には他家の事情があるらしい。


「それで」とクリスティンは改めてユイに向き直った。


「用件とは何だろう。君が俺を訪ねるくらいだから、よほどの用だと思うが」


 ユイも改めて、クリスティンへと向き直る。


「時間を取ってもらって申し訳ない。これはハワードへの……お願いかな。ダンテの一族と連絡を取りたい。その方法を教えて欲しい」


 頼むとユイは頭を下げる。

 フェールディングでは、ダンテの一族について知っているのはユイだけのはずだ。そうなると必然的に、ほかの五家に尋ねるしかなくなる。

 いちばん手っ取り早く、かつ話せる相手と言うと、クリスティンしかいなかった。


 少しの間、沈黙が漂った。

「やはりか」という呆れ声が混じった言葉に、ユイは下げていた頭をあげる。


「……どういう意味?」

「やはりダンテの一族へ当主変更を知らせていなかったのだなと。どうりで、俺が五家の話を君に振っても、頑なに関係ないというわけだ」

「……正直、ダンテの一族については、名前以外ほとんど知らないわ。つまり私は、王宮へ当主交代の承認だけもらって、ダンテの一族には知らせていなかったから、五家の人たちからは未だに関係者だと思われていたってこと?」

「まぁ、大ざっぱに言えばそうなるな」


 複雑な状況に、ユイもようやく合点がいく。

 確かに、王宮から届く書類系は、ユイのところに一度も届いたことはない。反対に、五家間の書類は未だにユイの元に届いていたのだ。全てダンテの一族への知らせがなかったからだと言うならば、状況にも納得がいく。


 ──そういう大事なことがあるなら、生きているうちに聞いておけばよかった。


 ダンテの一族については、ユイの先代当主である祖母より聞いていた。ただ、ほとんど何も聞いていないに等しいので、知らなかったとしても仕方がないはずだ。


 だが、今はもういない身。

 今さら思ったところで仕方がない。


 ユイは改めて、クリスティンに連絡の取り方を尋ねる。


「分かった……と言いたいところだが、残念ながら俺もダンテの一族との連絡の取り方は知らない」


 早速出鼻をくじかれた。

 あまりにも情けない顔をしていたのだろうか、ユイの顔を見て、クリスティンは慰めるように言う。


「ハワードでは、当主と後継者、当主から信頼されたもの以外、ダンテの一族について知らないはずだ。だが、直接的なやりとりは、当主しかしていない。俺だって、会ったことはないぞ。だからだ、残念だがすぐに伝えることはできない」

「……そう」

「……知っているとなると、当主……俺の父だが、よければ口添えしようか?」


 そこまでしてもらうつもりはなかったため、ユイはいいのかと聞き返した。


「大した手間じゃない。直接のやりとりは任せるが、先に俺からも伝えておこう」

「そうしてくれるなら助かる。私の方も、急いでハワード家へ伝言鳥を送るわ」


 合わせてフェールディング当主にも連絡をしなければと思いながら、ユイは返事を返す。

 

 お互い、ハワード家への返事があり次第報告するとして、いったんこの場は解散となった。



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