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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
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先輩②


 ガウルとミアがサークルへと加入し、数日が経った。


 1年生との顔合わせ以降、フレインとイサクは実習が近くなり忙しいらしく、隠し部屋で顔を合わせる頻度がかなり減っていた。

 その分、ガウルとミアと顔を合わせることが多く、隠し部屋ではこの3人で過ごす時間が増えた。




 とある日の空いた時間、ユイは食堂のいつもの場所に陣取って、課題を片付けていた。

 授業時間だからと言うこともあるだろうが、今日はこの時間に食堂にいる人が少なく、とても静かな環境だった。

 課題を進める手も止まらないが、ユイの思考は時おり別のところへと移ろっていた。


 ──一度くらい、課外行動を一緒にしたほうがいいのだろうか……。


 今までほとんどは自由に勉強など、自分のやりたいことを各々していることが多く、時々お互いに勉強を教えあったり、課外行動を行うということが多かった。

 ユイも自分のやりたいことが明白だったため、そのやり方にさして疑問を覚えるわけでもなく、すんなりとなじむことができていた。


 だがここ数日、ガウルとミアと一緒にいて、本当にそれだけでいいのかとも思っていた。


 ガウルは元々の性格上、物怖じしないタイプなのか、自分がわからないこととか何か感じたことがあれば、割とすぐに口に出していってくる。反対に、ミアは周りの様子を伺うことが多いのか、必要以上に話しかけられた覚えがない。


 仲良しこよしをしたいわけではないけれど、せめてもう少し、お互い何でも話し合える関係性は結んでおきたい。


 以前も似たようなことを悩んでいたなと思いながら、ユイは課題の手を動かし続ける。

 課題はどんどん片付いていくけれど、悩みごとのほうはずっととどまり続けていた。



「あ、ユイ。お久しぶりです!」


 そんな時、呼ばれた声に顔を上げると、久しぶりに会うユリの姿があった。

 彼女は肩から大きなカバンを下げながら、にこにこしてこちらの席に近寄ってくる。


「久しぶり、ユリ。新しいルームメイトとうまくやれている?」

「はい、大丈夫。メレッテ、すごく優しいし、おもしろい。うまくやれています」

「そっか、よかった」


 ユイが4年生になり、寮移動となったため、ユリには同学年のルームメイトが割り当てられた。

 内心気にはかけていたのだが、忙しさが勝り、ここ最近ではすっかりそのことを忘れていた。

 だがどうやら、彼女の表情を見るに、うまくやれているらしい。


「ユリは授業終わりなの? それより、ずいぶん大きなカバンをもっているね」

「授業ではないです。飼育小屋でお手伝いしてました。その荷物。お昼食べて、これからまた飼育小屋に行くの」


 どうやら授業の一環で、魔獣や動物たちの世話をしているらしい。着替えや道具などを常に持ち歩くので、大きな荷物となっているようだ。

 もう少し話でもしたかったところだが、離れたところでユリを呼ぶ声がしたため、ユリはそのままその人のところへと戻っていった。


 ──ずいぶん周囲となじんできたのね。


 何度か遠目でユリが同学年の人たちと一緒にいるのを見たことはあったが、思っていたよりもなじんでいるようだ。




「さっきの子、1学年下に入った森の民だよね? ユイ、知り合いだったんだ」


 ユリと入れ違うように、すっとアストルがユイの向かいの席に座っていた。


「そうだよ。私3年までルームメイトだったの。話していなかったっけ?」

「え、そうなの? 俺初耳」


 話したつもりになっていたが、どうやら伝えていなかったらしい。

 アストルは驚いた表情をした後、大きなあくびをかます。


「ずいぶん眠そうだね。今の時間は授業ないの?」

「あぁ、いや、本当はあるんだけど午前の授業さぼっちまった」


 まさかの回答に、ユイは再び動かしていた課題の手を思わず止めてしまった。


「さぼ……え?」

「いや、ちゃんと理由があってな? 今、先輩について研究手伝ってるんだけど、その先輩が結構やばくてさ。連日朝方まで研究してて、俺も一緒に付き合ってるわけ。さすがに今日は限界がきて、実はさっきまで寝てたんだよ」

「それは……大変そうだね」


 思ったよりも大変そうな日々に、ユイも同乗の念を禁じ得ない。

 体調に気を付けてと伝えて、ついでにユイはアストルへと尋ねる。


「アストルにひとつ聞きたいのだけど……。例えば、新しく後輩ができたとして、その人と一緒に活動していかないといけない場合、何をするのがいいと思う?」

「何って……具体的には?」

「もともとの活動でしていたことをしてもらうとか、これをやろうって決めたほうがいいのか。あとは新しいことを一緒にしていったほうがいいのか……とか」


 アストルは眠そうな表情のまま、ユイの質問を真剣に考えてくれている。

 ユイも課題の手を止めて、彼の答えをじっと待った。


「……どうもしなくていいんじゃないか?」

「どうもしない?」


 うまく頭が回っていないことを前提に、アストルは言葉を探すように言う。


「だってさ、相手が何をしたいかなんて、聞かない限りわかんないじゃん。例えば、今俺がやってる研究も、先輩主導でやってて、先輩からの指示で雑用やってるような感じなんだよね。まぁ、これは俺がやりたい分野と被ってるからいいけどさ。ユイだって、自分がやりたくないことをやろうって言われて、そう簡単に断れないじゃん?」

「……必要性を感じなければ、断るけど」

「あー……言いそう。でも、いったんそこは置いておいて。先輩後輩だとわかりやすいけど、上の言葉って下っ端からすると断りずらいし、絶対な感じするんだよね。対等ならいざ知らず、自分より立場が上の人が決めたことをやっていくってのが集団行動だと多いと思うんだ。だからさ、そこはもう臨機応変というか、相手と自分がどうしていきたいかによると思うんだよ」


「答えになってる?」と聞き返しながら、ユイはアストルの言葉をかみ砕く。

 つまりは、ユイが1年生たちにこれをやると言ったら、彼らはただ追従するしかなくなるということだろうか。もしくは彼らがやりたいことを聞いたうえで、活動内容を決めるということになるだろうか。


「……その時その時で、相手のやりたいことを汲んだり、こちらが提示する必要があるってこと?」

「ユイは難しく考えすぎなんじゃないの? 確かユイって、サークル入ってんだよね? 今までユイが先輩にしてもらったことを、後輩にしてあげればいいんじゃないか?」

「してもらったこと……」


 先輩たちにしてもらったことを考えれば、それはたくさんある。親身になって、教え・教えられの関係をこの3年で作ってきた。

 でも、そんな彼らの真似事を、自分はできるのだろうか。


 ──自分なりに、出来ること……。


 「……ありがとう、アストル。少しだけ、考えがまとまった気がする」

「本当? そりゃあよかった」


 ふにゃりとしまりのない顔で笑ったアストルは、そのままテーブルの上に突っ伏してしまった。おそらく睡魔に負けてしまったのだろう。

 よほど無理をしていたのだろうと思い、ユイは彼の周りに遮音魔法を施す。せめて昼休憩に入るまでは、もう少し寝かせてあげよう。


 ──私も……いろいろと頑張ってみよう。


 アストルとの会話を思い返し、ユイは自分なりに後輩たちと接してみようと決意する。

 いつの間にか止まっていた課題の手を、改めて動かし始めた。






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