後輩⑥
翌日。
3コマ目の授業終わり、次の授業へ向かう途中に、偶然にもアクラネス兄弟とはちあった。
「久しぶりだな、ユイ。休暇以来?」
「エギルとはそうですね。マールは、かなり久しぶりな気がします」
「俺、休暇には帰ってないからなぁ。……マジで最後に会ったのいつだ?」
7年生ともなれば忙しいのだろう。
久しぶりの再開に、ユイたちはしばし近況について語り合った。
「そう言えば、マール、1年生にサークルのこと教えましたね?」
ひと通り聞き終わったあと、ユイはふと、思い出した内容に話題を変えた。
「あ、もう行った? 今回さ、急だったもんで、事前に連絡とかできなかったんだよ」
「驚きました。連絡くれてたら、魔法トラップに引っかかることもなかっただろうに……」
「何、お前まだ斡旋してんの? いい加減、お節介はやめて、自分の心配をしろって」
「自分も心配しつつ、他人も心配してんだからいいだろ」
どういう訳か、目の前で兄弟喧嘩が始まってしまったので、ユイはひと言かけてその場をそっと離れた。本当はもう少しあの1年生のことを聞きたかったが、お互いゆっくり話す時間がなかなかない。
今日の夜にはまた会うことになるだろうと思い直し、次の授業がある教室へと向かった。
「ユイ、この後暇か? もしよければ、アストルたちとこの前の論文について話をする予定なんだが」
5コマ目の授業終わり。同じ授業を取っていたギルフィが、片づけをするユイに尋ねる。
「今日は、ごめん。また次でもいい?」
「あぁ、それは構わない。こっちこそ、急な話だったし」
ギルフィの論文についての話し合いも興味がある。だが今日ばかりは、すでに先約があったため、断ざるを得ない。
ユイはギルフィと教室で別れた後、そのまますぐにサークル部屋へと向かった。
いつも通り学生棟のたくさんのドアを通って、隠し部屋まで向かうと、廊下に2人の人影があった。
どうやら今日は大人しく待っていたらしい。
「えっと……昨日の1年生、だよね?」
近くまで寄って、ユイは尋ねる。
2人は律儀に挨拶をしてくれたので、ユイも倣って返す。
そしてひとまず2人を隠し部屋へと通した。
今日もフレインたちは忙しいのか、まだその姿は見えない。
話は進めててよいと聞いていたので、1年生たちをソファに座らせた後、適当な飲み物を入れにキッチンへ入った。
──フレイン先輩とイサク先輩がちょうどよく来てくれないかな……。
内心では先輩たちも同席してほしいと思っているが、やはり現実はそう思い通りにはならない。
飲み物を準備し終えても現れない先輩たち。ユイはもう腹をくくるしかないと思った。
「えっと……まず、あなたたちの名前を聞いてもいいかな」
2人の前に飲み物を置くと、ユイは本題に入る前に名前を尋ねた。
1年生たちもまだ名乗っていないことに気づいていなかったらしく、順番に話してくれた。
「俺はガウル・リナルソンっす。王都生まれの王都育ちで、学校に入るまではほとんど王立図書館にいたっすね。昨日言った通り、王立図書館の人にこのサークルを紹介してもらったっす」
「僕はミア・ドッグソンです。生まれは北部のほうで、入学と同時に初めて王都に来ました。錬金術とか薬草学あたりは、少し得意かなって感じです」
1年生2人の自己紹介を聞いたところで、ユイも自分の名を名乗った。
「えっと……じゃあ、さっそく本題に入るんだけど。2人は、昨日言った通り、ここのサークルに入りたいって話は変わりはない?」
その問いに、ガウルとミアはそろって肯定の意を返す。
その反応を見て、ユイは少し考えた後、彼らに向かって伝えた。
「あなたたちがどこまでこのサークルについて聞いているかわからないけれど、ほかのサークルと違って、中途半端に活動をしているつもりはないの。将来的なことも考えて、様々な分野を学んで、卒業後にそれらを生かしていこうとしている。
一応先輩たち含めて、私も探掘コースを専攻しているし、探掘をメインに活動はしているけれど、絶対にそのコースを専攻しないといけないわけでもなくて、探掘に付随する分野はすべて学んでおきたいから、そのあたりは自分のやりたいことを優先してもらう感じにはなって……」
説明をしながら、ユイはだんだん自分が何を話しているのか取りまとめがつかなくなってきた。
ひとまず、探掘をするにあたって、その流れに必要な分野が個々人で網羅できるようになればいいということをまとめ伝えた。
さすがに情報量が多かっただろうか。
ガウルは眉間にしわを寄せながら、ミアは手を顎に当てて考えこんでしまった。
ユイは薬草茶を一口飲みながら、2人の考えがまとまるのを待つ。
「……俺、あんま難しいことは分かんねぇっすけど」
と、先に口を開いたのはガウルだった。
「要するに、出来ることを増やしてこうって話であってるっすか?」
「……ものすごく端的に言えば、そうとも言うね」
「なら、俺はやっぱここのサークルに入りたいっす。頭使うことは苦手だけど、体動かすほうはできるし。できることはまだ少ねぇっすけど、最初は荷物持ちでも雑用でも何でもするっす」
ガウルは、やる気に満ちた目を向けてくる。
とりあえず、意欲はあるようだ。何ができてできないかは、これから探っていってもいいだろう。
ユイはガウルに頷き返事したあと、未だ考え込んでいるミアへと視線を向けた。
無理に言葉をかけることなく、彼女が話し出すのを静かに待つ。ガウルも、急かすことなく、大人しくミアの答えを待っている。
「僕は……」
言葉を探るように、ようやくミアは口を開いた。
「僕は……将来的に何をやりたいか、まだはっきりと決まっていません。でも、僕もここのサークルに参加したいです。
今自分は、浅く広く、いろいろできると思っているけど、もっと極めながら他のことにも取り組んでいきたい。その中で、自分のやりたいことを決めていきたい……です」
ミアは話終えると、目の前にあった薬草茶を思い切り飲み干す。思ったより苦かったのだろうか、咳き込みながら顔をしかめていた。
ユイは2人の話を聞き終えて、思案する。
話だけ聞くと、正直やりたいことが曖昧な気がして、今後を考えると止めた方がいいかもしれない。
だが、長い目でみれば、必ずしもマイナスとならないのではないだろうか……。
フレインは、今回のことはユイ自身で決めていいと言っていたが、実際に決断するとなると、本当に正しいのかと思ってしまう。
──フレイン先輩たち、私が入るときに即決していたけど、その決断力を私に分けて欲しい……。
今度はユイに視線が集中する。
1年生2人の視線が向けられているのをあえて意識せず、ユイは自分の中で結論を出していく。
「……まず、前提として、私たちは軽い気持ちでこのサークル活動をしている訳じゃないってことは理解して欲しい」
伝え方を考えながら、真剣な顔をしてこちらを見ている彼らに話していく。
「一過性の活動じゃなくて、将来を見越して、先輩たちはこのサークルを立ち上げている。私もそれに賛同している。一時の気の迷いや、長く続けていくつもりがないのなら、参加は諦めた方が身のためだと思う」
それでも、と1度言葉を区切り、改めてガウルとミアに真正面から相対する。
「それでも、このサークルでやって行きたいと言うのなら、私はあなたたちを歓迎する。もし今の話を聞いて、止めたいならそれでも構わないわ。最後はあなたたち自身で決めてもらえれば──」
「俺は入りたいっす!」
ユイの言葉に被せるように、ガウルは息巻きながら言い放った。あまりの勢いの良さに、ユイは反射的に仰け反る。
「あ、うん。えっと、本当にいいのね? 他のサークルのことをよく知らないけれど、まだ見てないところがあればそっちを見てからでも……」
「見てきた上での答えっす。俺は、ここに入ります」
「あ、そっか。うん……分かった」
勢いに押されながらも、ユイはガウルの言葉に頷き返す。
ガウルの隣に座るミアも、彼の勢いに押されている様子だったが、慌てて自分も同じだと答えた。
「まだまだ未熟者ですけど、僕、ここで頑張っていきたいです」
ガウルほどではないにしろ、ミアもやる気はありそうだ。体の前で小さく両の手を握りしめている。
2人の答えを聞いて、ユイはひとまず息をついた。知らずのうちに緊張していたのか、体の変なところが少し痛い。
何度か深呼吸をしたところで、ユイは改めて、1年生2人と向き合った。
「それでは、あなたたちをこのサークルに歓迎します。これからよろしく」
こうして、ユイは初めて、後輩を持つこととなった。




