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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
66/72

後輩④



「あの、本当にすみませんでした……」


 見事に真っ赤な液体を被った3人は、ひとまず隠し部屋の鍵を開けて、中へと入った。

 だが、廊下まで真っ赤になってしまったため、そちらの掃除もする羽目になった。

 粘着性のある赤い液体をふき取る作業は、地味に大変な作業であった。


 3人で廊下を元通りに掃除し、各々も隠し部屋にある小さなシャワー室できれいに洗い流すまで、思ったより時間がたっていた。



 制服も丸ごと洗い乾かしている間、ようやくユイたちは一息つくことができた。

 キッチンで薬草茶を入れ、ソファに座らせている2人のもとに運んでいくと、おかっぱ頭の女性が小さくなって謝った。──なんと、男性だと思っていたその人は、実は女性だったのである。


「魔法トラップって、先に鍵を開けないといけないんですね。全然知らなくて……」

「俺も知らなかったっす。あれで全部解けたと思ったのに……」

「ドアとか鍵がついている場所に魔法トラップが仕掛けられている時だけ、先に鍵を開ける必要があるから。そうじゃない時は発生しない工程だから、知らない人が多いのも仕方がないよ」


 日常を過ごしている中で、魔法トラップに触れる機会というのはほとんどないに等しい。

 そのため、彼らが魔法トラップを最後まで解いたこと自体、すごいことではあるのだ。


 だが、それ以前に、この2人が隠し部屋の前にいたことが疑問だ。魔法トラップを解いていたということは、この部屋に入ろうとしていたことになる。どうやらこの2人は1年生らしく、より一層彼らの行動に疑問が残る。


 ユイは2人に問いかけた。

 2人は一瞬お互いの顔を見合わせた後、ユイに向かって言い放った。



「俺たち、ここのサークルに入りたくて来たっす」

「僕たち、ここのサークルに入りたくて来ました」



 そろって意気込む彼らとは裏腹に、ユイはしばしその言葉の意を読み取れなかった。


「……えっと、このサークルに、入りたいってこと?」

「そうっす」

「はい、そうです」


 まず、ユイの頭に浮かんだのは、どうやってここのことを知ったのかだった。


 基本的に各サークルは、学生会への登録が必要となっている。学生会へ属することによって、個々としての存在から、縦や横へのつながりが生じる。

 だが、これは必ずしも登録しなければならないということではない。

 人数が極端に少なかったり、活動内容によっては、学生会へ登録していないサークルも少なからずある。


 ユイが所属しているサークルもその口で、学生会に登録していないということは、周囲に認知されていないと同じだ。

 それなのに、彼らはどうやって、ここのことを知ったのだろう。


「……学生会に登録していないと思うんだけど、どうやってこのサークルのことを知ったの?」

「えっと……僕は7年生の方に教えてもらって……。確か、マール・アクラネス先輩って方だったかと」

「俺は、王立図書館っすね。その人が、知り合いがいるって言ってて、いろいろ話してくれたっす」


 心当たりがある名前が出てきて、納得する。ユイも同じように斡旋してもらった身なので、既視感を覚える。


 だが、王立図書館の人がここのサークルを進めたという話だけはよく分からない。ここのサークルのことを知っている王立図書館関係者はひとり思い浮かぶが、なぜ話したのかは謎だ。


「……王立図書館のって、もしかして管理課のレイって人?」

「管理課……かはちょっと分かんないっすけど、レイって人に教えてもらったっす」


 思った通りである。

 そもそも、手紙のやり取りをしているのに、その話に触れてこないこともおかしい。レイからの手紙は、いちばん大事なところが抜けている気がするさ


 ──後で文句の手紙を書こう。


 ひとまず、2人がここのことをそれぞれ人に聞いたということは分かった。その上で入りたいと言うのだから、ある程度このサークルのことは知っているのだろう。


 話を進めるのに、先輩たちにも同席して欲しいと思うが、今日は授業終わりの時間でもやって来ない。忙しいのだろうと思いつつ、内心では早く来て欲しいと願っていた。


 そんな様子は微塵も表に出さず、ユイは世間話として、2人も探掘者になりたいのかと尋ねた。

 しかし、彼らの答えは想像とは違っていた。


「俺はできれば探掘者志望っすね。でも最近、魔方陣学がめちゃくちゃ楽しいことに気付いて。研究職は性にあわない気はするんすけど、そっちもやってみてぇなって思ってるっす」

「僕は……ごめんなさい。まだ探掘をやりたいか、決められていないんです。でも、このサークルでは、それ以外でも将来的に兼務して活動できるって聞いて……。やっていく中で、いろいろ決めていきたいって思っているんです」


 ──……どうすれば、いいのだろう。


 各々の話を聞きながら、ユイは早くフレインたちがやって来ないかと期待した。だが、そんな都合よいことなどあるわけがない。


「……えっと、話は何となく分かった。先輩たちとも話をしたいから、また明日以降でもいいかな」


 考えた末、いったん今日はお開きにし、明日へ持ち越すこととした。

 魔法トラップの後片付けもしていたので、1年生はそろそろ寮へ戻った方がいい時間だろう。

 2人もそれに依存はないらしく、また明日来るということで素直に引き下がっていった。



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