後輩③
「いやー、マジで助かった。ありがとう、ユイ」
4年生に上がってしばらくたったある日の夜。
本日最後の授業終わりに、エギルに呼び止められた。
「ちょうど薬草学の先生は捕まんないしさ、ほかに薬草作ってそうな人思い当んなくて、マジで助かったよ」
魔法医療コースにいるエギルは、どうやら研究で使う薬草を探していたらしい。
そこでユイに白羽の矢が刺さったのだという。
「私も自分で使う用以外、薬草を育てたりしてないですよ」
「でも実際、俺が欲しかったのは作ってたじゃん」
「偶然です。だけど役に立ったのならよかったです」
一度寮の自室に戻り、保存しておいた薬草をもってエギルへと手渡す。
「それにしても、魔法医療コースで薬草って何をするんですか? 薬学コースならわかるんですけど」
「あぁ、俺今ね、薬学コースの人と一緒に新薬の研究をしててさ。卒業論文のために、新薬の効果と今後の魔法医療への投入についてを調べてたんだ」
「論文……なるほど」
そういわれ、彼が最終学年であることを思い出す。7年生ともなると、論文などいろいろと忙しいらしい。
「マジでありがとな!」と何度目かわからないお礼を言い、エギルはまた研究へと戻っていった。
ユイも今日の授業はすべて終わったので、これから軽く夕食をとった後、隠し部屋へ行こうと移動を開始した。
学生棟に入り、いつも通りの道順で隠し部屋へと進んでいく。
授業終わりは、各サークルへ向かう学生たちで通路は賑やかなのだが、今日は少し時間がずれたからか、そこまですれ違う人は多くない。
地味に長い道順を辿り、ようやく隠し部屋近くの最後のドアをくぐった。
──誰か、いる?
少し距離があるため、はっきりと人相を特定できないが、ユイたちのサークル部屋の前に、2人の人影が見えた。
初めはフレインとイサクが魔法トラップを解いているのかと思ったが、聞こえてくる声色に覚えがない。
ユイはそうっと足音を忍ばせながら、隠し部屋へと近づいていく。
そこまで広くない廊下なので、近づく人がいれば気づきそうなものだが、ドア前にいる2人は一向に気づく気配がない。
その間にも、ユイはとうとう彼らの真後ろあたりまで来てしまっていた。
「さっきから、変な音が鳴ってるけど、だ、大丈夫なの?」
「う、うるせぇ。集中してんだから、ちょっと待て!」
短髪の、少し大きめの制服に身を包んだ男性が、あたふたとしながら魔法トラップに挑んでいる。その隣には、丁寧に切りそろえられた髪の男性がおろおろしながら心配そうに見ている。
見るからに部屋に入り込もうとしている2人。
ユイは声をかけた方がいいのだろうかと考えながら、息を潜めて彼らの行動を間近で見守っていた。
「お、いけたか」
短髪の男性が手応えを感じたのか、ドアノブから手を離した。間近と言っても、彼らの体が間にあるため、何の魔法トラップを解いていたのかまでは見えない。けれど、2人の反応を見るに、どうやら魔法トラップを全て解いた様子だ。
嬉しそうな反応を示す2人の姿に、ユイはふと、疑問を覚えた。
──そもそも、鍵を開けないと完全にトラップの解除ってできてないんじゃ……?
その疑問の答えが間違ってないことはすぐに分かった。
短髪の男性がドアノブを回してドアを開けようとしても、ドアに錠がかかっているなら開くことはない。彼もそれに気づいたようで、解錠の魔法を使うためか、杖を取り出す。
だが、それよりも先に魔法トラップが発動する方が速かった。
突如として、彼らの頭上にツルが伸び始め、頭上に禍々しい色をした巨大な植物が実り始める。
ゆっくりと花開こうとするそれに2人も気付いたようだが、驚きのあまりその場に固まってしまった。
ユイはそんな彼らの間に割り込み、天井に向かって魔法を唱える。
「爆ぜよ」
その瞬間、ユイは自分の放った魔法が間違っていたことに気付いた。
だが、もう遅い。
ユイの魔法が開きかけのつぼみの口に命中した。そして、植物は無惨に爆発した。
同時に、真っ赤な液体が、ユイたち周辺に滝のように降り掛かってきた。
次の魔法を行使しようとしたが、間に合わない。
3人はその得体のしれぬ真っ赤な液体を頭から丸かぶりしてしまった。




