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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
64/72

後輩②


 4年生にあがると、いよいよ本格的に専門的な内容の授業が増えていく。

 授業が始まった最初の数日間は、授業ガイダンスが多かったけれども、その次の授業からはさっそく本格的な内容へと入っていった。




「……地理学は継続していたほうがいいのか? 3年まででもいいとは聞いたが、探掘学の話を聞く限りだと、継続していたようないい気がしてきた」

「そこは人それぞれだと思う。地理に詳しければ、必須って感じではないから。それよりも不定期に行われる課外実習は必須だよね。探掘に直接かかわりなくても、取っておいて損はない気がする」


 前の授業が早めに終わったため、ちょうど同じ授業をとっていたユイとギルフィは、食堂へ移動して各々の受講する授業について意見交換を行っていた。

 お互い、必須授業以外はさほどかぶる授業がないため、お互いの受けている授業について、話を交わしていた。


「それにしても、相変わらずほとんど入れているんだな」


 ギルフィがユイの時間割を見て言う。

 今回もユイは探掘コースで取れる授業にかかわらず、共通でとれる授業も多く受講する予定だった。


「ほかにもとりたい授業があったけれど、必須授業と被っていたりとかしたから、これでも割と入れていないほうだと思う」

「まぁ、2、3年の時の時間割に比べたら、空いているところは結構あるな」


 それでもまだまだ学び足りないので、空いている時間も有効活用できるようにしていきたいというのがユイのひそかな目標だ。


 お互いの意見交換が大方終わったころ、ちょうど授業終了を知らせる鐘が鳴り響いた。


「このまま昼にするか」というギルフィの言葉にうなずき返し、ユイたちはそのまま好きな昼食をとってくる。

 昼食をとって席に戻ってからも、2人の会話は探掘コースの授業について、話が続いていた。


「この間、魔石概論の授業があっただろう。その時に見た魔石、いまだにどちらが本物でどちらが偽物か、判断がつかなかった」


 ギルフィの言葉に、ユイはその時の授業を思い返す。


 数日前、魔石概論学の授業を始めて受講してきた。

 その際に、先生が実際の魔石とただの石を並べて見せてくれたのだ。

 今回は魔石のランクでいえばD、それにユイ自身も魔石自体を見たことはあったため、どちらが魔石であるという判別はつけることができた。

 だが、授業を受けていた大半以上はどちらが魔石であるか判別がつかなかったようだ。


「初めてなら、ランクが低いとなかなか判別つけづらいからね」

「鑑石課はすごいよな。あれをきちんと見分ける術を身に着けているのだから」

「そうだね。でも、探掘者でもある程度見分けられたら、作業の手間も少しばかり減りそうだよね」

「それはそうかもしれないが、実際問題無理だろう。探掘者はあくまで、魔石がありそうな場所を探して、掘り当てる。そして見つけたものが本当に魔石かどうか、判断するのが鑑石課だ。各々の作業領分に任せるのが一番だろう」


 当たり前のように返答するギルフィに、ユイの心境は複雑だった。

 確かに現状は、ギルフィが言ったように、探掘者はあくまで魔石だと思われるものを見つけるまでが仕事。それから先、実際に魔石かどうかを判断するのは、鑑石課の仕事である。


 ユイが目指す、探掘から鑑石まで、ひとりでできるようにするということは、話したところで荒唐無稽と思われるだけなのだ。現状はどう頑張っても、ギルフィが話したように、各自の領分で行うのが当たり前という認識。


 ──それでも、すべての作業をひとりでできる人が増えたほうが、作業効率は格段に上がると思うのに。


 今はそのために各知識を増やしていくのが大事だと思っていたが、それよりも周囲の認識も変えていく必要があるのかもしれない。

 そう思い始めたところに、ちょうど授業が終わったのだろうか、ユイたちを呼ぶ聞きなれた声が聞こえてきた。


「ユイ、ギルフィ、お疲れー。ねぇ聞いてよー!」


 昼食を乗せたトレイをもったまま、ハンナが勢いよくユイの隣の席に滑り込む。

 その後ろには、アストルの姿もあった。


「お疲れ。授業終わり?」

「うん、そう。ねぇ、鑑石コースの授業って大変ー。覚えることがありすぎてもう大変!」

「わかったから、ちょっと声落としてよ、ハンナ。うるさい」

「うるさいって何よー。そういうアストルはどうなのよ。魔法工学も結構専門的な内容が多いって聞くけどー?」

「俺? まぁ、確かに専門的な内容は多いけど、結構楽しくやってるよ。5、6年生の先輩の助手みたいな感じで、いろいろ教えてもらうこともあるみたいだから、これからが楽しみって感じ」

「ふーん、そうなんだー。あぁ、なんで私鑑石コース受けたんだろう……」


 そう言いながら、自身が運んできた昼食のスープをぐびぐびと飲み始める。大変そうだなと思いながら、ユイも持ってきていたゴマ団子を頬張る。


「……あ、ハンナとアストルに少しお願いがあるの」


 口に入れたゴマ団子を飲み込んで、ユイは思い出したように切り出した。


「お願い? ユイが私たちに?」

「珍しいな……俺らでできることならいいけど」


 不思議そうな2人に、ユイは彼らの取っている授業の内容を教えて欲しいと頼んだ。


「希望を出せば、他コースの授業も一部受けれるらしいけれど、結構時間が合わないのが多くて……。だから、2人が受けている授業について、教えて欲しいの」

「そりゃあ、別にいいけど……教えられるほどちゃんと受けてるかなぁ」

「ユイ、まだ授業取る気でいたのか。オーバーワーク過ぎないか?」

「3年までに比べれば全然だよ。ハンナは、大丈夫そう?」

「いいけどー……全部は無理だよー。せめて教科を絞ってくれるなら、何とかなるかもだけど」


 話し合いの結果、一部の授業の内容であればとアストルとハンナは承諾してくれた。もっとも、2人がいちばん心配していたのは、きちんと授業の中身を聞いて伝えれるかという点であったが。

 ギルフィのほうは、ユイの詰め込み具合を心配していたが、その点に関しては大丈夫だろう。そもそも、ユイの目標のためには、このくらいでは全然足りない。時間にも限りがあるので、この程度で根を上げてはいられないのだ。


 いったん止まった昼食の手を、再び動かしながら、4人は最近の各授業でのことを話題に出す。そのほとんどが、ハンナやアストルの愚痴に終始していたが。


 いつものメンバーでの、のんびりとした昼食時間がそろそろ終わりとなる頃。



「ご歓談中すみません。フェールディング家の方でしょうか?」



 どこか既視感を覚える状況に、ユイはゆっくりと顔を声のした方へと向ける。


 そこに立っていたのは、綺麗に切りそろえられた髪に、顔に合っていない大きな補正鏡(メガネ)をかけ、少し大きめな真新しい制服に身を包んだ1年生。

 見知らぬ1年生にそうだと返答すると、彼は丁寧に自己紹介をしてくれた。


「僕はフランクド家が四男、ラーシュ・フランクドと言います。今日は同じ5家の先輩にご挨拶に来ました」


 知識の泉・フランクド家。

 5家の中で、いや国中みても、フランクド家ほどに情報が集まる家はないのではないだろうか。そのため、王家はフランクドを王宮に出仕させ、様々な編纂作業を任せていると聞く。

 アークレイル王国が建国する前から今に至るまで、多方面の情報を集めているのが、このフランクド家だ。


 ──フランクド家は、かなり兄弟がいるとは聞いていたけれど……。


 そのほとんどが、もう成人したと聞いていたため、まさかユイより下にいるとは思わなかった。


 一応名乗り返したユイに、ラーシュはまた丁寧に話し出す。


「先輩方も、お話中にすみません。今日は、5家の方が在学されていると聞いてたので、ご挨拶に来ただけなんです。先輩方もお忙しいと思いますが、これからどうぞよろしくお願いします」


 ユイだけでなく、周囲にも律儀にお辞儀をして、ラーシュは去っていった。


「……びっくりした。3年の時の再来かって思ったけど、めっちゃいい子じゃん」


 アストルが、食堂を出ていくラーシュの後ろ姿を見ながら呟く。

 ユイもニーナの時との違いに、思わず頷き返す。


「でも本当にびっくりしたよねー。またユイの親戚の子が来たかと思ったよー」

「そうだな。かなり腰が低いが、真面目でいい1年生じゃないか」


 全員思ったことは同じらしく、口々にラーシュのことを褒めている。

 ユイは何事もなかったことに安堵した。2年連続して、5家関係に巻き込まれるのはごめんだ。


 その後は何事もなく、昼食時間を過ごし、次の授業が始まる前に各々席を立って行った。



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