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ユイ・メモワール  作者: 碧川亜理沙
4年生編
63/72

後輩①



 フェールディング家別邸での用事が早々に済んだユイは、翌日朝食を食べたのち、すぐに家を出発した。

 フランや彼が連れてきた使用人たちもそろって移動となったので、帰り道はそこそこの人数での移動となった。


 ユイは少しだけ、アクラネス家へも顔を出す予定だったため、途中でフランたちと別れる予定だったのだが、どういうわけかフランはアクラネス家まで一緒についてきた。

 ユイたちがアクラネス家に到着したとき、一家がフェールディング当主の登場に非常に慌てているのを横で眺めていた。


 なんだかんだと、ひと月ほど学校外でのんびり過ごしたユイは、休暇の3分の2が過ぎたあたりで一足先に学校へと戻っていった。

 途中、フレインやイサクへのお土産を何一つ買っていないことに気づいたので、王都でいろいろなお店を周ったことは記憶に新しい。


 無事に学校へ戻った後も、4年次の教科書の準備や、先輩たちとの課外行動など、充実した休暇の日々を過ごしていった。





 そして、気づけばあっという間に休暇期間も終わりを迎える。


 つい先日、新しく移った寮から隠し部屋へと移動しているとき、下級生用の寮から講堂へと移動する人の列が目に入った。


「あ、入学式……」


 自分にかかわりがないのですっかり忘れていたユイは、その行列を横目にしながら隠し部屋へと足を進める。


 もうこの学校へ入学して4年がたつのかと思うと、感慨深い。

 今のところ、身体の不調も大きなところでは感じないため、現状維持のままだ。この状態でせめて卒業までは行きたいものだ。



 隠し部屋までの道も、もう何度も通ったのですっかり体が覚えている。もちろん、この学生棟は、気付かぬうちに部屋が増えていたりするため、時々回り道を食らうこともあるが、それすらももう慣れてしまった。

 今日も、いつの間にか増えていた部屋を通り、少しだけ遠回りして隠し部屋へと着く。


「イサク先輩?」


 隠し部屋がある通路へと出たら、部屋の前のドアに、見覚えるのある人が難しい顔をして立っていた。

 イサクはユイの呼びかけが聞こえたのか、視線をユイへと向けた。


「どうかしたんですか?」

「ちょうどいいところに来た。悪りぃ、この魔法トラップ、解いてくれねぇか? ちょうど俺が苦手なヤツが当たってしまった」


 眉間を寄せ、険しい顔で頼むイサク。傍から見たら、怖そうな表情をしているが、それがこの先輩の常であることを知っている。

 ユイはイサクと場所を代わり、仕掛けられた魔法トラップを解いていく。多少手こずったが、いくつかのトラップを解き、無事に隠し部屋の中に入ることができた。


「最後、また見たことないトラップになってました」

「最近、初見のトラップ多すぎねぇか。部屋に入るだけでどれだけ時間食わせる気だよ」

「でも今回、トラップのリセット期間は長かったですよね? しばらくぶりにやった気がします」

「そうか? そんな変わんねぇだろ」


 悪態をつきながら、イサクは部屋の中にあるソファに座り込む。そして机の上に積み重なっている本たちを整理し始めた。

 ずいぶんと、イサクとも仲良くなったような気がする。1年の頃の彼と比べて、かなり打ち解けてきたのではないだろうか。


 少し感慨深く思いながら、一旦キッチンへと入る。ここから長居をする予定なので、飲み物を準備するためだ。

 自分用の薬草茶と、イサクの分のコーヒーを入れる。さすがに3年ほど一緒にいる時間があれば、互いの好みも把握できてくる。


「フレイン先輩は来ますか?」

「さぁ。俺に聞くなよ」

「よく一緒にいる気がして」

「気のせいだ、気のせい。それに、サークル外はそんな話さねぇよ」


 この部屋で一緒にいるのを見ているからだろうか。サークル以外では、そんなに話さないという話を聞いて、少々意外に思う。サークル以外でも、フレインがイサクに絡んで行くイメージがある。だが、実際は違うということなのだろう。


 入れ終えたコーヒーをイサクの所へと届ける。

 するとちょうど、出入口の方からドアを開ける音が聞こえてきた。


「あら、2人とも来ていたの」


 話にあがっていたフレインがやって来た。

 ユイはフレインに飲み物を聞いて、キッチンに戻る。ちょうど彼が来た時ように、多めに作っていたのが幸いした。


「ありがとう、ユイちゃん。そうだ、イサク。あんた宛ての手紙を預かってきたんだった」


「あ? 何でお前が持ってんだよ」

「何故かあたしに預けられたのよ。ほら、ちゃんと渡したからね」


 ユイはコーヒーを入れ終えて、先輩たちが座る方へと移動する。

 フレインへカップを差し出した時、ちょうどイサクが手紙を机の上に置き直したので、その差出人の名前が見えた。


「レイ?」


 同名かもしれないが、イサクと連絡を取るレイという名前の人物に、心当たりがあった。そして、それは間違いではなかった。


「あぁ、お前の兄な。魔法道具について、興味があるらしくて、時々連絡くる。同室の奴が魔法道具を作ってるって言ったろ? 様々な道具の案を送って来るんだ。それを伝えて作ってもらって……直接やればいいのに、何故か俺が挟まってんだよ」


 それは初耳であった。

 ユイもレイとは時おり連絡を取り合う。だが、イサクのことや魔法道具のことは、何ひとつ触れられてない。


「レイって子、王立図書館にいるユイちゃんの兄妹だっけ?」


 フレインが記憶を辿るように尋ねる。

 頷き返しながら、やはりイサクとレイの仲がずいぶん良いように思うのは自分だけだろうか。

 だけどそれよりも先に、ひとつ訂正しなければならない。


「レイは私の弟です。私の方が少しだけ上です」


 真面目くさった顔で言うユイに、フレインが苦笑する。


「前もなんか言ってたわね。あたしは同い年の兄妹がいないからだけど、どっちが上か下かって気になるものなの?」

「知らん。こいつらが気にしすぎなだけじゃないのか。そもそも、数ヶ月違うなら、どっちが上か下かなんてはっきりしてるだろ」

「数ヶ月ならそうですね。でも数時間しか違わないからって、自分の方が上だと思うのは違うと思いませんか? どう考えても、先に生まれた方が上になるはずなのに」

「確かにねぇ。そこに側室とか愛人とか話がからむと、同い年でも正妻の方が上だと言われたりするものねぇ」

「側室……? 私とレイは、同母ですよ」

「あ? お前さっき、数時間しか違わないとか言ってただろう」

「え、はい。そうですけれど」


 少しずつ、話が噛み合わなくなっていき、3人はお互い困惑した表情で見つめ合う。

 その中、フレインが何かに思い当たったのか、ものすごく険しい顔をして頭を抱えてしまった。


「待って……。今、とてつもなく聞いちゃいけないようなことを聞いた気がした」

「…………あぁ、そういうことか。どうりで話が噛み合わねぇわけだ」

「ねぇ、ユイちゃん。確認のために聞くけれど、ユイちゃんたちって……その、双子、なの?」


 フレインのその問いに、肯定の頷きを返したあと、ユイは何故彼が頭を抱えたのかようやく理解した。


 現在、魔法使いの中で、双子が生まれたという知らせは、()()()()()()()()()()()()()()()


 魔法使いが赤子を身ごもると、倍以上の栄養や魔素が消費される。一般人に比べ、魔法使いは胎内にいる間の成長速度が早いため、それに伴いエネルギーをより一層使う。

 そのため、双子を授かろうものなら、一般人ならいざ知らず、魔法使いにとっては自身の生命すら危うくなるほどのエネルギーを2倍以上供給することになるのだ。

 双子を身ごもったと分かった時点で、赤子を堕ろしてしまうか、片方だけを生かすかの選択となる。


 だが、もし双子が生まれているという事実が分かったらどうなるだろうか。

 国中見ても、希少中の希少であり、母胎や双子を含め、どのようにして生存しているのか、研究者たちにとってのかっこうの餌食となろう。


 ──そもそも、フェールディング自体が、その研究の真っ只中にいたのだけれど。


 ユイはフレインたちに、レイと双子であるということは話していたと思っていた。だがどうやら彼らの反応を見るに、初耳のことだったようだ。


「すみません、話したものだとばっかり……」

「いや、こっちこそ、何かごめんなさい……」

「ちなみに、この話は誰が知ってるんだ?」

「私とレイのことですか? ……今生きている人だと、先輩立ちを含めて5人くらいになりました」


 もっと知る人はいたのだが、その人たちは6年ほど前にほとんど死んでいる。今は、フェールディング家当主と、当時ユイたちを取り上げた医者2人のみのはずだ。


 さすがに、今から人に話されて、注目の的になるのだけはごめんだ。ユイはこの件については他人に話さないで欲しいと、2人に伝えた。


「そりゃあ、もちろん。……というか、どんどん知らなくていいことを知っていってる気がする……」

「まだ何か隠してることとかありそうだよな」

「隠しごとなんて、そんな……」


 何かあっただろうかと悩み出したユイに向かって、フレインが慌てて止めに入る。

 この3年ほどで、フレインとイサクには、ある程度ユイの事情は知られているはずなので、これ以上話していないことはないはずだ。


「とりあえず、この話はここまで! 話題を変えましょう」

「あ、そうだ。イサク先輩、私も魔法道具について、いくつか聞きたいことがあるんですけど」

「無理」

「え、あの、まだ何も言ってない……」


 秘密ごとの話はそこで終わり、後はいつも通りの、隠し部屋での緩やかな時間が流れていった。




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