第5話 姉の名前がなければ借りられないお金
第5話 姉の名前がなければ借りられないお金
夏の終わり、ベルフォード領の北部では、小麦の穂が人の膝にも届かないまま茶色く枯れていた。例年なら黄金色の穂が風に揺れ、収穫用の荷車が村道へ列を作る時期である。しかし、今年は硬くひび割れた畑の上を乾いた風が通り抜け、倒れた案山子の外套だけをばたばたと鳴らしていた。
川から水を引く取水門は、六月末の大雨で中央部分が崩れていた。修繕を延期したまま雨季を迎えたため、亀裂へ濁流が入り込み、石組みごと押し流したのだ。下流へ続く水路には砂と折れた枝が詰まり、七つの村へ届くはずだった水は途中の窪地へ流れ込んでいた。
村人たちは残った井戸水を桶で運び、畑へ少しずつ与えた。それでも、飲み水と家畜用の水を削るわけにはいかない。井戸のそばには順番を待つ桶が並び、陽射しを避けるため麻布を頭に巻いた女たちが、乾いた豆を数えながら夕食の相談をしていた。
「今年の収穫は、昨年の四分の一にも届きません」
ベルフォード家の応接室で、北部七村の代表が報告書を差し出した。男の上着には小麦の殻と白い土がつき、革靴の爪先は水路を歩いた泥で固まっている。母はその靴が絨毯を汚していることばかり気にして、香油を染み込ませた布で鼻元を覆った。
「四分の一ですって? あなた方が怠けたのではありませんか」
「水が届かなければ、小麦は育ちません。クラリス様が提出された計画どおり、雨季の前に取水門を直していれば、ここまでの被害にはならなかったはずです」
「またクラリスか!」
伯爵は朝から飲んでいた酒の杯を卓へ置いた。卓上には食べかけの焼き林檎があり、溶けた砂糖が皿の縁で固まっている。食材の納品が止まってから屋敷の食卓は質素になったが、伯爵だけは街の料理店から酒と菓子を取り寄せていた。
「いなくなった娘の名前を出せば、何でも許されると思うな。水路の管理は村の仕事だろう」
「取水門は伯爵家の所有です。村では勝手に工事できません」
「収穫が少ないなら、来年は二倍植えればよい」
村の代表は返事をせず、膝の上に置いた帽子を握った。畑の広さは変わらず、種麦まで不足しているのに、二倍植えることなどできない。伯爵は男の沈黙を同意と受け取り、報告書を暖炉の脇へ放った。
ロザリーは窓辺の長椅子へ横になり、新しく届いた服飾誌を眺めていた。淡い黄色の昼用ドレスには向日葵の刺繍があり、耳には祖母の青い星石と同じ色の宝石が揺れている。村人が水や種麦の不足を訴えても、彼女は次の舞踏会にどの髪型がよいか、母へ相談していた。
「お母様、秋の舞踏会には青い羽根を使いたいわ。セドリック様が、私には鮮やかな色が似合うとおっしゃったの」
「よいのではなくて? ただし、去年クラリスが使った髪飾りはおやめなさい。あの子のものは地味すぎます」
「売ってしまえばいいわ。どうせ、もう戻ってこないでしょう?」
村の代表は二人を見たあと、椅子から立ち上がった。帰り際、卓から床へ落ちていた小さな焼き林檎の欠片を拾い、紙へ包む。家で待つ末娘へ持ち帰るつもりだったが、母はそれを見ても呼び止めなかった。
村人が帰ると、セドリックが書類の束を抱えて応接室へ入ってきた。今日は深緑の上着に金糸の肩掛けを合わせ、指には商業組合で買った大きな印章をはめている。書類へ署名する仕事が増えたため、経営者らしく見える服装を新調したのだ。
「小麦の損失は別の事業で補えばよい。農業のように天候へ左右される仕事へ頼るから、いつまでも田舎貴族なのです」
「何か考えがあるのか?」
「外国から高級香水を輸入します。今、王都の貴婦人たちの間では、南西諸国の花香油が流行しているのです」
セドリックは色鮮やかな商品見本を卓上へ広げた。砂漠薔薇、夜咲き茉莉花、柑橘、白檀を使った香水が、美しい硝子瓶に入っている。ロザリーはすぐに起き上がり、見本の瓶を光へ透かした。
「素敵だわ。これなら、私が王都のお友達へ勧めてあげる」
「ロザリーが身につければ、皆が欲しがるだろう。輸入した量など、ひと月で売り切れる」
「もちろんよ。お姉様にはできなかった仕事ね」
クラリスがいた頃、高級嗜好品の輸入には慎重だった。流行は一季節で変わるため、予約注文を受けてから仕入れ、売れ残りを出さないよう数量を調整していた。セドリックはその方針を臆病者の考えだと笑い、最初から大量に輸入すれば一瓶あたりの価格が下がると説明した。
契約書は南西諸国の言葉で書かれていた。セドリックは数字の横に並ぶ文字を細かく読まず、瓶の図と価格だけを確認する。百箱を注文したつもりで署名し、購入数の欄へ「100」と記入した。
ところが、契約書の単位は箱ではなく、大型梱包を表すものだった。一梱包には香水が十箱ずつ入っている。セドリックが注文したのは百箱ではなく、千箱だった。
三週間後、ベルフォード家の屋敷へ荷馬車が到着した。十台で終わるはずが、街道には次から次へと馬車が現れ、昼を過ぎても列が途切れない。使用人の減った屋敷では荷下ろしが追いつかず、硝子瓶を詰めた木箱が厩舎、食料庫、使われていない客室まで埋め尽くした。
「一体、何箱あるのだ!」
伯爵が玄関前で怒鳴ると、輸送責任者は受領書を開いた。男は埃よけの布を首へ巻き、昼食の腸詰めパンを片手に持っている。紙へ油染みをつけないよう、彼はパンを脇へ置いて数字を示した。
「ご注文どおり、千箱でございます。一箱につき十二本、合計一万二千本です」
「百箱しか頼んでいない!」
「こちらへ、セドリック・オルブライト様のご署名がございます」
「外国語で書いた方が悪い。残りは持ち帰れ」
「生産者名、香料の種類、数量は契約書へ明記されております。お受け取りにならない場合でも、商品代金と往復の輸送費は請求いたします」
荷馬車から下ろされた箱の一つが傾き、中で硝子の割れる音がした。甘い茉莉花と白檀の香りが一気に広がり、馬が鼻を鳴らして後ずさる。母は香油の強さにむせながらも、輸入品を道路へ置いておくのは体面が悪いと言い、すべて屋敷へ運び込ませた。
ロザリーは一万二千本という数字を聞いても困らなかった。それだけ多くの香水を仕入れられる自分たちは裕福なのだと思い、友人へ見せるために毎朝、違う箱を開けさせた。寝室の化粧台には色とりどりの瓶が並び、絨毯へこぼれた香油が何度拭いても取れなくなった。
「今日は夜咲き茉莉花にするわ。昨日の砂漠薔薇は、少し大人しすぎたもの」
侍女が香水を一滴つけようとすると、ロザリーは瓶を取り上げ、首筋と髪と扇へ何度も吹きかけた。甘い香りが部屋中へ充満し、窓辺に飾られていた秋薔薇の香りを消してしまう。花瓶の水は三日間替えられておらず、薔薇の茎にはぬるい水の匂いがまとわりついていた。
「お嬢様、こちらの瓶も商品でございます。開封すると販売できなくなります」
「私が使えば宣伝になるのよ。王都の令嬢が欲しがるに決まっているわ」
「昨日お出しになったご友人への手紙には、まだお返事がございません」
「皆、忙しいのよ。それより、明日は柑橘にするから用意しておいて」
ロザリーが瓶を開けるたび、侍女は帳面へ開封数を記録した。二週間で百二十本を超えたが、売れたのは三本だけだった。しかも、その三本はロザリーが友人へ代金後払いで渡したもので、一枚の銀貨も入っていない。
屋敷の倉庫では、種類の違う香りが混ざり始めていた。茉莉花、薔薇、白檀、甘い果実の匂いが閉め切った室内へこもり、見張りの男は頭痛を訴える。窓を開ければ日光で香水が傷むため、秋の涼しい風が吹いても扉を閉めたままにしなければならなかった。
支払期限になると、南西諸国の商会から請求書が届いた。商品代金、輸送費、保険料を合わせた額は金貨二千八百枚である。ベルフォード家の一年分の収入をすべて使っても、返済できない金額だった。
「売れれば金貨五千枚になるはずだった!」
セドリックは書斎の机を叩いた。飲みかけの葡萄酒が倒れ、契約書の端を赤く染める。彼は濡れた部分を袖で拭いたが、文字がにじんでさらに読みにくくなった。
「予定どおり売れていれば、何も問題はなかったのだ。ロザリー、王都の友人へもっと勧めろ」
「皆、香りが強すぎると言うのよ。秋の舞踏会では北国の鈴蘭が流行しているんですって」
「お前が流行させると言っただろう!」
「私のせいではないわ。セドリック様が、ひと月で売り切れるとおっしゃったのよ」
二人が言い争う横で、伯爵は金庫の中身を確かめていた。残っているのは銀貨が数袋と、ロザリーの婚礼用に予約していた宝石の引換証だけである。使用人の給金と税金も滞り、パン屋だけでなく肉屋、乳製品店、酒屋まで納品を止めていた。
母は昼食に出された豆のスープを見て、匙を置いた。肉も乳酪も入っておらず、味つけは塩だけだった。厨房にはこれ以上の食材がないと聞かされても、母は娘の結婚前に食卓を貧しく見せるなと料理人を叱った。
「銀行から借りればよいでしょう。ベルフォード家には土地も屋敷もあるのですから」
「すでに水路修繕費と税金の支払いで借り入れがある」
「では、セドリック様の侯爵家から出していただけば?」
「父上には、この事業はベルフォード家の事業だと説明している。今さら失敗したとは言えない」
「失敗ではありませんわ。まだ売れていないだけです」
ロザリーは豆のスープへ香草が浮いているのを嫌がり、給仕へ下げさせた。代わりの料理はないと告げられると、机の上にあった干し林檎を一枚つまむ。硬くなっていたため、一口かじって皿へ戻した。
翌朝、伯爵とセドリックは王都中央銀行を訪れた。伯爵は毛皮をあしらった黒い上着を着て、家門の印章を磨かせている。セドリックも銀色の礼装へ着替え、破綻しかけた家の代表ではなく、成功した若い事業家に見えるよう髪へ香油を塗っていた。
二人を迎えた支店長は、灰色の上着を着た痩せた老人だった。机の上には数字別に分けられた書類が並び、隅には妻が持たせたらしい小さな弁当箱が置かれている。蓋の隙間から焼いた魚と酸味のある漬物の匂いがした。
「ベルフォード伯爵家の事業拡大資金として、金貨三千枚を借りたい」
伯爵が申込書を差し出すと、支店長は眼鏡をかけた。申込書には香水輸入事業で莫大な利益を見込んでいると書かれている。しかし、売上を証明する欄は空白で、担保に指定された北部農地の評価額も二年前のままだった。
「今年、北部農地の収穫量が大幅に減少しておりますね」
「一時的なものだ。来年には元へ戻る」
「取水門の修繕費と、未納の税金はいかがなさいますか」
「融資を受けたあとで払う」
「香水商会への支払いが先月から滞っております。追加融資を行えば、資金の大半が既存債務の返済へ回るのではありませんか」
伯爵は椅子の肘掛けを指で叩いた。支店長は申込書だけでなく、ベルフォード家とオルブライト家の信用記録まで調べている。セドリックは笑顔を作り、香水の見本を机へ置いた。
「この商品をご覧ください。王都で流行すれば、半年で借入金の倍を稼げます」
「流行すれば、という前提ですね。予約注文書はございますか」
「これから集めるところだ」
「売上実績は?」
「これからだと言っている!」
支店長は香水瓶へ触れず、過去の信用評価書を取り出した。それは三年前、ベルフォード家へ水路改修費を融資した際の記録である。事業計画、返済予定、天候不良時の代替収入まで細かく記され、最終頁にはクラリスの署名があった。
「当行が以前、ベルフォード家へ融資したのは、領地に価値があったからだけではございません」
「何が言いたい」
「クラリス・ベルフォード様が経営管理を担当されていたから、当行は融資を継続していました。提出される数字が正確であり、不測の損失についても隠さず報告なさいました」
支店長は今年の申込書を、三年前の計画書の横へ並べた。セドリックが書いた書類には、香水の保管費用も、売れ残った場合の処分費用も、返済が遅れた場合の利息も記されていない。利益予測だけが大きな文字で書かれていた。
「現在の経営陣へ、追加融資はできません」
「女一人がいなくなっただけだぞ!」
伯爵が立ち上がると、支店長は眼鏡を外した。弁当箱の中から魚の脂が漏れ、机の敷物へ小さな染みを作っている。彼は布で染みを押さえながらも、言葉を変えなかった。
「当行にとって、そのお一人が信用の根拠でした」
「クラリスが保証人になればよいのだな」
「現在、クラリス様はナジュム王国に滞在しておられます。ご本人の意思確認なしに保証契約は結べません」
「父親である私が承諾する」
「成人したご令嬢の財産について、父親に代理権はございません」
伯爵は申込書をひったくり、セドリックとともに銀行を出た。秋の冷たい雨が降り始めていたが、二人とも馬車を入口へ回していなかった。濡れた石畳を歩きながら、セドリックは唇についた香油を袖で拭った。
屋敷へ戻ると、香水の商会から二度目の督促状が届いていた。十日以内に支払いがなければ、違約金を加えて国際商業裁判所へ申し立てると書かれている。伯爵は書類を丸め、暖炉へ投げ込もうとした。
「待ってください。請求書を燃やしても、借金は消えません」
セドリックは伯爵を止め、クラリスが使っていた書斎へ向かった。床には未整理の書類が積まれ、食べ残したパンには青い黴が生えている。窓辺の花瓶には枯れた秋薔薇が残され、濁った水から腐った茎の匂いがしていた。
セドリックは机の引き出しを外し、古い書類を一枚ずつ調べた。五年前の穀物取引、三年前の水路改修契約、使用人の給金台帳には、クラリスの署名が残っている。彼は最もはっきり書かれた署名を見つけると、透けるほど薄い紙を重ねた。
「何をなさっているの?」
ロザリーは濃い橙色のドレスを着て、開けたばかりの柑橘香水を首へ吹きかけながら入ってきた。甘酸っぱい香りが、部屋に残る黴と枯れた薔薇の匂いへ重なる。セドリックは羽根ペンへインクをつけ、薄紙の上からクラリスの署名をなぞった。
「銀行がクラリスの名前を信用するなら、名前だけ借りればよい」
「お姉様に署名を頼むのですか?」
「頼めば断るに決まっている。私が代わりに書く」
ロザリーは机へ近づき、練習用の紙をのぞき込んだ。最初の署名は文字が震え、二枚目はCの形が大きすぎた。セドリックは何度も書き直し、十枚目でようやく本物に似た形を作った。
「お上手ですわ。お姉様の字みたい」
「毎日帳簿ばかり書いていた女の字だ。難しくはない」
「でも、見つかったら怒るのではなくて?」
「砂漠の宮殿で第十夫人として閉じ込められている女に、何ができる。そもそも、ベルフォード家の借金を払うのは長女の義務だ」
そこへ伯爵夫妻も入ってきた。セドリックはクラリスを金貨三千枚の連帯保証人にする契約書を見せ、署名を代筆すると説明する。母は一瞬だけ顔をこわばらせたが、すぐに窓辺の枯れた薔薇へ目をそらした。
「クラリスが戻れば、いずれ家の仕事をさせるつもりでしたもの。同じことでしょう」
「そのとおりだ。娘の名を家のために使って、何が悪い」
伯爵は契約書へ家門の印章を押した。ロザリーも証人欄へ名前を書き、自分の署名の横へ柑橘香水を一滴落とす。紙には薄い油染みが広がり、甘酸っぱい匂いが残った。
翌朝、偽造された契約書は銀行ではなく、国外の小さな金融商会へ送られた。ベルフォード家はクラリス本人も同意していると申告し、彼女のナジュム王国での財産まで保証対象に含めていた。審査の緩い商会なら、署名と伯爵家の印章だけで金を貸すと思ったのだ。
書類は国境を越え、複数の商業組合を経由した。ところが、保証人の所在確認を行うため、その写しがナジュム王国の外務院へ届けられる。封筒を開いたサミーラは、契約書から漂う柑橘香水の匂いに眉を寄せた。
彼女はクラリス本人の署名が入った滞在契約書を隣へ並べた。本物の署名は最後の文字がわずかに右へ下がるが、送られてきたものはすべて同じ高さに揃っている。さらに、クラリスは正式な書類で「クラリス・ベルフォード」と続けて書かず、中央名まで記す習慣があった。
「クラリス様。こちらへ署名した覚えはございますか」
サミーラに呼ばれたクラリスは、試験農場から戻ったばかりだった。砂色の作業着の裾には泥がつき、腕には収穫した薬草の籠を抱えている。籠の中から爽やかな香りが立ち上ったが、契約書へ近づくと、それとは異なる甘い柑橘の匂いがした。
クラリスは書面を最後まで読み、連帯保証額を確認した。自分が知らない香水輸入事業の借金、金貨三千枚を保証することになっている。署名欄には自分の名前があったが、見覚えのない書き方だった。
「これは私の署名ではありません」
「やはり、偽造ですね」
「証人欄はロザリーの字です。この香水も、妹が好んで使っているものかもしれません」
クラリスは薬草の籠を卓へ置いた。手袋を外そうとしたが、指先が留め具へうまく入らない。ザイードは黙って水差しから杯へ水を注ぎ、彼女の前へ置いた。
「ベルフォード家へ、どう対応したい?」
クラリスはすぐには答えず、杯を両手で包んだ。水の冷たさが土で熱を持った指へ伝わる。実家にいた頃なら、自分が知らない借金でも家のために返済計画を作り、ロザリーへ事情を聞くことさえしなかっただろう。
「この契約を無効にしてください。それから、署名を偽造した者を正式に調査していただきたいです」
「家族であっても、か?」
「家族だからこそ、これ以上、私の名前を自由に使わせてはいけません」
サミーラはすぐに金融商会へ契約差し止めの通知を書き始めた。ザイードは国際商業裁判所とベルフォード王国の司法院へ、文書偽造の調査を求めるよう命じる。ただし、クラリスの代わりに罰を決めることはしなかった。
クラリスは偽造契約書を証拠袋へ入れた。柑橘香水の匂いは、紙を封じても指先に残っている。彼女は実家から持ち出した帳簿へ、発見された日付、保証額、関係者の名前を記した。
遠いベルフォード家では、その日の夕方、融資金が届かないことに伯爵が怒り、セドリックは審査が遅れているだけだと言い張っていた。ロザリーは新しい香水瓶を開け、姉の署名が少し似ていなかったのではないかと笑っている。彼らはまだ、クラリスの名前が、もう好き勝手に借りられるものではないと理解していなかった。




