第八話 井戸の底
ご覧頂きありがとうございます!
楽しんで頂けましたら幸いです!
古井戸の底から聞こえた声。
それは男とも女ともつかない、不思議な響きを持っていた。
「――ようやく来たか。」
アルトは反射的に後ずさる。
だが井戸を覗き込んでも、底には闇しかない。
人影などどこにも見えなかった。
「誰だ……?」
返事はない。
聞こえるのは風の音だけ。
まるで、さっきの声が幻だったかのように。
その時、《真実の眼》が静かに文字を映し出した。
対象を見失いました。
周囲を探索しますか?
(探索。)
アルトが心の中で答える。
すると視界がわずかに青く染まり、井戸の周囲にいくつもの光の線が浮かび上がった。
石積み。
雑草。
倒れた木。
その中で、一か所だけが金色に光っている。
「……あそこか。」
井戸の裏側。
伸び放題になった草をかき分けると、地面に半分埋もれた石板が姿を現した。
表面には見たことのない文字が刻まれている。
アルトには読めない。
だが、《真実の眼》は違った。
【古代封印碑】
状態:損傷
文字情報の一部を解析します。
刻まれた文字が頭の中へ流れ込んでくる。
――封印を守る者よ。
真実を見る者が現れし時、
封印は再び揺らぐ。
「真実を見る者……。」
まるで、自分のことを言っているようだった。
その続きを読もうとした瞬間。
文字が途中で途切れる。
解析失敗。
権限が不足しています。
また、この表示だ。
アルトは悔しそうに唇を噛んだ。
「まだ足りないのか……。」
その時だった。
ガサッ。
草むらが揺れる。
アルトは咄嗟に鉄の剣を抜いた。
「誰だ!」
飛び出してきたのは、一匹の小さな魔物だった。
灰色の毛並みに赤い目。
犬ほどの大きさしかない。
【シャドウラット】
Lv.3
状態:興奮
「魔物!」
町の近くにも現れる、ごく弱い魔物。
普通なら初心者冒険者でも簡単に倒せる相手だ。
しかしアルトはまだ戦いに慣れていない。
シャドウラットが一直線に飛びかかってくる。
「くっ!」
剣を構える。
その瞬間。
攻略を開始します。
推奨行動。
右へ半歩。
斬り上げ。
成功率:94%
アルトは考えるより先に体を動かした。
半歩だけ右へ。
シャドウラットの牙が空を切る。
「今だ!」
剣を斜めに振り上げる。
ザシュッ!
鮮やかな軌跡を描き、魔物はその場へ倒れ込んだ。
「はぁ……。」
息を整える。
以前なら偶然だった。
だが今は違う。
《真実の眼》の指示を、自分の体で実行できるようになってきている。
戦闘終了。
経験値を獲得。
Lv.2 → Lv.3
「また……。」
レベルが上がる。
すると今度は、新しい表示が現れた。
《真実の眼》
熟練度が上昇しました。
新機能を解放。
【危険感知】
「危険感知?」
その能力を確認するより早く。
頭の中へ鋭い痛みが走る。
同時に《真実の眼》が真っ赤な文字を映した。
危険。
危険。
危険。
直ちにその場を離れてください。
「え……?」
地面が揺れる。
ゴゴゴゴゴ……。
古井戸の底から、低い振動が伝わってきた。
石積みに亀裂が走る。
井戸の中から黒い霧がゆっくりと溢れ始める。
「何だ、これ……。」
霧は生き物のようにうごめき、空へと立ち昇る。
その中心で、ゆっくりと二つの赤い光が開いた。
――目だ。
巨大な何かが、井戸の底で目を覚まそうとしている。
アルトの足がすくむ。
逃げなければ。
そう頭では分かっているのに、体が動かない。
《真実の眼》は最後の警告を表示する。
対象を確認。
現在の勝率。
0.0%
グレイウルフの時は六十八パーセントだった。
シャドウラットは九十四パーセント。
だが今、表示されている数字は――
ゼロ。
アルトは、生まれて初めて《真実の眼》から「勝てない」と告げられた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
皆様に楽しんで頂けるよう今後も頑張ります!
評価や感想など是非いただけますと活動の励みになりますのでよろしくお願いいたします!
次回もお楽しみに!




