第六話 旅立ちの日
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朝日が村を照らす頃。
アルトは荷物を背負い、家の前に立っていた。
荷物と言っても、大したものではない。
着替えが二着。
水筒。
干し肉と黒パン。
父が昔使っていた革袋。
そして腰には、昨日村長から譲り受けた古びた鉄の剣。
――《無銘の聖剣》。
その正体を知る者は、この世界でまだアルト一人だけだった。
「本当に一人で大丈夫か?」
父が心配そうに問いかける。
「大丈夫だよ。」
笑って答えたものの、胸の奥では緊張が渦巻いていた。
七年間、一度も村の外で暮らしたことはない。
初めての旅。
初めての町。
初めての冒険者ギルド。
期待と不安が入り混じる。
母は小さな布袋を差し出した。
「お守りよ。」
中には木で彫られた小さな神像が入っていた。
「困った時は、お父さんとお母さんを思い出して。」
「……うん。」
思わず目頭が熱くなる。
前世の記憶はない。
この世界で生まれ、この両親に育てられた。
だからこそ、この家はアルトにとってかけがえのない居場所だった。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
父はいつものように笑い、母は涙をこらえながら手を振る。
アルトは何度も振り返りながら、村を後にした。
街道を歩いて半日。
王都へ続く街道は思っていた以上に賑わっていた。
商人の馬車。
旅芸人。
巡礼者。
そして鎧姿の冒険者たち。
「これが……外の世界。」
胸が高鳴る。
その時だった。
視界の隅で、青白い文字が揺れる。
サブクエストを検出。
「サブクエスト?」
初めて見る表示だ。
視線の先には、一台の荷馬車。
車輪がぬかるみに沈み、老人が困ったように押している。
依頼内容
荷馬車を救出する。
推奨難易度:E
報酬:経験値・信用度上昇
「経験値だけじゃない……。」
信用度。
そんなものまであるのか。
アルトは迷わず駆け寄った。
「手伝います!」
「おお、坊主!」
二人で力を合わせる。
だが、馬車はびくともしない。
その瞬間、《真実の眼》が発動する。
攻略法
右後輪の石を除去。
成功率:100%
「石……?」
覗き込むと、小さな岩が車輪に噛み込んでいた。
それをどかした瞬間。
「おおっ!」
馬車は驚くほど軽く動き出した。
「ありがとう!」
老人は何度も頭を下げた。
「坊主のおかげだ!」
アルトが照れくさそうに笑うと、視界に文字が浮かぶ。
サブクエスト達成。
経験値を獲得。
信用度が上昇しました。
その直後。
Lv.2
「……上がった。」
世界で誰にも見えない数字。
だが確かに、自分の中で何かが変わった気がした。
夕暮れ。
隣町アルメリアが見えてくる。
その門の前には、多くの人々が集まっていた。
「何だ?」
ざわめきの中心を見る。
白い鎧をまとった騎士たち。
王国旗。
そして豪華な馬車。
「勇者様が王都へ戻られるぞ!」
誰かが叫ぶ。
歓声が上がる。
アルトも背伸びをして馬車を見る。
だが、厚いカーテンが閉ざされ、中は見えない。
その時。
《真実の眼》が、自動で発動した。
解析対象を検知。
閲覧権限不足。
対象:
【勇者】
危険度:測定不能
警告。
現在のあなたでは閲覧できません。
「勇者……。」
ただ名前を見ただけなのに、胸がざわつく。
まるで近づいてはいけない存在だと、本能が告げているようだった。
馬車はゆっくりと通り過ぎる。
そのすれ違いざま。
閉ざされていたカーテンが、一瞬だけ風に揺れた。
中に座る金色の髪の少年。
年齢は、自分とそう変わらない。
しかし、その黄金色の瞳だけが真っ直ぐこちらを見つめていた。
一瞬だけ、視線が交わる。
次の瞬間。
警告。
対象から観測されました。
「……え?」
アルトは思わず立ち止まる。
馬車は何事もなかったかのように遠ざかっていく。
だが、アルトの鼓動だけは激しく鳴り続けていた。
リリアに続いて二人目。
いや――
《真実の眼》が反応したということは、この少年もまた、普通ではない。
夕焼けの空の下。
二人の少年は言葉を交わすことなく、運命だけを交差させた。
それが後に世界を二分する戦いの、最初の出会いだった。
クエスト更新
【王都へ向かえ】
進行度:12%
次の目的地:
冒険者ギルド・アルメリア支部
読んでいただきありがとうございます。
5話目をこえて6話目。
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