第四話 見えてはいけないもの
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――逆観測。
その文字が消えても、俺の心臓は激しく鼓動を続けていた。
「見返された……?」
《真実の眼》は俺だけの力だと思っていた。
今まで見てきた石も、木も、魔物も。
すべて俺が一方的に"見る側"だった。
なのに、リリアだけは違った。
まるでこちらの視線に気付いたように振り返り、穏やかに笑ってみせたのだ。
偶然……なのか?
いや、偶然で済ませていい気がしない。
その日の夕方。
父の手伝いで村の薪置き場へ向かう途中だった。
「アルト、悪いが倉庫の中を見てきてくれ。」
「うん。」
古びた倉庫の扉を開ける。
中には農具や使われなくなった道具が山積みになっていた。
「ずいぶん古いな……。」
何気なく辺りを見回した、その時。
視界の端で、一つの木箱が淡く青く光った。
「……え?」
今までそんなことは一度もなかった。
恐る恐る近づく。
すると《真実の眼》が反応する。
【木箱】
内部に重要物品を確認。
閲覧を推奨。
「重要物品?」
鍵は掛かっていない。
蓋を開けると、中には埃をかぶった革袋が一つだけ入っていた。
中身は……古い指輪。
装飾もない、銀色の輪。
誰が見ても価値はなさそうだ。
だが、目を向けた瞬間。
【封印の指輪】
状態:封印維持中
現在の所有者:なし
本来の役割:閲覧権限不足
推奨行動:触れないこと。
思わず手を引っ込めた。
「触れないこと?」
今まで《真実の眼》は情報を教えてくれるだけだった。
初めて"警告"された。
ぞくり、と背筋を冷たいものが走る。
「アルトー!」
外から父の声が聞こえた。
「もう見つかったか?」
「い、今行く!」
俺は急いで木箱を閉じた。
……なかったことにしよう。
今の俺が関わっていいものじゃない。
そんな確信だけがあった。
翌日。
村の広場では、冒険者ギルドから派遣された二人の冒険者が話をしていた。
「グレイウルフを子供が倒した?」
「そんな話を信じる奴がいるのか。」
二人は笑っている。
そのうちの一人が俺を見つけた。
「お前がアルトか?」
「……はい。」
「悪いが、その剣を持ってみろ。」
腰に差していた昨日研いだ鉄の剣を渡される。
冒険者は鼻で笑った。
「軽いな。こんな剣じゃグレイウルフは倒せねぇ。」
「やっぱり嘘だったか。」
周囲の村人たちも苦笑する。
その空気を破ったのは、村長だった。
「アルトは嘘をつく子じゃない。」
「なら証明してもらおう。」
冒険者は近くに積まれていた薪を指差した。
「全部切ってみろ。」
子供には無理な量。
俺もそう思った。
だが、その時。
《真実の眼》が剣へ反応する。
【鉄の剣】
真名:《無銘の聖剣》
封印率:99%
一時的な性能解放が可能です。
条件:
使用者が"真名"を口にすること。
「……真名。」
思わず呟く。
そんなことをしたら、おかしいと思われる。
だが。
試してみたい。
俺は誰にも聞こえないほど小さな声で囁いた。
「《無銘の聖剣》。」
その瞬間。
カチリ、と何かが噛み合う音がした。
剣が一瞬だけ淡い銀色の光を放つ。
「なっ……!」
自分でも驚くほど自然に剣が振れた。
ザンッ!!
薪の山が一太刀で真っ二つになる。
静まり返る広場。
「……今の。」
冒険者が目を見開く。
しかし次の瞬間には、剣は元の古びた姿へ戻っていた。
「見間違いか?」
「いや……。」
誰も何が起きたのか理解できない。
もちろん俺にも分からない。
ただ一つだけ。
《真実の眼》の表示が変わっていた。
封印解除率
1%
「一パーセント……?」
たったそれだけで、あんな力が。
もし全部解放されたら――。
その時だった。
視界の端に、見覚えのある銀髪が映る。
リリア。
彼女は少し離れた場所から、静かに俺を見つめていた。
そして、小さく口を動かす。
「……やっぱり。」
その言葉と同時に、《真実の眼》が警告を発した。
警告。
監視対象が増加しました。
現在、あなたを観測している存在。
2
「……二人?」
リリア以外に、もう一人。
俺を見ている者がいる。
だが周囲を見回しても、それらしい人物はいない。
ただ、村の外れに立つ古い教会の鐘が――
誰も触れていないのに、一度だけ静かに鳴り響いた。
読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!




