第三話 ハズレ職業の価値
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翌朝
グレイウルフ討伐の話は、小さな村中へあっという間に広まっていた。
「本当にアルトが倒したらしいぞ。」
「いやいや、偶然だろ。」
「運が良かっただけじゃないか?」
村人たちは口々に噂をする。
信じる者はいない。
だが、完全に笑う者もいなかった。
昨日まで「ハズレ職業」と馬鹿にしていた視線が、ほんの少しだけ変わっている。
「アルト。」
父が畑仕事の手を止めて声を掛けてきた。
「村長がお前を呼んでる。」
「村長が?」
村長の家へ行くと、昨日助けた少女もいた。
相変わらず銀色の髪に赤い瞳。
俺を見ると、小さく微笑んだ。
「昨日はありがとう。」
「気にしなくていいよ。」
「自己紹介がまだだったね。」
少女は胸に手を当てる。
「私はリリア。」
どこか上品な話し方だった。
旅人……だろうか。
そんなことを考えていると、村長が口を開く。
「実は困ったことがあってな。」
机の上に、一振りの剣が置かれていた。
刃は錆び付き、柄も傷だらけ。
「山で見つかった剣なんじゃが、使い物になるか分からん。」
「鍛冶屋も首を傾げていてな。」
「お前は鑑定士なんだろう?」
その言葉に部屋の空気が少し重くなる。
鑑定士。
昨日までは笑われるだけの職業だった。
俺は恐る恐る剣へ目を向けた。
すると。
【鉄の剣】
状態:著しい損傷
品質:D
価値:低
いつも通りの表示。
……違う。
何か、奥に隠れている。
そんな気がした。
もっと見ようと意識を集中させる。
その瞬間だった。
《真実の眼》が熱を帯びる。
隠蔽情報を検知。
閲覧しますか?
「……!」
隠蔽情報?
そんな表示は初めてだった。
(見る。)
名称
《無銘の聖剣》
現在名称
【鉄の剣】
状態
封印中
耐久:2/1000
能力:99%封印
真名を解放することで本来の性能を取り戻します。
俺は思わず息を止めた。
聖剣?
これが?
誰がどう見てもボロボロの鉄剣だ。
だが《真実の眼》は違うと言っている。
さらに文字が続く。
封印理由
閲覧権限不足
まただ。
昨日の「世界設定」と同じ。
見えそうで見えない。
まるで、この世界そのものが俺に「まだ早い」と告げているようだった。
「どうした?」
村長の声で我に返る。
「あ……えっと。」
言うべきか。
いや、言っても誰も信じないだろう。
「まだ使える剣です。」
結局、それだけ伝えた。
「そうか?」
「研げば十分使えます。」
嘘ではない。
本当のことを全部話していないだけだ。
「ありがとう。」
村長は満足そうに頷いた。
一方、隣にいたリリアだけは、俺をじっと見つめていた。
その視線には、昨日と同じ違和感があった。
帰り道。
リリアが後ろから追い掛けてきた。
「アルト。」
「ん?」
「……本当に、使えるだけだった?」
心臓が跳ねた。
「どういう意味?」
「何でもない。」
彼女は首を振る。
そして少し笑った。
「でも、あなたの目は普通じゃない。」
「え?」
「そんな気がしただけ。」
そう言って先に歩いていく。
俺は立ち止まったまま、その背中を見送ることしかできなかった。
「まさか……。」
見えているのか?
《真実の眼》のことを。
いや、そんなはずはない。
誰にも見えない能力のはずだ。
そう自分に言い聞かせた、その時。
視界に文字が浮かぶ。
対象:リリア
警告。
解析対象から逆観測を受けています。
「……逆観測?」
背筋が凍る。
今まで一方的に見るだけだった《真実の眼》。
その能力を――
誰かが"見返してきた"。
リリアは振り返らない。
ただ静かに歩いていく。
夕日に照らされた銀色の髪が風に揺れた。
その背中を見つめる俺の視界に、最後の一文が浮かぶ。
危険度評価
測定不能
俺は知らなかった。
彼女との出会いが、世界の運命を変えることになるとは。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに。




