第十六話 帰還、そして現実
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森の奥から響いていた地響きは、いつの間にか消えていた。
アルトたちは川辺でしばらく息を整えた後、再びアルメリアの町を目指して歩き始めた。
「本当に助かったな……」
カインが額の汗を拭う。
「あの熊、あと少しで俺たち全員終わってたぞ」
「うん……」
アルトは頷きながらも、ミリアの言葉が頭から離れなかった。
――あのくまさん、逃げてた。
フォレストベアほどの魔物が逃げ出す相手。
一体、何が森の奥にいるのか。
考えようとしたその時、ミリアがアルトの服の裾を掴んだ。
「おにいちゃん」
「どうした?」
「……おなかすいた」
一瞬の沈黙。
そして。
「ははは!」
カインが大声で笑った。
「そりゃそうだよな! 三日も森の中だったんだもんな!」
緊張が一気にほどけ、アルトも思わず笑ってしまった。
夕方。
ようやくアルメリアの門が見えてきた。
「帰ってきた……!」
カインが両手を上げる。
門番の男たちは、老人とミリアの姿を見るなり驚きの声を上げた。
「おい、行方不明者だ!」
「本当に見つけたのか!?」
「見習い二人が?」
ざわめきが広がっていく。
カインは少し誇らしげに胸を張ったが、アルトは老人を支えるのに必死だった。
冒険者ギルド。
扉を開けた瞬間、エミリアが立ち上がった。
「アルト君! カイン君!」
「無事だったのね!」
「依頼、達成しました」
アルトが答えると、ギルド中の視線が集まる。
「本当に見つけたのか?」
「迷いの森だろ?」
「運が良かっただけじゃないのか?」
ひそひそと声が聞こえてくる。
その中の一人、革鎧を着た大柄な男が鼻で笑った。
「運だけのガキが英雄気取りかよ」
ギルドの空気が凍りつく。
カインが顔を赤くする。
「なんだと!」
「やめろ、カイン」
アルトは静かに腕を掴んだ。
男はなおも笑う。
「鑑定士なんてハズレ職だろ? 森でたまたま生き残っただけじゃねえか」
その言葉が、胸に突き刺さる。
七歳の時から、何度も言われてきた言葉。
――ハズレ職。
――役立たず。
――戦えない。
アルトは拳を強く握り締めた。
悔しい。
反論したい。
でも、今は実力を示せるほどの力はない。
すると、その時。
「黙らんか」
低い声がギルドに響いた。
二階から、ギルドマスターのガレスがゆっくりと降りてくる。
「行方不明者を救った者たちを笑うほど、お前は偉い冒険者なのか?」
男は顔をしかめる。
「で、ですが……」
「結果を出したのはアルトたちだ。それが全てだ」
男は舌打ちすると、そのまま席へ戻っていった。
依頼達成の報酬を受け取った後、アルトはギルドの裏庭に出ていた。
夕焼けが町を赤く染めている。
「悔しいか?」
後ろからガレスの声がした。
「……はい」
アルトは正直に答えた。
「僕、まだ何も証明できてないんです」
「鑑定士はハズレじゃないって、みんなに認めてもらいたいのに」
ガレスはしばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「ならば、証明してみせろ」
「え?」
「口で語るな。結果で示せ」
ガレスはアルトの目を真っ直ぐ見つめる。
「人は、自分の常識を簡単には変えられん」
「十人を救っても、運だと言われる」
「百人を救って、ようやく実力だと認める」
「だが、千人を救えば、誰も文句は言えなくなる」
アルトは黙って話を聞いていた。
「悔しいなら、前へ進め」
「お前が本当に特別なら、いつか世界がお前を認める日が来る」
その言葉は、幼いアルトの胸に深く刻まれた。
その夜。
宿の部屋。
アルトはベッドの上で天井を見つめていた。
「鑑定士はハズレじゃない……か」
小さく呟く。
その時、《真実の眼》が静かに文字を映し出した。
メイン目標を設定しますか?
【鑑定士はハズレではないと証明する】
YES/NO
アルトは迷わなかった。
(YES)
次の瞬間、文字が変化する。
メイン目標を登録しました。
達成条件:
???
進行率:
0.01%
「0.01%……?」
あまりにも遠い数字。
だが、不思議と絶望はなかった。
必ず証明してみせる。
父さんや母さんに。
自分を笑った人たちに。
そして、自分自身に。
アルトが決意を胸にした、その時だった。
窓の外で、チリン――と鈴の音が鳴る。
慌てて窓を開ける。
だが、そこには誰もいない。
ただ、月明かりに照らされた町並みが広がっているだけだった。
しかし、《真実の眼》は確かに表示していた。
警告。
監視対象を確認。
対象:神聖教会。
アルトはまだ知らない。
自分が思っている以上に、大きな存在に目をつけられていることを。
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