第十五話 森の主
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ドォン――。
ドォン――。
地面を揺らす足音が、森全体に響き渡る。
カインが木剣を握る手を震わせながら、森の奥を見つめた。
「な、なんだよ、あれ……」
木々の隙間から、巨大な影が姿を現す。
灰色の毛皮。
二本の鋭い牙。
そして、大人の三倍はあろうかという巨体。
その魔物が一歩進むたび、周囲の木々が揺れた。
《真実の眼》が反応する。
対象:《フォレストベア》
Lv.18
状態:狂乱
危険度:極大
勝率
単独戦闘:0.0%
共同戦闘:4.8%
「レベル十八……!」
アルトは息を呑んだ。
グレイウルフとは比べものにならない。
まともに戦えば、全員死ぬ。
「逃げるぞ!」
アルトは叫んだ。
「で、でも、追いつかれる!」
カインの言う通りだった。
相手は巨体の割に速い。
逃げ切れる保証はどこにもない。
その時、《真実の眼》が新しい文字を映し出した。
生存ルートを検索します。
成功率:73%
推奨行動。
一、北西へ走る。
二、渓谷へ向かう。
三、戦闘を避ける。
「北西だ!」
「カイン、おじいさんたちを頼む!」
「お、おう!」
四人は一斉に駆け出した。
背後から、フォレストベアの咆哮が響く。
「ガアアアアアッ!」
凄まじい衝撃が背中を叩く。
恐怖で足が止まりそうになる。
それでもアルトは走った。
自分だけじゃない。
守らなければならない人がいる。
数分後。
森が開け、切り立った崖が見えてきた。
「行き止まり!?」
カインが叫ぶ。
だが、《真実の眼》は依然として「前へ進め」と告げている。
アルトは崖の下を覗き込んだ。
十メートルほど下に川が流れている。
「まさか……飛び降りるのか?」
老人が青ざめる。
その時、フォレストベアが森を突き破って現れた。
もう迷っている時間はない。
推奨行動。
右側の岩を落としてください。
成功率:81%
「カイン! あの岩を押して!」
「はぁ!? こんな時に!?」
「いいから!」
二人で岩に体当たりする。
ビクともしない。
背後ではフォレストベアが距離を詰めてくる。
「うおおおおっ!」
最後の力を振り絞る。
次の瞬間、岩が大きく傾いた。
ゴゴゴゴゴ……!
巨大な岩は崖下へ落下し、川へ激突する。
激しい水しぶきが舞い上がった。
そして。
岩が川岸に引っかかり、天然の橋のような形になる。
「今だ! 渡れ!」
老人がミリアの手を引き、橋を駆け抜ける。
カインも続く。
最後にアルトが渡り切った、その瞬間。
フォレストベアが橋へ飛び乗った。
だが、巨体は岩の重さに耐えられない。
バキバキッ!!
岩が砕け、フォレストベアは咆哮とともに川へ落ちていった。
「グオオオオオオッ!!」
激流が巨体を飲み込み、その姿は見えなくなる。
静寂。
アルトたちは、その場にへたり込んだ。
「た、助かった……」
カインが空を見上げる。
アルトも肩で息をしていた。
すると、《真実の眼》が静かに表示を切り替えた。
緊急クエスト達成。
報酬を付与します。
《真実の眼》熟練度上昇。
新情報を取得。
「新情報?」
アルトが確認しようとした、その時だった。
「……おにいちゃん」
ミリアが不安そうに袖を引っ張る。
「どうした?」
ミリアは川の向こうを見つめていた。
「あのくまさん……」
「くまさん?」
「逃げてた」
「え?」
アルトは目を見開く。
フォレストベアは、自分たちを襲っていたんじゃないのか?
ミリアは小さな声で続ける。
「もっと、こわいのが来る」
その瞬間、《真実の眼》が反応した。
情報を更新。
フォレストベア。
状態:逃走。
狂乱原因:解析中。
アルトの背筋が凍る。
あの化け物が、逃げていた?
では、フォレストベアを追い詰めていたものは何なのか。
風が吹く。
森の奥から、かすかに鈴の音のようなものが聞こえた。
チリン——。
チリン——。
そして、ミリアが怯えた声で呟く。
「……思い出した」
「白い服の人たち」
「みんな、笑ってた」
その瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
アルトはまだ知らない。
その「白い服の人たち」が、数日前に村へやって来た神官たちと同じ服を着ていたことを。
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