第十四話 小屋の奥の少女
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生命反応、二名。
《真実の眼》が映し出した文字を見て、アルトは思わず息を呑んだ。
目の前にいる老人が一人。
ならば、小屋の中にはもう一人いる。
「……どうしたんだ、坊主?」
老人が不思議そうに首を傾げる。
アルトは慎重に言葉を選んだ。
「おじいさん、この小屋には他にも誰かいるんですか?」
その瞬間、老人の肩がわずかに震えた。
だが、すぐに困ったような笑みを浮かべる。
「何を言っとる。わし一人じゃよ」
隣のカインが小声で囁く。
「アルト、どうした?」
「……分からない。でも、確かめたい」
カインは真剣な表情で頷いた。
「分かった」
アルトは小屋の中へ一歩踏み出す。
すると、再び《真実の眼》が反応した。
生命反応。
二名。
感情分析。
対象①:安心。
対象②:恐怖。
恐怖。
その文字を見た瞬間、アルトは駆け出した。
「待って!」
「お、おい!」
老人の制止を振り切り、小屋の奥の扉を開く。
そこにいたのは——。
「……え?」
藁の上に座り込む、小さな女の子だった。
年齢は五歳ほど。
薄汚れた服を着て、怯えた目でアルトたちを見上げている。
「女の子……?」
カインも驚きの声を上げる。
少女は老人の姿を見るなり、慌ててその後ろへ隠れた。
「やめてくれ!」
老人が少女を庇うように前に立つ。
「この子を連れていかないでくれ!」
「え……?」
アルトは混乱した。
「連れていく?」
「違います、僕たちは冒険者です。行方不明者を探しに来ただけで——」
「冒険者……?」
老人は目を丸くする。
やがて、その場に崩れ落ちた。
「そうか……教会の者じゃないのか……」
アルトとカインは顔を見合わせた。
今、老人は確かに「教会」と言った。
事情を聞くと、少女の名前はミリアというらしい。
三日前、森の入口で倒れていたところを老人が保護したのだという。
「名前以外、何も覚えておらんのじゃ」
老人は少女の頭を優しく撫でる。
「村へ連れていこうにも、森から出られなくなってしまってな」
ミリアは老人の服をぎゅっと掴んで、何も話さない。
その姿を見て、カインが小さく呟く。
「よかったじゃん。悪い人じゃなくて」
だが、その時。
《真実の眼》が静かに文字を浮かび上がらせた。
対象:ミリア
職業:???
状態:記憶封印
封印実行者:解析不能
アルトの背筋に冷たいものが走る。
記憶封印。
そんな状態、今まで見たことがない。
しかも、職業すら見えない。
「どうした?」
カインの声で我に返る。
「いや、なんでもない」
今は話すべきではない。
アルトはそう判断した。
老人とミリアを連れ、四人は森を歩き始めた。
太陽を目印に、ゆっくりと出口を目指す。
その途中、不意にミリアがアルトの袖を引っ張った。
「……おにいちゃん」
「ん?」
「うしろ」
「え?」
振り返った瞬間、《真実の眼》が真っ赤に点滅した。
危険感知。
魔物接近。
個体数:七。
「カイン!」
「来るぞ!」
直後、茂みから灰色の影が飛び出した。
「グルルルル……!」
ウルフだ。
しかも、一匹ではない。
「囲まれてる!」
カインが木剣を構える。
老人とミリアを守るように、アルトは前へ出た。
対象:フォレストウルフ。
勝率。
単独戦闘:23%。
共同戦闘:61%。
推奨行動を表示します。
「カイン、右を頼む!」
「おう!」
「おじいさんはミリアちゃんを連れて下がって!」
アルトは剣を握り締めた。
しかし、その時だった。
ミリアが小さな声で呟く。
「だめ」
「え?」
「その人たち、逃げてるだけ」
「……?」
《真実の眼》が反応する。
情報更新。
フォレストウルフ。
状態:恐慌。
逃走中。
次の瞬間、森の奥から地響きが響いた。
ドォン——。
ドォン——。
巨大な何かが、こちらへ近づいてくる。
ウルフたちはアルトたちなど見向きもせず、脇を駆け抜けていった。
カインが青ざめる。
「お、おい……今の音、何だよ……」
アルトの《真実の眼》は、まだ何も映していない。
それなのに。
ミリアだけは、森の奥を見つめながら、震える声で言った。
「来るよ」
その一言と同時に、木々の向こうで、巨大な影がゆっくりと立ち上がった。
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