第十話 秘密を知る少女
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宿の廊下。
窓から差し込む月明かりが、銀色の髪を淡く照らしていた。
アルトは目の前の少女を見つめる。
「迎えに来たって……どういうこと?」
リリアは周囲を見回し、小さく息を吐いた。
「ここじゃ話せない。」
そう言って宿の裏庭へ歩き出す。
アルトも無言で後を追った。
夜風が木々を揺らす。
人気のない裏庭で、リリアはようやく立ち止まった。
「まず、一つだけ聞いて。」
「うん。」
「あなた……最近、普通の人には見えないものが見えてるよね?」
アルトの心臓が大きく跳ねた。
「な、何を……。」
「答えなくていい。」
リリアは少しだけ笑う。
「その反応で十分だから。」
どうして。
どうして分かるんだ。
《真実の眼》のことは誰にも話していない。
それなのに。
アルトは無意識に《真実の眼》を発動させる。
対象:リリア
解析しますか?
(する。)
解析中……
解析中……
解析中……
失敗。
「え?」
初めてだった。
権限不足ではない。
解析そのものが失敗した。
まるで目の前にいる少女だけが、この世界の法則から外れているようだった。
「……やっぱり。」
リリアは苦笑した。
「見ようとしたね?」
アルトは思わず後ずさる。
「なんで、それまで……。」
「分かるから。」
「どうして?」
「今は言えない。」
その答えに納得できるはずもない。
しかしリリアの表情は真剣だった。
「でも、一つだけ忠告する。」
彼女はアルトを真っ直ぐ見つめる。
「その力を教会には絶対に知られちゃダメ。」
「教会?」
「神聖教会。」
村へ来た神官レオルの顔が脳裏をよぎる。
「もし知られたら……。」
リリアは少しだけ言葉を詰まらせる。
「きっと、自由には生きられなくなる。」
その声は、どこか悲しげだった。
「どうしてそんなことを知ってるの?」
アルトが尋ねる。
リリアは少し考えてから、小さく肩をすくめた。
「昔、似た人を知ってたから。」
「似た人?」
「うん。」
それ以上は話さない。
だが、その一瞬だけ。
リリアの瞳には、何百年も昔を思い出すような寂しさが宿っていた。
アルトは気付かない。
七歳の少女が浮かべるには、あまりにも大人びた表情だったことに。
「ところで。」
リリアが話題を変える。
「井戸へ行ったでしょ?」
「!」
「やっぱり。」
アルトは何も答えていない。
それなのにリリアは確信したように頷く。
「何か見た?」
アルトは迷う。
あの黒い霧。
赤い目。
勝率0%。
全部話していいのだろうか。
少し考えた末、声を潜める。
「勝てない相手がいた。」
リリアの表情が一瞬だけ曇る。
「そう……。」
まるで予想していたかのようだった。
「なら、近づいちゃダメ。」
「でも、あれは何だったんだ?」
「今は知らなくていい。」
「知らない方が幸せなこともあるから。」
そう言ったリリアは、どこか遠くを見るような目をしていた。
その時。
《真実の眼》が突然反応した。
新規情報を取得。
「え?」
視界に映るのは、リリアではない。
彼女の胸元で揺れる、小さな銀色のペンダントだった。
【???の首飾り】
解析不能。
理由。
対象が自ら情報を隠蔽しています。
「自分で……隠してる?」
アルトは息を呑む。
今まで情報を隠していたのは、この世界の"権限"だった。
しかし今度は違う。
リリア自身が、《真実の眼》を欺いている。
そんなことが可能なのか。
リリアはペンダントをそっと握りしめる。
そして、アルトを見て微笑んだ。
「また会うよ。」
「え?」
「今度は、もっと面白い場所で。」
そう言い残し、夜の闇へ歩き出す。
追いかけようとした、その時。
メインクエスト更新。
『冒険者ランクEへ昇格せよ』
推奨期限:14日
報酬:《真実の眼》機能解放
アルトは思わず足を止めた。
リリアの姿は、もうどこにもない。
ただ夜風だけが静かに吹き抜けていく。
「……また会える。」
その言葉を胸に、アルトは空を見上げた。
月は静かに輝いている。
その同じ月を、王都でも、そして誰も知らない魔の領域でも、同じように見上げる者がいた。
まだ誰も知らない。
その少女が、未来で世界中から恐れられる存在になることを。
そして、その少女の運命を変えるのが、ハズレ職業と呼ばれた一人の少年であることを。
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