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トッドの気持ち

この話は随分前のことだ。

どういういきさつだったのか、トッドもミルも思い出せないでいる。

初めに言い出したのはトッドらしい。


「トッド……僕はカード持ってないよ」

「ミル、大丈夫だよ。かしてあげるから」


ミルをカードゲームの世界に引き込んだのはトッドだった。


トッドの父親は教育の一環で、トッドにカードゲームをやらせた。

父親の口癖は『やるからには世界一になれ』だった。

父の喜ぶ顔が見たくてデッキの作り方や対戦相手の戦い方を学んでいった。


初めは勝つのが当たり前だった。

そのうちトッドもレベルが上がっていき、上級者と対戦することが多くなった。

そして戦績は伸び悩んでいた。


今日もトーナメント会場にトッドはいた。


「あいつが持ってるカード……もう勝てる気がしない」


トッドは前回と同じ相手に前回と同じように負けてしまった。


「手持ちのカードでどんなにデッキを構築しても、

 あのSランクのカードで全部ひっくり返されてしまう」


トッドは負けたことを父親に報告しなければならず気持ちが沈んでいた。


「トッド!こっちだよ」


声のする方を見るとそこにはミルがいた。

ミルはずっとエキシビジョンで有名なクラフトマンが作ったカードを見て楽しんでいた。


「いいよな、ミルは気楽で」

「気楽? なにそれ……それより見てよ、この人が作ったカード」

「何これ、爬虫類とか昆虫系なの?」

「そうだよ、コブラにカエルにムカデ……気持ちわる」

「だね、今にも動き出しそう」


トッドとミルの会話にカードの作者が入ってきた。


「俺は爬虫類とか昆虫のカードを作るのが得意なんだ。

 このカードを作るためにジャングルを半年さまよったこともあるんだぜ!

 一番ヤバいのは軍隊アリさ、奴らしつこいのなんの。

 狙った獲物は昼夜を問わず休まず進んで噛みつくんだよ」


トッドはショーケースの中に軍隊アリを探したが見つからなかった。


「ここにはそのカードないよね?」

「お前、頭いいな。今度それ作ろう!」

「ねえ、これらのカードはトーナメントで使えるの?」

「いいや、これは観賞用だよ」

「そっか……」


トッドは左から右へショーケースを眺めていった。

一番右端に陳列されたカードに吸い込まれるような感覚を覚えた。


「じゃあ、これは?」


トッドは一番右端のカードを指さした。


「それは俺の先輩と一緒に作ったファンタジー系の競技用カードだよ」


ミルもそのカードに顔を近づけていった。


「目力すごいね、このドラゴン」


「スゲーだろ!ジョンが作るカードは世界一だぜ」

「ちょっと待って。ジョンってもしかしておじさんのこと?」


「トレードショップの場所はどこだい?」

「バーニーズ通りだよ」


「君のいう『おじさん』はジョンのことだね。彼は元気してるかい?」

「うん、この前は僕に『月の雫』をくれたよ」


クラフトマンは目を見開いて言った。


「ちょっと待てよ、『月の雫』ってあいつ月まで砂を取りにいったのか!」

「そんなことまで知らないけれど」


そう言ってミルは自分が持っていたカード、『月の雫』を取り出して見せた。


「ちょっと具現化してもいいかい?」

「別に構わないよ」


クラフトマンはうなずいてスペルを唱えた。


「おおっ、本当だ。雫が輝いて、弾けてまた輝いては消えて行く」


それを見ていたトッドも心を奪われ、言葉を失っていた。


「いやー、良いもの見せてもらったよ。

 お礼にこれあげるよ」


そういってクラフトマンは『ファイヤードラゴン』を差し出した。


「そんなもらえないよ」


「いいんだよクラフトマンは子供から代価を求めない決まりなんだ。

 っていうかジョンは今もこっそり作ってたんだな。

 今度冷やかしに行くよ」


「おじさんもきっと喜ぶよ」


トッドとミルはそのカードに釘付けになりながら歩いていた。

ミルは立ち止まってトッドを見つめながらそのカードを差し出した。


「トッド、これあげるよ」

「でもミルがもらったんでしょ?」


「トッドは僕にカードゲームの楽しさを教えてくれたでしょ?

 そのおかげで僕はクラフトマンになる目標ができた。

 だから、これはそのお礼だよ」


「へぇーそうかい? まあ、もらっとくよ。

 でもこのカードってただ炎を吐くだけだろ?

 他にも攻撃用のカードはたくさんもってるし」


そう言いながらもトッドは手にしたファイヤードラゴンをじっと見ていた。

生き生きと描かれたドラゴンは今にも動き出しそうだった。

その様子に気づいていたのはミルだけだった。


「トッド……じーっと見とれてるよ

 そのカード気に入ってもらえて良かった」


「そんなことないよ、どうしたら役に立つか考えてただけだよ」


「へー、そうなんだ」


「なんだよ、見てるぐらい良いじゃないか」


トッドはミルにそう言われてもなお、じっとファイヤードラゴンを見ていた。


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