ミルとカードの出会い
「ミル、ジュースちょうだい」
「はいよ!」
「ミル、スナックある?」
「あるよ!」
「ミル、テーブル片付けてくれ」
「わかった!」
ミルは親友のトッドに誘われ、その美しさに心を奪われた日からトレードショップへ通うようになった。
学校が終わるとすぐに、おじさんが経営するトレードショップ『ジョンのお店』で手伝いをしている。
いつの時代も希少なものは高値で取引されていく。
カードも今はお金持ちか、どこかの王様が手にするものになっていた。
手伝いが一段落するとミルは陳列されているカードをじっと眺める。
それが彼の日課だった。
「このカード……ゼロがたくさんついてる。
僕が十回生まれ変わっても買えない金額だ」
カードたちは金銀色に輝くものだけでなく、
創成期から受け継がれてきたような古めかしさを持つものもある。
うごめく怪獣や、小さく可愛らしい妖精、怪しげな魔法使い、振り抜いた剣を天に突き立てた勇者など。
皆、想像力をかき立てるものばかりだ。
「これがビューローのシールを貼ると動き出すっていうのが不思議だよなー」
「そうだねミル」
話しかけてきたのはトレードショップのおじさんだった。
「手伝ってくれてありがとう。これで遊んでおいで」
おじさんはそう言いながらいつものようにデッキを渡そうとした。
「ありがとう。でも今日はおじさんがカードを作ってるところを見せてよ。
この前は何を作っていたの?」
「あれは『雪のバラ』というカードだよ。
バラは未だにどこで生まれたのか分かってない花なんだよ。
つる植物だからいろんなところにからまるだろ?」
「だから女神にバラがからまってるんだね!
全体的に白銀の色使い……このキラキラしてるのは何を使ったの?」
「太刀魚という魚の銀粉だよ」
「へー、おじさんって物知りなんだね」
「クラフトマンになりたいのなら……私は元クラフトマンだけどね。
もしなりたいのならミルはちゃんと学校で勉強することだよ。
多くの知識が必要だし、希少な顔料や素材のために旅をすることもあるんだ」
ミルは少しためらい、うつむきながら言った。
「僕はクラフトマンになりたい。
おじさんみたいに凄いカードを世に送り出したいんだ」
「私はミルの親じゃないからダメとも良いとも言えないな。
最後に決めるのはミル……君自身だよ」
「おじさんはどうしてクラフトマンをやめたの?」
「その話はまた今度だね。君にこのカードをあげるよ。
今までたくさん手伝ってくれたから」
「ほんと!ありがとう……このカードの名前はなんていうの?」
「このカードの名前は『月の雫』だよ」
「シールが貼ってある」
「そうだよ、無期限シールさ。このカードは『雪のバラ』と同じ観賞用のカードだからね」
「ビューローの審査はいらないってこと?」
「そういうことさ」
その晩、ミルはカードの裏面に書かれたスペルを読み上げた。
「月にかざせ!」
そうするとカードから金色とも銀色ともわからない雫が落ちてきた。
それは机に落ちると細かく弾け、輝き、消えていった。
ミルが手をかざすとポトッと落ちた雫が手のひらでパチンと軽く弾けた。
細かく散らばった雫はキラキラとした星屑のように輝きながら静かに優しく消えていった。
「……」
何度も手のひらへ落としては、輝いては消え、弾けては輝く月の雫を楽しんだ。




