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第二十八話 主従、使い魔も前衛になる


 

 2階層、3階層、4階層と降りていくたびにしっかり休憩とおやつを取る。

 ステータスが上がったクラウディオさんは、ボスはともかく、一般モンスターと一対一であればなんとか戦えていた。

 ゲートキーパーたちは、わたしがお古の槍で時間をかけて倒した。

 ルーン槍はインベントリにしまってある。


「どうですか?」

「うん、わたしもちゃんと成長してるっぽいね」


 お古の槍が持っていないかのように軽く感じる。

 鉛筆を回すように指先で弄んでから、勢いそのまま肩に担いだ。

 普段使いはこっちの槍の方がいいかもしれない。

 自分の実力がよくわかる。


「すみません。生意気言ってしまいまして」

「ううん、わたしのためじゃんね?」


 クラウディオさんの提案で、ルーン槍はあまり使わないようにした。

 わたし自身も、午前中にラージスライムをやった時、つくづく思った。

 二重刻印の各種ステータスアップに、軽量化、矢避けの加護、風纏い(かぜまとい)、火纏い(ひまとい)。

 あのルーン槍は強すぎて、使い手を弱くする。

 武器に使われて若葉マークのまま深いところに行ったら、わたしたちは呆気なく死んでしまうだろう。


「……魔剣、妖刀ですか」

「なあにそれ」

「強くなったと勘違いさせて持ち主を殺す、悪い武器のことですよ」

「うりゃあ!」

「に゙い゙い゙っ!?」


 クラウディオさんのハリのイマイチなほっぺを思い切り掴む。

 伸ばした皮が耳まで引っ付きそうだ。


 ――頑張ったり反省したり、忙しい人だなあ。


 頭のいいクラウディオさんは、すぐに自分の悪いところを見つけることができる。

 いつも足りないから、埋めようとしていろんなことができるようになったんだ。

 まあ尊敬はするけど、修正してやる!

 

「じゃあ真逆だよ。わたしたちの弱さをあの槍が教えてくれてるんだ」

「そ、そうなんですかね」

「あの槍に追いつけるように二人で頑張るんだ、ね?」

「……」

「それにあれはもうわたしの槍だよ。人の大事なものを悪く言っちゃダメだよ」

「……そうですね……うん、ごめんなさい」


 謝れて偉いじゃん!

 顔面を解放すると、掴んだところが真っ白になっていた。

 涙ぐんで両手で頬をさすっている。

 その様子を見ていると、なんだか胸が少し熱くなった。

 あのまま耳にくっつけたら――あの細い目から涙が溢れるところが見えたんだろうか?

 

 ――ん?

 

 ……なに考えてんだわたしは。

 コレ、どういう感情?

 モヤモヤした頭をブンブン振っているとクラウディオさんが歩き出した。

 その足元には4階層のゲートキーパーが転がっている。

 でっかい猪――ビッグボアは、息を引き取った後も魔石にならずにその場にとどまった。

 レアドロップのお肉だ。


「血抜きしますね」

「あっ、うん」

 

 膝をついたクラウディオさんがおもむろに手刀を放つと、巨大な猪の首がパックリと開き、血がドバドバ流れ出して岩肌を濡らしていく。


「……ええっ?」

「よし!」

「そ、その手刀どうなってんの?」


 首の切れ目から、硬い毛皮、皮膚、脂、肉と何層もの色が分厚く重なっているのが見える。

 ルーン槍で切り裂いてもこうはいかないだろう。

 

「野営術の乙種を持ってたらみんなできますよ」

「もう野営術で戦ったら?」

「ハハっ! ハジメさんは面白いなあ!」

 

 手を叩いて笑う顔に、手のひらから弾けた血が飛び散っている。

 わたしが手で拭ってあげると、クラウディオさんはお礼を言って、わたしの手をハンカチで拭ってくれた。

 

 イセカイでは使い魔は装備ができないし、生物相手に手刀は刃にならない。

 クラウディオさんはスライム以外のモンスターを全て締め殺した。

 空手は一向に上達しなかった。


「いっぱい教えてくれたのにすみません」

「ううん」

 

 ごつい指の間に自分の指を差し入れてニギニギする。

 手仕事が多い人だから皮は分厚く荒れている。

 なにかを殴るよりよっぽど人の役に立ってると思う。

 

「空手、難しいよね」

「……正直、殴ったり蹴ったりが苦手でして。可哀想だからせめて安らかにと」

「――うん? なるほどね?」


 お坊さん的には締め殺す方が優しいのかな。

 なにを言っているかよくわからないけど、下手こそものの上手なれ。

 ずっと続けてたら、そのうち締め殺しのエキスパートになるかもしれない。

 

 血抜きの終わった猪を手刀でシュシュっとやると、大きな毛皮を残して、残りは切り分けられた肉に姿を変えた。


「毛皮は仕立て屋さんに持って行ったらいい防具に仕上げてくれるかもしれませんね」

「へー、いいじゃん! 帰りによろうよ!」


 インベントリにしまって、わたしたちは帰還用魔法陣を踏んだ。

 ギルドのホールに戻ると買取カウンターには課長さんがいた。

 帰る前にステータス鑑定をさせてもらう。

 わたしのレベルは12だった。

 朝から変わっていない。

 まあ低層だし、経験値がたいしたことないんだろう。


「わたくしのステータスも一緒に見てください。見せて頂きましたし、お願いします」

「はーい」


 クラウディオさんは聖職者だ。

 もしかしたら回復魔法くらい覚えているかもしれない。

 二人で並んで水晶を覗き込む。

 

 ――――――

 

クラウディオ 42歳

種族インキュバス♂

身長202cm

体重121kg

 

寝技師レベル8

STR 15

VIT 15

AGI 4

INT 8

MND 20

FAI 60

LUK 1


魔法

 スライムアーマー

 

技能

 初級柔術、ルーン文字取扱い乙種、第二種総合錬金術師、野営術乙種、聖教巡回説教師(サーキットライダー)

 

称号

 『淫魔聖人』 淫魔でありながら童貞を貫く、神に操を立てた強靭な信仰力の持ち主。FAITH(信仰)にプラス補正。

 『巨根』 21cm


 ――――――

 

 一生懸命無理して前衛にチャレンジしたクラウディオさんは、聖職者ではなく、寝技師とやらになっていた。

 課長さんに聞いてみると、そんな職業聞いたことがないらしい。

 ただ、ステータス的には物理アタッカーらしい。


「前例のない種族に、前例のない職業。君たち面白いねえ」

 

 クラウディオさんの目が自身なさげに揺れている。

 前例がないことで知られるクラウディオさんだが、冒険者としても変な道に進んでしまった様だ。

 

 わたしはキュッと握られた弱々しい手を撫でて、じっとその目を見つめた。

 一緒に頑張ってくれるんだよね?

 ハッとした相棒は椅子から立ち上がって、天井に向かって声を張り上げた。


「ぜ、前例のないスピードで迷宮を攻略してみせますっ!」

「クラウディオさーんっ!」


 わたしが首に飛びついてもびくともしない。

 ステータスってすごいなあ。


「ギルドは応援してるからね」

 

 課長がパチパチ拍手すると、周りからまばらに拍手が聞こえてきた。

 わたしが手を振りかえしていると、目端に早足で近づいてくるヒルダさんが見えた。

 半目の中に燃えるなにかを感じる。

 やばい、騒がしくしてしまった。

 早くズラからないと。


「こ、これ、お土産です! いつもありがとうございます!」


 わたしはクラウディオさんの手を引いて、ギルドからの飛び出した。

 買取カウンターにはビッグボアの肉が残されていた。



読んでいただきありがとうございます。

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土曜日定期更新です。

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