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第二十三話 回遊少女ハジメ、寝落ちしかける



 二人でベッドに入り、体にシーツをかけたところで、わたしの快進撃は止まった。

 今は手を繋いだクラウディオさんと一緒に天井の照明を眺めている。


「すみません、甲斐性がなくて」

「ううん、いーよ。わたしも急に触られても怖いし」


 わたしの大きなお友達は、マリちゃんの100倍は紳士だった。

 熱々の手のひらから興奮は伝わってくるけど、自分からこちらになにかしようという素振りは感じられない。

 男の人と手を握るのも布団を入るのも、ヒカル以外では初めてだ。

 それがおじさんのインキュバスになるとはまったく想像していなかった。


 主導権はわたしにあるっぽい。

 なんだか責任重大で緊張してきたかも。


「ハジメさん、したくないこと、されたくないことはなんですか?」

「……えー? なんか本人の前で言いづらいよ」


 モジモジ体を捻るとシーツが擦れる音がした。

 膝がクラウディオさんの足に当たる。

 いつものレザーパンツじゃないけど、麻のズボンを履いている。

 おじさんの肌が触れたらイヤでしょう、だって。

 そういうところ好きだよ。

 

「ご飯でしょう?」

「……う、うん」

「誰にでも苦手なもの、食べられないものはあります。

 友達の好みです。知っておきたい」

「……へへっ」


 クラウディオさんの方に寄って、太い腕にしがみついた。

 カレーの匂いがする。

 なんか流れができてしまって、シャワーを浴び損ねたんだ。

 ベッドのシーツの中で足を浮かせて、麻のシャツを着たクラウディオさんのお腹の上に被せる。


「チューはできない、胸も触られたくない、あと、あれ……あの……入れるのもヤダ」

「それから?」


 天井を見つめる目は優しい。

 髪を太い腕にグリグリ擦り付ける。

 

「それくらいだよ、触るのも触られるのも、クラウディオさんなら、まあ、ほどほどならいいかな?」

「抱きしめるのは?」

「まあ、いいかな」


 クラウディオさんはわたしの枕の下に腕を入れて、枕を取り払った。

 頭が筋肉質な腕に乗る。

 ふーん、これが腕枕なのか。

 目の前には胸板でパンパンの麻のシャツ、見上げると角張ったしっかりしたアゴが見える。

 クラウディオさんは目を閉じている。


「撫でるのはいいでしょうか?」

「うん、いいよ」

「失礼します」

 

 もう片方の腕が照明を遮りながらわたしの体にかぶさってくる。

 大きな手がお風呂上がりの髪を横から後ろに流していく。

 手が暖かい。

 懐かしい。

 カレーの匂いが鼻をくすぐる。

 

 ――母ちゃん、母ちゃん。

 

 肩の力が抜けていく。

 やっぱり緊張してたんだな。

 

 息を吐きながら視線を落とすと、だぶついたシミーズの隙間から真っ白な胸の谷間が見えた。

 横になっても形が流れずに、体を揺するたびに下着と胸の隙間が見え隠れしている。

 クラウディオさんは、だから目をつぶってくれたんだ。

 わたし、相手が紳士すぎて主導権を持て余しております!

 

 ……マリちゃんとラウラさんが言うには、コイツにはそれなりの価値があるらしい。

 胸板に置いた手が少し汗ばんできている。


「……あのー……さ、触ります?」

「ふふっ、触りませんよ。お気になさらず」


 クラウディオさんは口元を緩めて笑った。

 低い声が耳たぶを揺らす。

 ひたすらわたしの髪を撫で続けている暖かな手。

 リラックスしすぎてこのままだとぐっすり眠っちゃうよ。

 この人どういうつもりなの?


 クラウディオさんの腕に抱かれながら、エッチ師匠の言葉を思い出した。


 ――聖人様は絶対になにもしてきませんわ。

 ――そしてハジメちゃんも処女のマグロ女だからなにもできない。

 ――ダブルマグロ状態、ここまでは確定ね!


 誰が魚だ、ふざけんじゃない! できる、できるよ!

 そう息巻いていたが、現在301号室には二匹のマグロがベッドに横たわっている。

 ふー。

 まぶたがゆっくりおりていく。

 ラビリオス。

 外の月。

 イセカイの星空にマグロが回遊している。

 ……はっ。

 一瞬意識が落ちた。

 

 自分でも信じられないけど、この大一番でわたしは、ウトウトしつつある!

 エッチ師匠はここまで見通していたんだ。


 頭を振ってシーツに顔を突っ込むと、クラウディオさんのお腹が見えた。

 ……?

 暗くてよく見えないがお腹の下あたりになにか影がある。

 えらく大きい、なんだろう。

 ……なんだか見ちゃいけない気がして、目を逸らした。

 

 まあとにかく、友達を呼んでおいて腹ペコで返すわけにはいかない。

 師匠、女は度胸にですよね。

 いまのわたしにできること、それをやるだけだ。


 

読んでいただきありがとうございます。

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土曜日定期更新です。

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