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第二十二話 ハジメ、使い魔を飯に誘う



 シャワーを浴びてベッドに戻ると、クラウディオさんは大きな体を小さく丸めて、まだウンウン唸っていた。

 羽と尻尾が忙しなく揺れている。


「シャワー浴びてきなよ」

「うーん」


 声を掛けても振り向かない。

 わたしはギルドから支給されたシミーズのような下着を着ている。

 いつもは長衣を着て寝ていたけど、もうめんどくさくなってきた。

 本当は家みたいにTシャツとホットパンツでいきたい。

 この下着は丈もちょうどいいんだ。


 ベッドに座ってシーツの上に足を投げ出す。

 真っ白な足、小学生の時は日に焼けて真っ黒けだったけど、日焼け止めを塗るようになってからどんどん白くなった。


 塗らないとマリちゃんが怒るのだ。

 地球に降り注ぐ太陽光線は女の敵らしい。

 足を開き、手を突き出して前に屈むと、シーツに顔がくっついた。

 股関節とお腹の筋がグッと引っ張られて気持ちがいい。


「に゙ゃ゙ーっ、伸びるー!」

「……ハジメさん、やっぱりダメですよ」

「クラウディオさんが本当に嫌なことはしないよ。ウチら友達じゃん」

 

 なにか言おうとこちらに振り向いたが、下着でストレッチしていることに気づいて、慌てて壁に振り戻った。

 街にはこの下着姿よりもずっとエッチな格好して歩いている人が山ほどいる。

 

 この人はわたしと同じエッチの若葉マークだ。

 それどころかこっちより恥ずかしがり屋なのかもしれない。

 

「そうです、でも、と、友達とエッチなことはしません」

「わたしもそう思う。でも淫魔さんはエッチなことしたらレベルが上がるかもしれないんだって」

「……誰かから、聞いたんですか?」

「サキュバスの友達ができたんだ。今度紹介するね」

 

 クラウディオさんは壁に向いたまま首をさすっている。


「……レベル、淫魔、エッチ……その発想はありませんでした」

「ふふふ」


 なーに馬鹿なことを言ってるんだか。


「わたしウソは嫌いだよ」

「……」

「知ってたんでしょ」

「……すみません」

「いいよ。優しいウソは好きだから」


 ベッドから降りて、背中を丸めた相棒の元に向かう。

 はち切れそうなレザージャケットの下には、太い骨格とでかい筋肉がパンパンに詰まっている。

 ラウラさんが言うにはインキュバスの平均身長は155cm前後で、歳を取っても少年のように若々しい。

 200cmを超えるこの人は突然変異のような存在らしい。

 

 そっと後ろからそっと抱きしめると、肩がびくりと跳ね上がった。

 あったかい感じだけど、ドキドキとはなんか違うかな。

 今まで会った男の人で一番信用できるけど、わたしはこの人でも恋愛とかにはならないのか。


 クラウディオさんは緊張でガチガチだ。

 気にしないで手を回す。

 ひんやりしたレザージャケットが素肌に重なった。

 顔を寄せる。

 合わせた頬、細い呼吸が聞こえる。

 厚い胸板から手をすべらせて、お腹の真ん中をとんとん叩く。


「お腹が空いてたんだよね?」


 わたしの頬を擦りながら、クラウディオさんは頷いた。

 顔からカレーの香りがする。

 いっぱい食べてくれて良かったな。


 ――おっきな体。

 

 この人は、その種族的な飢餓を誤魔化すように、必死に人間のご飯を食べ続けてきた。

 でないとこんな体にはならない。


「……わたくしの、レベルが上がった方が嬉しいですか?」


 低い声が発せられると、くっつけたほっぺから響きが伝わってくる。

 クラウディオさんの顔はとっても冷たい。

 お酒はすっかり引いてしまったようだ。


「そりゃあ嬉しいよ。頼れる友達と一緒に迷宮に潜れるんだからさ」


 何かを握り込む音がした。

 丸太のように膨らんだ太ももの上、大きな握り拳が軋んでいた。


「そっ、それならリロール――むうっ!?」


 広げた手のひらでパチン、とお行儀の悪い口を塞ぐ。

 

「でもそれ以上に――一緒にご飯を食べて欲しいんだ」

「……むぐっ、ご、ご飯、ですか?」

 

 レベルは上がらなくてもいい。

 迷宮に行くわたしを、ここから応援してくれてていい。

 壁に向かって手を伸ばして、手のひらをこちらに向ける。

 大きな友達にほっぺをくっつけながら、指を一本ずつ折っていく。

 

「入学式はガストでネギトロ丼。

 試合に勝ったらチラシ寿司。

 日曜日はカレー。

 バイト代が入ったら友達とマクドナルド。

 ……ご飯を食べてるとね、わたしは生きててよかったって思うんだ」


 一本残った小指を二人で見つめる。


「友達がお腹空かせてたら、なんだって作ってあげたい。奢ってあげたい。

 これってさ――いやらしいことなのかな?」


 ラウラさんの主人はゲイの人らしい。

 でもラウラさんが辛そうだからって付き合ってくれている。


 クラウディオさんはわたしの小指にそっと手を伸ばして、優しく折りたたんだ。

 そして首から下げたロザリオを握りしめる。


「主よ、異界の神よ、我が友よ、あなた方の慈しみに感謝して、この食事をいただきます。光あれ」

 

 祈りで瞑った目尻から涙がとめどなく溢れてくる。

 どちらともなく立ち上がった私たちは、手を繋いで、ベッドに向かった。


 

読んでいただきありがとうございます。

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土曜日定期更新です。

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