第二十一話 主従、人間のご飯を食べる
――人の気持ちになって考えなさい。
母ちゃんに口酸っぱく言われて育ったけど、あまり好きな言葉ではなかった。
向こうはそれほどこっちの気持ちになってくれないし、この言葉を武器のように振りかざす連中にも辟易した。
でもその相手が家族なら? 友達なら?
ケースバイケースなんだ。
全員相手にはできないけど、好きな人相手ならできるし、やったらみんな笑顔になった。
「……お、怒らないんですか?」
恐る恐る伺ってくるクラウディオさんは両手にナイフとフォークを持っている。
ハンバーグを特に気に入ってくれたようだ。
「うん。わたしもクラウディオさんのあんな姿、もう見たくないよ」
そういうわたしはチャーハン!
スプーン大盛り、口に運んで味わっていると、クラウディオさんはほっとした様子で、ハンバーグをナイフで切り取った。
わかるよ。
あなたもわたしの泣いてるトコを見たくないんだよね。
「嫌がることはしない、パートナーじゃんか」
「……はい!」
クラウディオさんが口いっぱいにお肉の塊を頬張った。
口端にケチャップをつけて、細い目を糸のようにしながら咀嚼している。
六畳間、みんなでテーブルを囲んだ、弟の誕生日が胸をよぎる。
ヒカル、やっぱりデミよりケチャップの方が美味しいんだよ。
白ワインでチャーハンの名残を喉に流し込むと、クラウディオさんもグラスを傾けて口に含んだ。
「クラウディオさん――今日は一緒に寝ようよ」
「――っ!? ゴホッ、ゴホッ!?」
「変な意味じゃないよ」
「はあ、はあ……はい? ああ、はい……怖かったですものね、勿論いいですよ!」
ナプキンで口元を拭って、胸を撫で下ろしている。
空になったグラスにワインを注いであげると、グイッと煽って、大きく息を吐いた。
この人なんか勘違いしてない?
ちゃんと言わないとわかんないか。
「美味しいですねえ」
「……エッチなことをしよう」
「――?」
首を傾げる相棒にもう一度ワインを注ぐと、じっとグラスを見て、水を飲むように一気に煽った。
なんだか混乱しているみたい。
角で天井を掻き回しそうな勢いで、頭をぐるぐると回している。
「え、エッチな? なに? 変な……え?」
「なーんか変なこと考えてない? そういうんじゃなくて、ただのエッチなこと! もうっ、やめてよね」
「……うーん、うーん」
「淫魔の食事はエッチなことなんでしょ?
じゃあいやらしいとかなんとか言ってらんないじゃん。
やらなきゃいけないことなんだから」
手で顔を覆うクラウディオさんを横目に、立ち上がって食器の片付けを始める。
残りは明日食べればいいや。
それにしても一階がキッチンなのは遠すぎるなあ。
食器を重ねて通路に向かうと、クラウディオさんは頭を抱えて仕切りに唸り声を上げていた。
飲みすぎたのかな? ちょっと奮発して水でも買ってこよう。
広場で買った水を抱えて階段を登っていると、一人で降りてくるラウラさんと出くわした。
鳩尾まで見えそうなほど胸元が開いたマーメイドドレスを着ている。
ハリウッドスターみたいでかっこいい。
「押忍!」
頭を下げると、すれ違いざまに肩を叩いてそのまま外に向かっていった。
教えてもらったからには、師匠? でいいのかな。
とにかく、わたしは人に恵まれている。
ゆっくり階段を登っていき、自室の前で立ち止まる。
大きく息を吐いて、金属板を押し当てた。
押忍! よろしくお願いします!
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